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番狂わせに次ぐ番狂わせ。強気で自由でなダークホース達が湧かしたキングオブコント2022 後編


続きはダークホース達とその他について。今回のキングオブコントのダークホース達は以下の4組です。

・クロコップ

・や団

・いぬ

・ビスケットブラザーズ

ビスケットブラザーズは一度キングオブコント決勝に進出(2019年)していますが、その当時の反響はと言うと、正直そんなにって感じだったのでまだダークホースの枠でした。それに今回の2本のネタを見ても分かるとおり、ルール無用で自由に暴れまわったあの荒々しさはまさにダークホースと呼ぶにふさわしい存在でした。や団、いぬ、クロコップはまぁネームバリュー的にダークホースでしょう。


そして優勝候補にもダークホースにも位置しない「その他」は残りの2組。

・ネルソンズ

・コットン

ダークホース達みたいに「強烈な世界観」「独自の世界観」を披露するタイプではないのでアングラ臭は控えめ。そして”無名”とも言い難く、少し前からお笑いファンからは既に知られているぐらいの知名度はもっている2組。ネルソンズに至ってはビスブラと同様に一度キングオブコント決勝に進出してるし、最近はわりかしメディア露出度が高く”売れっ子”になりかけてました。人気などを考慮すると優勝候補に入れても良かった気もしますが、優勝候補の割合が半分以上になるもアレなので、筆者主観でその他に割り振り。

優勝候補とダークホースには話題性があり、どうしても同業者もお笑いガチ勢もその辺りの名前を上げてしまいがちになります。本当の意味でのダークホースはこの2組だったのかもしれません。そんな中でコットンは準優勝だったので大健闘でした。


では早速、それぞれの感想へ。ビスケットブラザーズは最後に書きます。




クロコップ

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完全に遊戯王。筆者は世代ド真ん中。しかも特に思い入れの深い初代遊戯王(武藤遊戯ver)をベースにしたBGM、キャラ設定、セリフ等々、、、もう好きになるに決まってる。左側なんて完全に海馬瀬人だったもんな。筆者は初代遊戯王~遊戯王5D's辺りまでプレイしていた”デュエリスト”でした。なんなら大会とかも出た事ある(東京予選1回戦敗退)。デミスボンバーとかBFデッキを作ってから、あまりにもデュエルがつまらなくなり引退しました。(伝わる人には伝わる...!)

そんな筆者のデュエリスト時代の話はさておき、開始10秒で「くだらねぇぇ!」と思わせるあの突き抜け感は清々しくて好印象です。今回のカードゲームのネタは筆者の様な遊戯王を知っている人でなくても単純明快で誰が見ても”バカバカしさ”を感じる事が出来たと思います。あっち向いてホイなら誰でも知っている遊びですしね。マニアックカルチャーと王道カルチャーの配合具合が丁度良いネタでした。

”ほぼ優勝不可能”な魔の1番手というポジションを上手く活用しました。「自分達のやりたい事」をしっかりとぶつけるって大事ですね。振り返ると、今回のキングオブコントのテーマだった「ダークホース達の躍進」を印象づけたのは、クロコップだったのかもしれない。

去年のM1もモグライダーが1番手としてこれ以上にない最高のスタートを切った事で大会自体が大成功を収めました。クロコップもまた同様にキングオブコント2022を盛り上げた立役者だったと思います。

高橋和希さん、あなたが生み出した遊びはお笑いの世界でも大いに盛り上がりをみせました。素晴らしい遊びをありがとうございました。追悼。



や団

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1本目のドッキリネタ。特にこのネタについては”強烈”なキャラと内容で非常に評判が良く「これが一番面白かった」という意見も結構SNSで見かけました。

まず最初に感想として筆者はこのネタ、あまり良くなかったです。個人的に序盤の件がどうにも引っ掛かってしまったからです。最初の3人の他愛もないやり取りが不自然過ぎて「敢えてこの”つまらない学生ノリ”みたいなのを演じてるのかな?コレが後からフリとして効いてくるんだったらいいけど」というモヤモヤを抱えたまま物語が進んでいく事に。特にちょっと無理があり過ぎるなと思ったのが、急に相撲を取る場面。まぁ百歩譲ってテンション上がって急に相撲を取るのは良いとして、その後に死んだフリをしてるだけの友人をすぐに「死んでる!」と決めつけるのも、すぐに警察に電話して自首するのもちょっと無理があり過ぎる気が・・・。この一連の件も「いつもの仲間内のノリなのかな?」と思いきや結局、最初は本当に「死んでいる!」と思っていたという事だったので、ますます「えっ?なんで?」という気持ちになってしまった筆者。特に赤パーカーの人は最後までツッコミの役割だったので、ココはもう少し普通の判断をしてほしかった。この後にくる怒涛の展開やシリアルキラーの狂気と死んだフリを演じ切る狂気で大爆笑のはずが、もう気持ちがノッてこなかったんですよね。

