見出し画像

プラスチックごみをロケット燃料に再利用。スコットランド発ベンチャーが考える責務とは【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#17】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第17弾となる今回のテーマは、未来への責任です。小型ロケットを開発するスコットランドのスタートアップSkyrora(スカイローラ)のビジネスオペレーションマネージャーを務めるデレク・ハリスさんをお迎えして、ロケットの特徴や創業の経緯、同社がコミュニティとのかかわりを大切にしているわけをうかがいました。

プラスチックごみから作るエコ燃料でロケットを打ち上げ

©︎小山宙哉/講談社

せりか:デレクさん、よろしくお願いします。Skyroraの小型ロケットの打ち上げには、プラスチックごみから精製した環境にやさしい燃料が使われる計画だと聞いて驚きました!

デレク・ハリスさん

デレクさん:よろしく、セリカ!エコ燃料や3Dプリンターをはじめ、先進的な技術に携われるのは面白いですよ。私はもともと銀行でファイナンシャル関連の仕事をしていました。次に自分がやるべきことを探していた時期に、偶然Skyroraで友人が働いていたこともあり、創業をサポートし始めました。最初は6カ月契約だったのですが、契約の更新を続けるうちに5年も経っていました(笑)

Skyroraのロケットの特徴は、太陽同期軌道*に衛星を直接投入できるので、時間と費用を節約できること。

ほかの企業のロケットがバスだと例えるなら、私たちSkyroraのロケットはラストワンマイルとしてタクシーやリムジンのように展開しています。そして、セリカが言ってくれた通り、プラスチックごみから精製する燃料を使うことも特徴です。

*太陽同期軌道:太陽の光の当たり方が常に一定になる軌道のことです。データの解析がしやすいことから、地球観測事業者に人気の軌道のひとつとなっています。異なる軌道に投入されるロケットに衛星を相乗りさせて打ち上げる場合は、ロケットから放出された後に希望する軌道に投入する「軌道投入機」を利用する必要があります。

せりか:なぜSkyroraはプラスチックごみから燃料を精製することにしたのでしょうか?

デレクさん:ほかのロケット企業との何か違いを生み出したかったからですね。そして、持続可能かつ未来に対して責任を持てる燃料を使いたいという思いから、プラスチックごみに行き着きました。

Skyroraが本社を置くスコットランドの首都・エディンバラは、リサイクル技術をはじめとするグリーンテックに注力している街です。スコットランド沖には北海油田があり、石油産業はスコットランドの経済成長を支えてきました。こうした背景から、スコットランドは二酸化炭素の排出量の多さなども指摘されていて、世界的に見ても環境問題への意識が高いといわれています。

せりか:スコットランドの強みでもあるグリーンテックを生かしたロケットを開発しようと考えたわけですね!プラスチックごみから精製する燃料は新エネルギーのひとつとして注目されています。どのようにして精製していますか。

デレクさん:精製のプロセスはウイスキーの蒸留に似ているんですよ!プラスチックを燃焼させて、あるタイミングで取り出すとディーゼル車用の軽油になりますし、別のあるタイミングで取り出すとロケット用の燃料になります。セリカが言う通り、プラスチックから重油を取り出す技術は開発されていました。しかし、ロケットは高品質な燃料が必要で、それを精製できるようになるまでが大変でした。まさにSkyroraの化学エンジニアの努力の結晶とも言えるでしょう。

宇宙が地球の暮らしを豊かにする

せりか:Skyroraが掲げるミッション「To realise the tangible benefits of responsive access to, and responsible exploration of space for the increased well-being of life on Earth(宇宙への迅速なアクセスと責任ある探査がもたらす利益を実現し、地球上の生命の幸福度を高める)」にも、未来に責任を持とうとする姿勢が現れていますね。ところで、Skyroraはどのような経緯で創業した企業なのでしょうか。

デレクさん:Skyroraは2017年6月に創業した若い会社です。Skyroraの創業者兼CEOのヴォロディミル・レヴィキンはウクライナ出身で、ウクライナのロケット技術を活かせると考えて創業しました。

せりか:旧ソ連時代のロケット開発の第一人者とも言われる技術者セルゲイ・コロリョフもウクライナ出身だと知られています。ソユーズロケットの開発にはウクライナ出身のエンジニアも多く参加していて、ウクライナはロケット開発の技術が蓄積しているそうですね!

