【読んでみました中国本】中国の少数民族を訪ね歩く、醍醐味たっぷりのルポルタージュ:デイヴィッド・アイマー『辺境中国:新疆、チベット、雲南、東北部を行く』(白水社)

◎『辺境中国:新疆、チベット、雲南、東北部を行く』デイヴィッド・アイマー・著/近藤隆文・訳(白水社)

「本が売れない」「本が読まれない」…こういわれるようになって久しい。出版社の人たちと会って話すと必ず出て来る言葉だ。

だが、じゃあ、いまでも本を読んでいる人たちが何を求めて本を読んでいるか、について、出版する側は本気で考えているのかなぁ、と思うことがよくある。前述の不満ともとれる言葉を吐いても、続く言葉は、本が売れない現状をきちんと分析して考えるという流れになることはほぼなく、業界が斜陽化していることへのただのグチで終わっている気がするのだ。

翻って、「じゃああなたはなにを求めて本を読んでいるのか」と言われたら、あなたはどう答えるだろうか? 

わたしは正直なところ、この「読んでみました中国本」を書くため、というパターンが長いこと続いていた気がする。

次々と出版される中国関連本だが、同業者がそれを論じることはほぼ、ない。不思議なことに、中国に関わる人たちはあまり他者が書いたものに対して持ち上げることはあっても、それ以外の評価を公的に下すことはほぼんどしない。もちろん、他者を褒めることはしても、けなすことはしたくない、という気持ちの現われで、ある意味「大人の対応」だといえなくもない。

だが、それが逆に、「中国に関する知識を本から得たい」と考えて手に取る読者に、どの本を手に取ればよいのか、自分の手に取った本の情報がどこまで正確で、どこまで信じて良いものなのかを判断する基準を失わせている。絶賛本の中にも、「仲間内の持ち上げ」もあったりして、必ずしも読む者にとって知識として本当に役立つものなのかがわからない。

この「読んでみました中国本」は、少なくともわたしのメルマガや文章をわざわざ読みたいと思ってくれる読者に対して、あくまでもわたしの目から見て「良書」「悪書」の基準をお伝えしたいと思って始めたものだった。

長く読んでくださっている人たちはご存知だろうが、月1回しか発行していないのに荒れまくったこともあった。とにかく嫌中本や中国たたきが主目的と思える本ばかりが街に溢れた頃のことだ。おれもわしもあたしも、と、ちょっと中国の一辺をかじっただけの人が、時流に乗って中国の悪いところばかりを取り上げて叩き、悦に入る。その中には実際、瞬間風速的にランキング入りした本もあって、ムードに乗るというのはこういうことか、と呆れもした。その時の情緒で情報の価値が変わるわけがない。なので、そうした筆者の本は今後なにがあっても取り上げないことにしている。

わたしは一応、タイトルと中身をぱらぱらと眺めてみて、最初に「こりゃダメだ」と思った本を取り上げることはしてこなかったが、それでも読むうちにそのロジックのいびつさにブチ切れした本も1冊や2冊ではない。

そんなときは、本気で「本が売れない」のは出版社が時流だけを追いかけてこんな本ばっかり出してるからだろ!と思ったし、実際に「あなたたちは、読者が本当に読んでためになると信じられる本を出しているのか?」と出版関係者を詰問したこともある。

1980年代のバブル期はモノが溢れた時代だった。海外から帰ってくると、バブルが弾けてから30年近くも経済の低迷が続く日本に、あの時代の「モノ溢れ」がすでに習慣化して残っていることを強く感じる。もう我われは周囲にモノが溢れていないと我慢できない生活様式に慣らされている。出版においても「売れない」とぶーたれる一方で「溢れさせる」ことに無頓着になり、本気で良書を絞り込み、「良質なものを出す」という意識に欠けていると思うことがたびたびあった。

だから、本が読まれないし、売れないんだよ。読んでもお金と時間のムダになるなら。ネットで無料で読める程度の本なら。あるいは、読んでも読まなくても済むような本ばかり出してるなら。

あなたは最近、「本を読むことは楽しいこと」と感じることがあっただろうか?

今回手にした『辺境中国』を読みながら、わたしは分厚い本を読み進める楽しさを久しぶりに思い出した。

●情報量と好奇心:西洋ジャーナリズムの真髄

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