という事ですまみせん。や団の1本目については正直中々の酷評でした。それでもシリアルキラーキャラの怪演ぶり中盤以降の怒涛の展開は圧巻だったので、序盤を忘れて切り取って見てみると評判が良かったのも頷けます。

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ただ2本目について文句なしに面白かったです。1本目の事があったので、や団に対してちょっと気持ちが離れていた筆者ですが、2本目でまたグッと引き戻してくれました。1本目と比べると2本目はシチュエーションがちょっと特殊だったので、そこまでリアリティなやり取りを求める必要もなかったっていうも大きい。

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雨に濡れているってだけなのに、こんなに面白いなんて。灯台下暗しな発見でした。ホワイトジーンズ汚している件はかなり笑った。ボケのロングサイズ伊藤は「今後役者の方もイケそう」と思わせるぐらい引き込まれる役を演じますね。キングオブコント2022全体を通しても1,2を争うほど出来の良かったネタだと思います。

SMAの芸人なのに、随分としっかりとした良いネタをするトリオのや団。披露したネタは2本共に審査員と世間から高評価でした。ただ、両方ともしっかりと強烈な”狂気”を表現していたので、さじ加減をミスると笑い声が悲鳴に変わってしまいかねない強気なネタだったと思います。尖った芸風の台頭によってギリギリなラインが広がっていた中でしっかりとそこを突いたや団に軍配が上がりました。



いぬ

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今回一番の”バカ”だったのは、いぬでした。今回のファイナリストが披露したネタの中で筆者的に笑ったネタ上位3位までを表すと

1位 いぬ 

2位 ビスブラ(2本目) ロングコートダディ

3位 や団(2本目) コットン(1本目)

こんな感じですね。横並びは同率という事で。一番好きだったネタはロングコートダディの「炎の料理人」だけど、まぁこのネタは一度見たことがあるので笑った量でいうといぬのバカさ加減が頭一つ抜き出ていたかな、という事でこの位置付けです。

「キスは禁じ手」という見解が少し物議を醸し出していますが、筆者的には半々の気持ちですね。キスは分かりやすく山場を作る事が出来るし、男同士でしかもパンチのあるキャラ同士でやらせたらそりゃ面白いですからね。ドーピングと言えばドーピングかもしれない。ただ思ったのが「そういえば、キングオブコントでキス見たの初めてかも」という事。コントで男女の駆け引きシーンは沢山見てきたし、その中でキスシーンを入れる事もよくある事。キングオブコントでも過去に1,2組ぐらいキスシーンを入れてる事はあったかもしれない。ただおそらくちゃんとガチでキスをしているのは今回のいぬが初めてだった気がするので、なんかそういう議論的な事より「意外とガチキスしているコントってないんだな」としみじみ思いました。まぁ禁じ手ではあるし、それでつまらなかったら最悪だけど、それを使うに値するバカさ加減でめちゃくちゃ笑ったので結果オーライという事で。あとキスよりもその後の「・・・大丈夫です」がじわじわときて面白かった。

「キスは禁じ手」とコメントした東京03飯塚も「一番笑ったかもしれない」とも言ってるので、まさしく「試合に負けて勝負に勝った」といった感じです。たぶん、いぬは今回のキングオブコントをきっかけに一番上がり幅がありそうな予感がします。色々な番組に出演しては「どうも、吉本の”犬”です!」というお決まりの掴みもあるし、今後が楽しみ。



ネルソンズ

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花嫁を奪い返しにきた元カレという超絶ベタな題材。トリオでこそ生きるネタですが、やり尽くされたこの題材でどうするのかなと思ったら、概ね目新しさはなかったです。ですがこの題材なら和田まんじゅうがナチュラルに困り芸を発揮出来るので、自分達の強みを発揮出来るネタではありました。

