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人間の価値は給料で決まるのか、どうなのか。

どうやら私は洗脳されていたらしい。

『給料はあなたの価値なのか』というタイトルを見て、まず思ったことは、
「あー、そうなんじゃないっすかね」だった。

私は社会人生活のほとんどを非正規で送ってきた。
それが、私という人間には相応なのだと思っている。
立派な大学を出たわけでもないし、コミュ障だし、すぐにテンパってしまうし、要領も悪い。ついでに見た目もよろしくない。あ、なんだか自分で悲しくなってきた。
なので、就職氷河期だったことを考慮したとしても、まあ、仕方がなかったのかな、と思う。
安月給だけど、私の価値なんてこんなもんだろう。
むしろこんな私を雇ってくれて、今までのすべての会社よ、ありがとう。

『給料はあなたの価値なのか 賃金と経済にまつわる神話を解く』(ジェイク・ローゼンフェルド /川添節子 訳・みすず書房)は、そうやってヘラヘラしている私の頬を、思いっきりぶん殴ってくれる一冊である。
「目を覚ませ!! 思い込みを捨てるんだ! それは洗脳だぞ!!!」と。

版権ドットコムより

いやあ、でも私、本当に何にもできないんです。
だから、しかたがないんです、給料安くても。
という考え方自体が間違っているのだと、ローゼンフェルド氏は言う。

お給料は何によって決まりますか?
という質問をすると、ほとんどの人が「仕事の成果」と答えるそうだ。
ところが、実際に「仕事の成果」で給料が決定するケースはほとんどない。なぜなら、仕事の成果は、うまく可視化することができるとは限らないからだ。
たとえば、ものすごく人を褒めることが上手な人がいたとする。その人が褒めてくれることで、誰かの営業成績が上がっているとしよう。この場合、成果として捉えられるのは「営業成績」という目に見えるものだけだ。褒め上手というのも立派なスキルだと思うのに。

にも拘わらず、人々は頑なに「成果主義」を信じているのだという。
一部の「エリート」のモチベーションは上がるかもしれない。
けれど、私みたいに何にもない人間からすると、成果主義を信じることは毒にしかならない。

世界中、どこの国でも「企業が直接雇用していない」派遣や非正規といった働き方が増えている。そうした仕事に就いている人たちは、みな、私と同じように「自分にはそれくらいの価値しかないから」と思っているそうだ。
成果主義を信じているからだろう。
さらに低賃金、かつ雇用が不安定な状態が長く続くと、人は自尊心を失ってしまう。
自尊心を失うと、人は考えることをやめる。

長いこと非正規で働いていることに、私は疑問を持ったことがなかった。
そう、まさに自尊心を失っていたからだ。
なんにも考えないということは、従順であることに似ている。
以前、何かの選挙で大物政治家が「投票率が低いほうがいい」というような発言をしていた。きっとそれは「何も言わない(無投票)ってことはイエスという意味」だと捉えているのだろう。
何をされても黙っている。操る人間からしたら、こんなに楽なことはない。

さらに、派遣や非正規労働者からは、ある権利がはく奪されている。
それは、労働組合を結成することである。
企業と直接労働契約が交わされていない場合、労働組合員にはなれない。
従順な羊のような私たち非正規は、団結する力もそがれているのである。

従順で、団結する力を持たない働き手が増えるとどうなるのか。

人員削減が容易になるのである。

現在、大企業と呼ばれる会社のほとんどが株式資本主義で動いている。
株主が経営者よりも力を持ってしまっているので、経営理念なんてそっちのけで、いかに株価を上げるかばかりを気にするようになった。
てっとりばやく利益を上げて、株価をあげたい。
その一番カンタンな方法が「人員削減」なのだという。

ひどい、ひどすぎる!!!
私たちは、お金持ちがさらに富むためのマネーゲームの駒でしかないのだ。
捨て駒として作られただなんて悲しすぎる!!!
「何にもない私みたいなのを雇ってくれて、ありがとう」なんて言っていたかと思うと、狂気でしかない。まさに洗脳状態ではないか!!!

しかし、捨て駒であることを訴えようにも、私たちには労働組合がない。
雇用主は政治と結託して、労働組合を作れないような雇用形態にしたからだ。(アメリカには労組結成を阻止するためのコンサルや法律事務所もあるらしい!)

派遣や非正規で働くことを、自己責任だという声があるのは承知だ。
でも、その背景にはまるで人間牧場のような仕組みがあったのだ。
何にも知らないで今まで生きてきたことが本当に怖い。

この本を読んで、ふとメーデーという言葉が思い起こされた。
祖父の形見の「俳句季語集」でしか見たことのないレトロな言葉だ。
しかし、今、必要なのはまさにこのメーデーなのかもしれない。
団結し、声をあげること。
数の力を見くびってはいけないのだ。

権力のあるものが恐れているのは、いつだって団結力だ。
雇用主が必死になって労組を作らせないようにしているということは、それが脅威だからだ。
独裁者たちも、いつだって世論を統制したがっている。

とりあえず、選挙には必ず行こう。
(選挙権を持ってから毎回行っているのだが、政権公約をちゃんと読んでいなかった)
私たちは無力じゃない。従順な羊でもない。
ちゃんと生きてるし、声がある。そう伝えるために。






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最後までお付き合いいただきありがとうございます。 新しい本との出会いのきっかけになれればいいな。