【ぶんぶくちゃいな】梁文道講座「北京の目に映る香港」その1

香港の片隅にある小さなコーヒーショップで毎月1回、非常に興味深い文化サロンが開かれている。この「ぶんぶくちゃいな」でも昨年インタビューを掲載した周保松・香港中文大学教授が運営する「Brew Note 文化サロン」(「Brew Note」は会場になっているカフェの名前)が主催する、文化教養の向上や思考の刺激を目指す講座である。

周教授にはわたしも昨年、大きく揺れている「香港人」のアイデンティティについてお話を伺い、「【ぶんぶくちゃいな】周保松・香港中文大学教授インタビュー『いまは、なにをもって香港人と呼ぶのかを考えるべきときだ』」で公開した。

雨傘運動が失敗に終わって以来、社会に増す出口のない不満と不安、そして不信感。ふわふわと浮足立ち、情緒的になっている社会、特に若者に対して、じっくり考えるためのきっかけを与えようと、周教授が手弁当で始めたサロンだ。30人も座ればいっぱいになるような小さなカフェの協力を得て、そこで周教授に招かれた著名文化人たちが無償の講義を行うのである。その様子は録画されてYouTubeで公開され、万単位の人たちに見られている。わたしもその1人だ。

だが主に香港人を対象にしているためにほぼ広東語での講義であるために、日本人どころか非広東語圏の中国人にも内容がよくわからない。字幕をつけてほしい、という声もあるものの、ほぼボランティアによる運営であるためにそれもままならず、いまのところ、字幕なしで公開されている。

昨年12月に開かれた同文化サロンに、周教授の中文大学時代の同級生である、文化人の梁文道氏が登場して非常に興味深い講義を行った。梁氏は香港生まれだが、幼い頃に家庭の事情で台湾の祖母の元に送られて高校生になるまで台湾で育った。その後香港に戻り、大学卒業後はラジオパーソナリティからテレビアンカーへ。香港フェニックステレビでトークショーに出演したことがきっかけになり、その博識ぶりで中国の若者に爆発的な人気を博するようになった。2010年に出版した拙著『中国新声代』でも、当時大きな注目を浴びていたチベット情勢について梁氏のお話をうかがっている。とにかく視野が広く、知識が豊富で、好奇心豊かで、交友関係も広く、落ち着いた話しぶり、またユーモアを交えた語り口が非常に歓迎されている言論人である。

その梁氏が同文化サロンで取り上げた、「北京の目に映る香港」というテーマは、香港と北京で暮らし、両者の視点の違いを痛感したわたしにとっても、中国政府との間で軋轢が増し続ける一方で香港に欠けていると感じる視点を的確に突くものだった。ここに周教授のお許しをいただき、同講座の内容を日本語化して、数回に分けて配信する。また、中国と付き合い続けなければならない日本人にとっても、非常に参考になる指摘がたくさん見つかるはずである。なお、オリジナル動画はこちらで見ることができる。

「北京の目に映る香港・その1」

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