ただ気になったのは花嫁の思想が「足が速い事が何よりの優先事項」という要素。元カレのスペックの高さ、思い出の数々を餌にしても掛からないのに「足が速くなった」という餌で一気に気持ちが傾くのはこのネタの大ボケの部分でした。バイきんぐ西村が演じてそうなキャラ思想。個人的にかなりアブノーマルな思想だと思うのですが、このコント最大のツッコミポイントにそこまで掘り下げがない事。もっと和田まんじゅうがそこに引っ掛かるべきなんじゃないかって思いました。

ただ難しいのは和田まんじゅうがそこに引っ掛かって掘り下げても、それはそれで自分達の持ち味を半減しかねない気もする。やっぱりネルソンズの強みって和田まんじゅうが翻弄されながらボヤくワードと溜まりに溜まって最後爆発するところだと思うので、今回みたいにそこまで突っかからずに流れに身を任せるのが彼らのスタイルっぽい。う~ん、ちょっと大枠の設定と細かなキャラ設定でミスマッチが起きていた様な気がします。なのでネルソンズは「自分達の良さを発揮する題材だったけど、ディテールがややミスマッチだった」という感じに思えました。非常に難しい部分ですね。

十数年前はこの「花嫁を奪い返しにきた元カレ」というシチュエーションも「ドラマチック!」という印象ですが、時を経てどちらかというと「流石に元カレ自分勝手過ぎだろ」「花嫁もココで抜け出すのヤバすぎだろ」という冷静な意見の方が現在は多い気がします。なので今回花嫁が「足が速い」に気が傾く事以外は特筆ボケらしいボケでもなく、むしろ「一時の感情に流されない良い嫁だな」という印象の方が強い。

「花嫁を奪い返しにきた元カレ」という題材はネルソンズにピッタリだけど、そもそも設定そのものが現代だと少々粗が目立ちます。その粗を隠すためにはもう少し捻りがないと古臭さと違和感の方が目立ってしまう、という感じがしました。今回はその捻りとして「足が速い事が何よりの優先事項」という要素がありましたが、それはそれでエッジが効いてるので「もう少しそこにツッコまないと」という感情が出てきてしまう。アッチを立てればコッチが崩れる・・・コントって難しいですね。



コットン

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”浮気証拠隠滅屋”というちょっと変わり種な職業のコント。審査員の山内もコメントで言っていた通り、笑わせたいポイントで全部ヒットさせたんじゃないかと思います。終始波に乗っていましたね。あと何気に「凄いな」と思ったのが、最後の最後に畳みかけが発動し、そこがこのコントのピークだった事。それで終了したのでショーレース向けのネタとしてはこれ以上にない終わり方でした。

きょんのキャラが最初から会場の空気とバチッとハマった事がかなり大きかったと思います。そこにキャラと連動してプロフェッショナルぶりを発揮し、その度にウケていたのでお手本の様でした。「最高の人間」も最初にバチッとハマれば、後のボケは全部ヒットしたんだろうなぁ。

ラフレクラン時代から存じ上げてるので、きょんの憑依力と変幻自在度がウリのコントは何度か見た事はありました。そしてこのキングオブコント決勝という絶好の舞台で彼らの最高傑作を出せたんじゃないかと思います。

ただ唯一「はぁ、、、またやってる」とガッカリしたポイントがあります。それは西村の余計なツッコミ。1本目でいうと「ドモホルンリンクルスタイル」「釜爺みたい」とか。アレはハッキリ言って邪魔です。あそこのワードセンスで多少のウケがあったとしても、特にその後に繋がっていく事のない目先だけの笑いです。コットンの強みは本人達も語るように、きょんの憑依力とキャラの変幻自在性。ここを本当は前面に出したいはずなのに、西村のちょっと目立ちたがり屋なツッコミによって一瞬途切れてしまい、流れが悪くなっている事が多い。

ラフレクラン時代から漫才でもコントでも西村の余計なツッコミ方が気になっていたんですが、ここでもまた、”ネタ”よりも”自分”を前に出す節を感じしまい、げんなりでした。どうやら最近『しくじり先生』でコットン西村の異常ぶりが特集されていたので、少しだけ見ました。そして「そんな性格だからネタで余計な事するのか・・・」と合点がいってしまった。今後バラエティ番組などではその異常ぶりはネタにはなりますが、漫才やコントではやってほしくない。ここまで書いてしまったので、もうお気づきだとは思いますが筆者は西村が苦手です。

今回の準優勝者(というか西村)に対してかなりアタリがキツくなってしまいましたが、筆者が依然から感じていた事だったので、この際書く事にしました。M1グランプリ2021の総評でも書いた「ツッコミの加減」について。後半の方にその旨について書いてるので、良ければ是非。

