第五話 暇
右手首のジーンとした痛みで朝なのだとわかった。
いてててっ。
スマホを取ろうとしたが、思うように手が動かない。
左手でスマホをタップして画面を見てみると、まだ五時四十六分だった。
早すぎだろ。
ここまでくると、もうちょっと寝ていたい。
——。
寝れない。
ここまで健康体になってほしかったわけではないのに。
とりあえず、インスタグラムを開いた。
ストーリーを見ようとしたが、画面が見にくい。左手で操作すると画面が隠れてしまう。
右利きの人が多いという理由だけで、ほとんどは右手で使いやすいように設計されているのかと改めて思った。
世の中の左利きは常々思うことがあるんだろうな。
気づいたら、YouTubeを見ていて、気づいたら、七時になってた。
「うぃ、おはよー」
天井から跳ね返ってくる自分の言葉を聞く。
——よし。
足を振り上げてその反動で体を起こす。
洗面台の前に立ち、いつも通り歯のチェック。
変わらずでよろしい。
今日は特にやることもなく、一日暇だが、朝早いと何でもできる気がする。
さっきYouTubeで映画の予告を見たのを思い出して、いつもは映画なんてあまり見に行かないのに、なぜか急に行きたくなった。
調べると、上映時間が九時だったため、ちょうどいいやと思って行くことにした。
「七番スクリーンです」
入り口でチケットを渡して、言われた番号のスクリーンへ向かう。
入ると、三人しかいなかった。
それぞれ一人映画を楽しみに来ているようだ。
そんなに人気ないのかなと思いながら、選んだ座席に座る。
充足感も不足感もないまま終わった。
予告では、面白そうなSF映画だったけど、見てみればそうでもなかった。
何とも言えないな。
評論家気取りな気持ちになりつつ、映画館を後にした。
映画館を出て、すぐ近くにあるラーメン屋で昼をすまして、近くにある木々が並んだ大きな公園に行った。
木陰に寝転がって目をつむる。芝生からの湿気に蒸し暑さを感じながら、たまに吹く涼しい風を堪能する。
この時間がいつまでもあってほしいな——。
大学辞めてからはなんか考え事増えたなと感じる。大学を辞めたときは、行きたくないからという単純な理由で辞めてしまって、後のことなんて考えてもいなかった。
やめてから、親から「就職はどうすんのさ」とたびたび聞かれるけど、就職しても続けられると思えないし、今は就職する気にもならない。
なんていろいろな考えているといつのまにか寝ていた。
起きたときは、太陽が少しオレンジがかっていた。
えらい寝てしまった。
くっそー、朝早く起きてしまったからじゃないか。本末転倒じゃん。
ゆっくりと起き上がって、周りを見渡す。
すっかり人がいなくなっていた。休日の昼間に、公園で寝ているような奴がいるからみんなどっか行ってしまったんじゃないか、と思ってしまった。
いやいや、誰も俺のことなんて見てないよな、と思考を戻す。
木々を見ながら、日差しの暑さがなくなったことを感じる。
転がっていた石を蹴りながら歩いていく。
「はるか君?」
急に前から女の人の声がした。
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