漫才の種類について

「どうもー、ミキです。(中略)僕、スターウォーズ大好きで。最新作出るやん、ちょっと観に行けへん?……」
『M-1グランプリ 2017』(2017年12月3日放送、テレビ朝日系列)最終決勝でのミキのネタはこのように始まる。ツッコミ・昴生は新作のスターウォーズを観に行こうとボケ・亜生を誘うが、亜生はスターウォーズを全く知らないと言う。漫才の内容は、スターウォーズのキャラクター、テーマ曲へと展開していくが、亜生の無知から生まれる非常識な言動に昴生は怒りながらツッコんでいく。
つまり、最初の「スターウォーズを観に行こう」という昴生のセリフは、この漫才のテーマが《スターウォーズ》であることを提示していたのだ。このように、最近の漫才では、冒頭にボケ、ツッコミのどちらかが、願望や好み、疑問を述べることで、そのネタのテーマを掲げていることが多い。(「○○になりたい」、「○○が気になっている」、「○○に挑戦したい」など)
このネタだけでなくミキの漫才は、2人の会話によって内容が進んでいくため、いわゆる【しゃべくり漫才】と言えるだろう。【しゃべくり漫才】は、横山エンタツ・花菱アチャコが元祖とされており、漫才師同士の会話の掛け合いや話芸によって漫才が構成されている。(参考:Wikipedia「しゃべくり漫才」、2017年12月29日時点)

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『M-1グランプリ 2017』準優勝の和牛も、はじめにボケ・水田が「みなさんも苦手なタイプの人っていると思うんですけど、僕は旅館の仲居さんなんですよね。」と言うことで、《旅館の仲居》というテーマを掲げた。ここまでは、【しゃべくり漫才】のミキと同じだが、その後の展開は異なる。ボケ・水田のセリフに対し、ツッコミ・川西が「そんなことないから。ほな、仲居さんやったるから。」と実際に《旅館》の場面を再現することを提案する。水田は旅館に泊まる本人役、川西は旅館の仲居役というそれぞれ本人ではない状態で漫才を展開していく。(水田は本人のままであるとも考えられるが、旅館に泊まる設定が加えられることで漫才をしている本人とは異なる。)
このように、漫才の中で、漫才師が何かの役を演じて芝居をする手法を【コント漫才】と呼ぶ。【コント漫才】では、漫才の冒頭でテーマを掲げたあと、想定の場面を設定する。観客は、川西の「ほな、仲居さんやったるから。」というセリフから《旅館》の場面であることを理解し、無意識のうちに和牛の背後に旅館の風景(客室や浴場など)を想像する。
ちなみに、ミキのような【しゃべくり漫才】の場合、このような場面はないと言えるだろう。

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ミキと和牛の手法を合わせたのが、『M-1グランプリ 2017』優勝のとろサーモンだ。とろサーモンは、まずツッコミ・村田が「俺、石焼きイモが好きでね……」ということでテーマが《石焼きイモ》であると提示した。その後、ボケ・久保田が売り子役として石焼きイモのアナウンスをするが、不可解な久保田の言動に村田がツッコむ。
この場合、久保田は石焼きイモの売り子を演じているが、村田は本人のまま変わらない。つまり、2人はそれぞれ役がある・ないという正反対の立場にいる。このように【しゃべくり漫才】と【コント漫才】の要素を併せ持った漫才を、ここでは【混合漫才】と呼ぶことにする。
とろサーモンにおいても、久保田が石焼きイモの売り子役を演じているため場面の設定はあるが(石焼きイモの販売車やそれが通る道路など)、村田は本人のまま変わらないため、観客にとってはその場面のイメージは薄れる。

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ちなみに、【しゃべくり漫才】、【コント漫才】、【混合漫才】をネタの中で組み合わせて使う漫才もあるだろう。それをここでは【複合漫才】と呼ぶ。例えば、『M-1グランプリ 2017』敗者復活戦のハライチのネタは、その要素を含んだものであったと思う。《未知の生物が寄生する》をテーマに、役のある 【コント漫才】と二人の会話の【しゃべくり漫才】を交互に繰り返すことで構成されていた。

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こうして考えていくと、『M-1グランプリ 2017』最終決勝で戦ったミキ、和牛、とろサーモンの3組は、それぞれ異なる手法の漫才をしたと言えるだろう。
次回からは、今回登場した3種類の漫才の手法について深く掘り下げていくとともに、それぞれの漫才が観客とどのように関わっているかを考える。


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