デレクさん:そうですね。先ほどせりかが紹介してくれたSkyroraのミッションは、自然と考えられたものなんです。ロケットが打ち上げた衛星は、温室効果ガスの排出量を観測したり、オゾン層の保護にも役立てられたりしていますよね。それが結果的に人々の暮らしや環境を豊かにすることに繋がっています。

せりか:確かに衛星が観測したデータは地球環境の保護に役立てられていますね。衛星だけでなく、人々も宇宙に行くべきだと考えますか。

デレクさん:会社への質問なのか、私自身への質問なのかでも回答が変わる質問ですね。どちらにしても、人類が宇宙に進出していくことは良いことでしょう!新たな技術が生まれたり、セリカがISSで研究をしていたように医学研究に貢献したりしています。しかし私たちは同時に、責任についても考えています。どれだけ貢献していても、大量の温室効果ガスを排出したり、あるいはスペースデブリを発生させてしまったりしていては全く意味がないですよね。

もう一つの宇宙を目指す理由は、純粋に宇宙に何があるか知りたいし、美しい星をもっと見たいからです。人間には探究心が根付いていますよね。

スコットランド流、ローカルコミュニティと進める宇宙開発

せりか:デレクさんはどんなときにやりがいを感じますか。

デレクさん:やはり先進的な技術に携われるのは有意義なことです。例えば、2022年10月にアイスランドの射場から初めてロケットを打ち上げたときは、銀行に勤めていた頃には味わえなかったイノベーションを感じましたね。


©︎Skyrora 
Skyroraは2022年10月にアイスランドの射場から試験打ち上げを行いました。
惜しくも軌道投入までは至りませんでしたが、次の打ち上げに向けて現在も準備を続けています。

それから、Skyroraで働いているとコミュニティに価値を還元できるという感覚が強くあるので、その面でもやりがいを感じています。

せりか:それは、どんなコミュニティに対してでしょうか?

デレクさん:例えば、ローカルの住民の皆さんとのコミュニティがあって、「私たちSkyroraがやっている活動についてどう思いますか?」とフィードバックを得られる機会を設けています。先日はマンチェスターで開催された学生のカンファレンスに参加して、エンジニアのたまごの皆さんにSkyroraのことをプレゼンテーションで伝えたり、交流したりしました。

せりか:宇宙開発は遠い存在だと思われてしまいがちですが、Skyroraは近隣の皆さんや学生との距離が近いんですね。

デレクさん:これはスコットランド流の特殊なやり方だと思っています。基本は自分たちをいつでもアベイラブル(すぐ利用できる)ようにしておくことです。一般的に、企業は市場に参入すると競争に勝つこと、そして市場シェアを拡大することを目指して動くことが多いと思います。

しかし、Skyroraが意識しているのは、ローカルのコミュニティの一部になることです。例えばロケットを打ち上げる射場を建設するのに必要な資材は地元の業者に注文しました。仕事を通じて、ローカルのコミュニティの皆さんに宇宙利用の価値を還元していきます。

せりか:異業種の皆さんも巻き込んでいくことで、新しいアイデアやビジネスも生まれていきそうです。最後に今後に向けた意気込みを教えてください!

デレクさん:まずはロケットの第一段のメインエンジンに実際に燃料を入れて燃焼させ、性能を確認する「地上燃焼試験」を行います。その次は、ロケットの打ち上げです!さらに、軌道上の衛星の燃料を補給したり、修理したりする宇宙機も開発中です。こちらもぜひ注目していてください!

せりか:次回のロケットの打ち上げが楽しみです!ありがとうございました。

せりか宇宙飛行士との対談企画第17弾は、Skyroraのビジネスオペレーションマネージャーのデレク・ハリスさんにご登場いただき、プラスチックごみを再利用したロケットビジネスの動向や宇宙開発の必要性をうかがいました。

次回は、ミクロの世界を実現する顕微鏡観察装置「MID(Micro Imaging Device)」を開発する宇宙バイオ実験ベンチャー、IDDKのCEO上野宗一郎さんとCSO池田わたるさんにお話をうかがいます。お楽しみに!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?