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Once a Swifty, Always a Swifty

この文章には「ミス・アメリカーナ」のネタバレとなる表現・著者の解釈を含んだ訳文が含まれています。ご注意ください。

1. When I met Taylor Swift


彼女と出会ったのは私が12歳くらいの時だったかと思う。当時話題だったJustin Bieberがデビューするきっかけになった動画をYouTubeで探していたら、関連動画に「Teardrops On My Guitar」のPVが表示されていて、そのサムネイルが一際美しく、再生せずにはいられなかった。英語の歌詞の意味はよくわからない。けれど、夢中で他の動画を見漁った。


耳に入ってくる音が、声が、発色しているようだった。淡いピンクや優しいのに悲しみを帯びたブルー、ピュアなホワイト、輝きを秘めたままではいられないプラチナゴールド、たまにちらつく激情のレッド、小さい頃から一緒にいるテディベアみたいなあたたかいくすんだベージュ、優しく包んでくれるオリーブグリーン。見る角度によって違う色を持つオパールみたい。

当時まだ小学生だった私は、好きな人を思ってギターに涙を落とすのも、キスできなかったことを後悔しながら歩く帰り道も、雨の中傘もささずに踊るのも、助手席で片手で車を運転する彼との歌を作りたいと思うのも、誰かを愛しすぎたあまりにジェットコースターみたいに振り回されておかしくなっちゃうことも、当然全部未経験だった。でも、彼女の歌を聴いていると、まるでそれらの全部が自分に起こったことかのように感じたのだ。今でも、はいはい、あれね、なんて、自分のエピソードとしてするする話せてしまいそう。

彼女のつむぐ歌詞の意味をどうしても正しく、同じ視界で理解したくて、英語を学んだ。胸を躍らせながら歌詞をノートに書き写した、辞書片手に決して上手とは言えない訳を添えながら。


There's somethin' bout the way
The street looks when it's just rained
There's a glow off the pavement
Walk me to the car
And you know I wanna ask you to dance right there in the middle of the parking lot, yeah

この道って特別な何かがあるのよね
雨が降ると光が反射してアスファルトがきらめいて見える
車にエスコートしてくれる?
ねえ、今すぐここであなたと踊りたい 駐車場の真ん中で

We're drivin' down the road
I wonder if you know I'm tryin' so hard not to get caught up now
But you're just so cool
Run your hands through your hair
Absent-mindedly makin' me want you

車に乗って ふとあなたは気付いてるのかなと思う
今この瞬間、あなたのことを好きになり過ぎないように必死なの
だけどあまりにかっこよすぎるから
ほら、髪をかきあげる仕草だって あなたを欲しがらずにはいられない

And I don't know how it gets better than this
You take my hand and drag me head first
Fearless
And I don't know why but with you I'd dance in a storm in my best dress
Fearless

これ以上に素敵なことってあるのかな
あなたが手を取って私をリードしてくれて
怖いものなしだって思えるの
どうしてかは分からないけどあなたといると踊りたくなる
大雨の中で1番のお気に入りのドレスだけど そんなのどうでもいいの
(Fearless)


The way you move is like a full on rainstorm
And I'm a house of cards
You're the kind of reckless that should send me running
But I kinda know that I won't get far
And you stood there in front of me just close enough to touch
Close enough to hope you couldn't see what I was thinking of

あなたといるとまるで暴風雨に巻き込まれてるみたい
私はトランプで作った家みたいに脆いのに
その向こう見ずさについ逃げ出したくなるんだけど
自分でもそこまで遠くには行かないだろうってどこかで思ってる
目の前のあなたは手を伸ばせば届く距離
あまりに近すぎるから私の考えてることが全部伝わりませんようにって祈るの

Drop everything now
Meet me in the pouring rain
Kiss me on the sidewalk
Take away the pain
'Cause I see sparks fly whenever you smile
Get me with those green eyes, baby, as the lights go down
Give me something that'll haunt me when you're not around
'Cause I see sparks fly whenever you smile

ねえ、今全てを捨ててよ
降りしきる雨の中会いに来てほしい
道端でキスして痛みを取り去って
だってあなたが微笑む度に火花が散るの
その緑の瞳で私を捕まえて 光が消えてしまわないうちに
あなたがそばにいない時にも繋ぎ止めてくれる何かをちょうだい
だってあなたが微笑む度にきらきらと火花が散るから
(Sparks Fly)


Loving him is like driving a new Maserati down a dead-ended street
Faster than the wind, passionate as sin, ending so suddenly
Loving him is like trying to change your mind once you're already flying through the free fall
Like the colors in autumn so bright just before they lose it all