例の余計なツッコミ除いて、1本目は完璧でした。だからこそ、勿体なかったとも言える。


※長くなってしまったので2本目についての感想は省略。



ビスケットブラザーズ

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最後は王者。もう1本目も2本目も設定も展開もムチャクチャ。「なんでそうなるの?」のオンパレード。絶対に「野犬に襲われる」ってシチュエーションじゃなくて良かったし、共闘するのも意味分からんし。2本目についても、そもそもこの恰幅の良い二人が揃って女役で登場する事が第一に変だし・・・粗を探そうと思えばいくらでも探せます。というか、1本目については粗そのものだった。しかしこれがギリギリのバランスで”笑い”として成立してしまっているんだから、恐ろしい事をやってのけた。

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そのバランスを保っていた要因の一つは2人の秀逸な掛け合い。この訳の分からない世界観の中で繰り広げられる2人の掛け合いがとにかく面白かった。こんなにもお客さんを突き放した設定と恰好をしているのに、それを取り留め、さらには強引に引き込んでいく2人の掛け合い。ここはもうセンス勝負でした。少しでも外していたら放送事故みたいな空気になっていたかもしれないですが、キングオブコントの舞台を見事に自分達色に染め上げました。パワープレイなんだけど、随所に光るセンスで勝ちを引き寄せた。

ハリウッドザコシショウに「なんでもっとしっかりとしたネタを考えないの?」という疑問が野暮である事と同じ様に、粗々しく荒々し過ぎる内容を「この人達だから仕方ない」と強引に納得させるパワーがビスケットブラザーズにはありました。



まとめ


前編と今回の後編を順に読んで頂いてる方は「今回ちょっと辛辣じゃないか」「設定に対して細かすぎないか」と思った方もいらっしゃるかもしれません。しかし本来コントというのは設定と世界観が大事です。だからこそ設定に矛盾があったり、その世界観の住人が言わなそうセリフや行動を起こすと”違和感”が邪魔をして笑えなくなります。

特にシチュエーションが”私達の生きてる世界”と近ければ近いほど当事者視点でその世界を見ようとします。なのでそこに違和感があると感情移入がしづらくなり、どう見たら良いのか分からなくなる。

今回のキングオブコント決勝進出者をカテゴリ分けするならかが屋コットンは比較的”私達の生きてる世界”っぽい要素が強めです。リアリティを感じさせる演技に重点に置いてる2組なので、芸の細かさが強みである一方、裏を返すと余計なものや違和感が目立ちやすい芸風でもあります。この芸風の代表格と言えば東京03とか。

ネルソンズロングコートダディは私達一般人の日常っぽさはないけど、テレビとかで見た事のあるいわゆる”フィクションあるある”な場面を切り取っています。フィクションだけど既視感もあるのでポップで見やすい。そこにネルソンズ和田まんじゅうやロングコートダディ兎などのキャラクター性豊かな人物が世界観に溶け込んでおり、各々のカラーを表現しています。

や団(1本目)は丁度真ん中といった感じでしょうか。序盤はありふれた光景で”私達の生きてる世界”っぽさがあったけど、物語が急転換し一気にフィクション強めな世界に切り替わった感じですね。

クロコップ、犬、ニッポンの社長、最高の人間、ビスケットブラザーズは初っ端からフィクション全開。”世界観が爆発してる”といった芸風は大体ココに該当します。野生爆弾とか天竺鼠とか。今回はその中でも特に”私達の生きてる世界”から最も離れた世界を体現していたのがビスケットブラザーズだった気がします。設定だけでなく、展開もキャラクターもセリフも何もかも・・・見た事がない。ルールがない。

「私達の生きてる世界の常識が通用しない」


そう思わせるものがありました。ボーボボを読んでるかの様な気持ちだった。まさにルール無用といった感じで暴れ回る権利を持ち合わせていたビスケットブラザーズ。「そんなのアリかよ」と思わされたりもしますが、これもまた”尖った芸風の台頭”による影響か、良くも悪くもお笑いも多様化が進んでいる最中という事だと思います。

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(『ボボボーボ・ボーボボ』は筆者のお笑いバイブルです)


ダークホースに位置する芸人達が活躍しやすい環境下でもあった今回のキングオブコント。自分達の芸風をそのまま出すことが出来た組は軒並み結果もしくは反響を勝ち取りました。その中でも最も自分達を濃厚に表現したビスケットブラザーズが優勝を掻っ攫う結末はかなり痺れました。











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