【読んでみましたアジア本】外国人労働者を求め続ける日本が行き着くところは?︰安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(角川書店)

なかなか刺激的なタイトルの1冊。たぶん、このタイトルだけで「もうお腹いっぱい」になってしまう人も少なくないだろう。だが、それは間違いなく、この挑戦的な言葉遣いがもたらす「衝撃」を狙って敢えてつけられている。

帯の「ルームメイトは逃亡しました」という言葉もまた刺激的だ。実のところ、たしかに本書の中には「ルームメイトは逃亡して姿を消した」というケースが紹介されているけれども、それをまるで週刊誌的に大げさに「逃亡しました」と報告する人物は存在しない。これもまた、本書のナレーターを務める筆者が「敢えて狙っ」てつけたものだろう。

著者安田峰俊氏の本をこれまでも何度か紹介してきたが、いつもいつもその「目の付けどころ」に感心させられる。そしてそのプレゼンテーションも、多少奇をてらったわざとらしさはあるものの、実際にその視線の先はほぼ誰もが踏み込んだことのない世界に向けられていることを考えると、その巧妙さに驚かされる。とにかく、「目の付けどころ」がイイのだ。

だからこそ、著者は同じようなテーマで先行者となった書き手にはムカッと来るような存在になるらしい。実際に著者の過去の著作を、その時点での社会的地位でいえば著者よりもずっと高いはずの人物が、顔をしかめて酷評するのを筆者も目の当たりにしたことがある。

その時点でその本を読んでいなかった筆者はただ黙ってその様子を眺めるしかなかったが、それでも「そこまで言わなくても…」と思わざるを得なかった。実際に読んでみてその記述に大きな間違い(しかし、それは先の人物が酷評するのとはまったく違う部分だった)が存在することに気がついた後でも、「敢えて」他者と違う視線で切り込んでいく著者の嗅覚の鋭さを完全には否定できない。一方で地位ある人物がその持つ力でその酷評を広めていくことで、著者の持つ一味違った視点が間違って伝わっていく可能性のほうが恐ろしかった。

とはいえ、城山三郎賞、大宅壮一ノンフィクション大賞のダブル受賞を果たした著者は、そんな人物を乗り越えてしまった。

もちろん、著者も大きく成長した。本書のタイトルと帯で「うっ」となった人はぜひ、まず本書を後ろから読んでみることをおすすめする。わたしは前から順に読んだけれども、後ろになればなるほど面白かったし、一番最後の「おわりに」で丁寧に自身の「バイアス」について分析した部分に好感も感じた。さらに、「在日外国人にまつわる問題は近年まで深刻なテーマとはいえなかった」という点ではただただ自分に照らして同意するしかなかった。

そして本書が多少駆け足ではあるものの、日本で暮らす外国人――特にアジア系住民がおかれている状況と自身の「知っている」と思っていたこととの乖離を感じるに至った。

だからこそ、本著はその挑戦的なタイトルや帯に惑わされず、多くの人に、そして特にこれからの日本社会を担わんとする世代の人たちにはぜひ読んでいただきたい一冊だと思う。

●想像になかった技能実習生の現実


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