彼を愛すること、それは新車のマセラティで行き止まりの道へ突っ込むようなもの
風よりも早く罪深いほど情熱的 けれど終わりは突然やって来てしまう
彼を愛すること、それはもう心変わりしてしまった人を必死で引き留めようとするみたいなもの
彼を愛すること、それはまるで散り際に一際鮮やかになる秋の紅葉みたい

Losing him was blue, like I’d never known
Missing him was dark gray, all alone
Forgetting him was like trying to know somebody you've never met
But loving him was red

彼を失うことは青、今まで知らなかったような青色
彼の面影を恋しく思う私は灰色で孤独を感じてる
彼を忘れること、それはあなたが知らない誰かと知り合うこと
でも、彼を愛すること それは赤色
(Red)



交際関係の派手さやプライベート、若者のアイコンとしての姿に関心が集まる時期もあったが、私はその点にはさして関心がなく、歌から分かる情報のみから彼女という人間を理解したかった。
彼女を通して自分の世界が広がっていく。年を重ねるにつれて恋もしたり、失恋もしたり。その度に彼女の歌を聞いて、これは自分のための歌だ、と確信していた。


2. Say goodbye to her


だが、ある時を境に、そう感じることができなくなったのだ。「Shake It Off」を含む当時の新アルバム「1989」を聞いた時だ。彼女に出会ってから5年と少し経っていたが、初めてこの音楽は自分へ向けたものじゃない、そう思った。
雨が降った後のアスファルト、飛び散る火花、魔法にかかったみたいな完璧な夜、そんな日々の中から大切にすくいあげたようなきらめきはそこにはなかった。その代わりに、ミラーボール、汗ばむくらいの強いスポットライト、鮮やかな原色のような非日常的な輝きがあった。

あまり音楽には詳しくないが、彼女の原点とも言えるカントリーソングの要素はすっかり排除されてしまっていたように思えた。正確に言えば、その前作のアルバム「Red」から薄々そう思ってはいた。「We Are Never Getting Back Together」「22」「I Knew You Were Trouble」などの楽曲は、まさにポップスど真ん中だった。しかし、それは彼女のトライであり、まさか次のアルバムでポップスに完全に“侵食されてしまう”などとは思っていなかったのである。

聞きこめば何かが分かるはずと思い、アルバムを繰り返し聞いた。でもだめだった。何より、彼女本人が音楽にのせて言っていた。

‘Cause the players gonna play, play, play, play, play
And the haters gonna hate, hate, hate, hate, hate
Baby, I'm just gonna shake, shake, shake, shake, shake
I shake it off, I shake it off
Heart-breakers gonna break, break, break, break, break
And the fakers gonna fake, fake, fake, fake, fake
Baby, I just gonna shake, shake, shake, shake, shake
I shake it off, I shake it off

だって遊び人は遊び続けるし
私を嫌う人たちは何だって嫌うもの
だから全部振り払うことにする
心無い人たちはずっと人を傷つけるし
嘘つきな人たちだってずっと嘘を重ね続ける
そういう人たちの言うことなんかに構ってあげる時間はないの
もうそんなの気にしてなんかいられない


気に入らない人は好きにして、もうそういうのに構ってられないから。自分の好きなことをするから。
私はじめ、Taylorに対して失望・困惑・批判する人たちに、私が彼女とのコミュニケーションツールだと思っていた歌を通して、そう答えをくれていた。

変わってしまった。もう幼い私が憧れ、焦がれた彼女はいなくなった。引き出しの奥の方にそれまでの思い出は全部しまい込んで、厳重に鍵をかけた。
私はそこから「1989」以前の曲も含め、彼女の歌を自発的に聞くことはなくなった。


3. NEW Taylor, NEW me?


生活の中に彼女が不在の日々は過ぎ、私はやがて社会人になった。社会人になるって、こんなにも色んなことを我慢して、辛抱して、あ、でももちろん不機嫌になってはだめ、反感を買わない程度に笑顔でやり過ごさなくちゃいけないんだ。疲れるけど、そうしないと誰からも必要とされなくなるんだから仕方ない。そうやって自分を誤魔化しながら騙し騙し過ごしていると、きっとどこかで限界が来るのだろう。そう分かりつつも、何もできないのだが。

そんな中、友人から突然LINEが来た。


「ちょっとやばい、Fearless聞いて、すぐ」


Fearless?その単語に一瞬胸が高鳴ったが、何を今更と思いつつ、出先だったのでApple Musicで検索した。私はあれ以来、彼女の歌をダウンロードすらしていなかった。すると、「Fearless(Taylor’s Version)」の文字。なんと2ndアルバム「Fearless」が再録され、リリースされていたのだ。

