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昔女の子だった私と、今女の子の君。

図書館で、司書として働いている。
毎日たくさんの蔵書とともに過ごしているわけだが、その全てを知り尽くしているわけではない。(もちろん、得意分野はそれぞれあるけれど)
利用者さんがカウンターに持ってきて初めて「うわあ、こんな面白そうな本、どこに隠れてたんだ!?」と、その存在に驚かされることがしばしばだ。皆さん本当に目利きで、何万冊もある中でよくぞまあ見つけて下さいました、と言いたくなるほど珍しい本を借りていかれる。そして、ものすごくそそる本なのである。

私は利用者さんが見出した本を、こっそり「あとで読む本リスト」にメモしている。小さな町の図書館だから、利用者さんの顔も名前も知っている。
お互いに「この本良かったよ」「何か面白い本はない?」と情報交換するのが楽しい。これが、司書の特権だと思っている。
Amazonのレビューも参考にしているけれど、やっぱり、顔の見える人が読んだ本というのは信頼度が違う。

Aさんは、こういうタイプの本が好きだものね。
Bさんが言うのなら間違いないな。

読みながら、おススメしてくれた人の顔を思い浮かべる。
あの人はどういうことを考えながらこの本を読んだのかな・・・。
本を書いた人、読んだ人、そして今読んでいる私。それぞれの視点を想像すると、一冊の本が何倍も面白くなっていく。
読書は孤独な趣味ではない。立派なコミュニケーションだと私は思う。

図書館の利用者さんには、学生さんも多い。
なかでも、小学生が最も本を借りていく。
『かいけつゾロリ』や『銭天堂』は、いつでも品切れ状態。大人気だ。
図書館をよく利用してくれる子の中には、そういったものを読みつくしてしまって、哲学だったり、社会科学だったりのジュニア版を読み始めている。
 
先日、小学6年生の女の子が『ほんとうのリーダーのみつけかた』(梨木香歩 著・岩波書店)という本を返却しにきた。
二年前の夏休みに、読書感想文を書くためにおススメの本はありますか、と声をかけてくれた女の子だった。
私はその時、やはり梨木香歩さんの『西の魔女が死んだ』をおススメしたのをよく覚えている。

その女の子が、ちょっとお姉さんらしくなって、澄ました顔で返却した本の作者を見たとき、私がどれだけ嬉しかったか彼女に伝わるだろうか。

あ、梨木香歩さんの本、気に入ってくれたんだ!!
新しい本も読み続けてくれているんだ!!!

あやうく叫びだしてしまいそうだった。

『西の魔女が死んだ』の主人公・まいは、中学校に入学直後から不登校になっている。環境を変えるため、まいは、魔女を自称するおばあちゃんの家で住み込みの「魔女修行」をすることに。
美しい風景と、素敵なおばあちゃん、それから揺れ動く思春期の心が、とても丁寧に紡がれている小説だ。

私がこの作品を読んだのは、大人になってからだった。
読みながら「なんで中学生のときに読まなかったんだろう」と、自分の不甲斐なさを呪った。まいは、中学生だったころの私にそっくりだった。あのころの、誰にも言えなかった苦しみ、悲しみ、生きづらさをまいは同じように抱え込んでいる。もし、13歳の私がこの本を読んでいたら。もっと早く、自分と向き合って、前を向けたかもしれないのに。

そんな後悔があったから、女の子におススメを聞かれてすぐに『西の魔女が死んだ』を提案したのだった。
昔、あなたと同じように女の子だった私から、今、女の子を生きているあなたにこの本を読んでほしい。
声に出せないけれど、この一冊に思いを託して渡した。

女の子から、感想を聞くことはなかった。
だけど、同じ作者の、新しい本を読み続けているということが、私には答えであるように思えてしまうのだ。
「あの本に書かれていたこと、私もわかる気がしたよ」って。

図書館のカウンターから、本を送り出したり受け取ったりする短いやりとりに、私は手紙を書くように想いを込めている。
もしかしたら、同じ気持ちで返却してくれている利用者さんもいるかもしれない。次に読む人にもこの気持ちが伝わるといいな、と。

とりあえず、次に読む本は決まった。
今、女の子を生きているあの子から受け取った本。
『ほんとうのリーダーのみつけかた』(梨木香歩・岩波書店)。
昔、女の子だった私は、あなたの想いに近づけるかしら。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。 新しい本との出会いのきっかけになれればいいな。