彼女のインスタグラム(これも見るのはとても久しぶりだった)には、以下のようにつづられていた。

「Fearlessは魔法と好奇心、若さゆえの幸福感やひどく打ちのめされる感覚にあふれたアルバムだった。ティーンエイジャーの女の子が、映画で観ていたみたいな完璧なおとぎ話のエンディングに綻びを見つける度に、小さな教訓を学んでいく冒険を記した日記みたいなもの」(抜粋)

聞かなくちゃと思ったけれど、怖かった。同じくティーンエイジャーだった私のきらめく思い出としてしまったものを引っ張り出して、傷つけてしまうのではないかと恐れた。現在の彼女が過去の彼女を否定していたらどうしよう。そんなことはしないだろうと思いつつも、踏み切れなかった。
なので、アルバムを聞く前に、NetflixのTaylor Swiftのドキュメンタリー映画「ミス・アメリカーナ」を見ることにした。実はずっと気になっていて、マイリストに入れていた。私は結局、しまいきれていなかったのだ。

「ミス・アメリカーナ」は、彼女の変化の物語だった。ずっとデビューした時から、良い子だと思われたいと、他者の視線を気にして行動してきた。受賞スピーチに乱入したカニエウエストに暴言を吐かれても、ことを荒立てないようにした。周囲の視線が体型に向けられていると分かると、過度な食事制限を行うあまり、摂食障害を患ったこともあると告白。カントリーバンドのディクシーチックスが残した教訓から政治の話題についても言及しないと決めていた。口出しは厳禁、それがルール。良い子は意見を押し付けないから、笑顔で手を振りお礼をする。

そんな彼女が変化する、せざるを得ないきっかけになったのは、性的被害を受けたことだった。被害者として出廷した彼女には、「なぜ黙っていた?」「なぜ逃げなかった?」というひどいセカンドレイプの声が容赦なく浴びせられた。
証拠があってもこんなに人間性を踏みにじられる結果になるなら、ない場合は泣き寝入りするしかないのか。声を上げられなかった人はどうなるのか。いかなる局面に立たされても、信念を持って言いたいことを言おう、彼女はそう決心した。

故郷であるテネシーで議員選挙に出馬している共和党のマーシャ・ブラックバーンがDVやストーカーなどの暴力から女性を守る法に反対し、同性婚にも反対の姿勢を示していることに耐え切れなくなり、ついに良い子としての我慢の限界が来た。民主党支持の意を示せば、観客は半分になりかねないけれど、そのリスクを踏まえても彼女は口を開いたのだ。

涙が止まらなかった。彼女は変わっていた。でもあの時みたいにもう失望なんてしていなかった。


思い出を覗き見ると、若さゆえにきらきら輝く魔法のような世界で、舞い上がるような気持ちになったり、かと思えば絶望に突き落とされたり、尊いおとぎ話のような輝きがあった。今の彼女には同じ輝きはないけれど、違う輝きが確かにあった。強く立つ、勇敢な光。

いや、彼女は変わっていなかったのかもしれない。毎日自分を誤魔化しながら、口を閉ざし、周りから必要とされるためにやらなくちゃいけないチェックリストをこなしているような私にも勇気をくれた。明日から何かが変わるわけじゃない。でも、確実に勇気をくれたヒーローだ。それは、ティーンエイジャーだった私の世界を大きく広げてくれた彼女と、何が違うのだろう。

Girl, there ain’t no I in “TEAM”
But you know there is a “ME”
And you can’t spell “AWESOME” without “ME”
I promise that you’ll never find another like me


「TEAM」に「I」の文字はない もちろん勝手をするのはダメ
だけど見て、「ME」の文字は入ってる 自分をぶらさないのは大事なの
「AWESOME」って書くのにも「ME」は必要でしょ
自分なしには最高は語れないってこと
断言する、あなたは私みたいな人にはもう出会えないってね
(ME!)


「1989」以降の曲もすべて聞いた。そして最新作の「Fearless(Taylor’s Version)」も聞いた。再録されたことでまるっきり違う楽曲になっていたらどうしよう、と思って聞いたが、まったくそんなことはなかった。大切にしまっていた一つ一つの愛おしい思い出を大事に大事に引き出してくれるような感覚だった。

彼女は変わった。今は強く勇敢な輝きをもって、堂々と立っている彼女。けれどその後ろには今までのおとぎ話のような優しいオパール色の光も、ミラーボールのようなギラギラとした非日常的な眩しさも、全部確かにある。そしてその姿が私はじめ誰かのヒーローに今も昔もなっていることは不変なのだ。その姿を見て私も何かを変えたい、と思っている。そのアンセムはすでにこの手の中にある。

今改めてこの言葉が言えることが、とてもうれしい。


ありがとう、Taylor。
Long live, Taylor.
Halleluiah, Taylor.
これからもあなたの輝き、きらめきをたくさん目に焼き付けていくよ。

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