【読んでみました中国本】強みは「鍛え抜かれた筋肉質」と「発想のユニークさ」、それが現代中国人企業家:高口康太「現代中国経営者列伝」

のっけから逆読みするようで申し訳ないが、著者は「あとがき」でこう述べている。

だが、好きか嫌いかの二者択一で決めてしまえば、自然と先入観によって物事を素直に見られなくなってしまうのではないか。

わたしもさんざん書いてきたが、中国に関する報道の良し悪しはこうした考えに立つかどうかに尽きる。なんといっても、中国が日本の隣国であることは変わりなく、またGDPでも日本を抜いて、アメリカと堂々と世界秩序について語れるのもいまや日本よりも中国だからだ。個人的に嫌うのは自由だが、その事実は頑然として揺らがない。

そうなると当然、中国のスーパーパワーの源泉について知っておくべきだが、いまだに日本では経済ジャンルでも中国叩き記事が量産され、喜ばれている。そんな日本の報道姿勢をどう形容すべきだろう。

わたしの脳裏には、魯迅が書いた「阿Q正伝」が浮かぶ。中国人の社会ではこの小説の主人公「阿Q」はプライドこそ高いものの、無知なために自分のやっていることの判断もできず、自分を正当化し、大勢に流された結果、最終的に刑場で銃殺される。いま風に言えば、根っからの「ルーザー」(負け組)である。

日本を「負け組」と呼ぶと激昂する人が必ず出てくるが、客観的なデータ的に見ても追い抜かれた相手に対して「日本は負けてない」と言い続け、相手に関するネガティブ記事ばかりを読み漁り、喜んでいるその姿は阿Qとどれほどの違いがあるのか。

悲しいかな、それが「好き嫌い」でニュースを読む今の日本人の姿だ。

中国は確かに「大言壮語」の文化があり、一方日本はなにごともあいまいに済ませる文化がある。だが、他者にとってはどちらも大変迷惑な話で、どっちが良いというものではない。

そんな中国政府はメンツを重んじ、そう簡単に「凡人」にわかりやすい言葉は吐かないが、庶民の世界では常に「追いつけ追い越せ」と、大から小までさまざまな「研究」が行われている。チャンスがあるなら1ヶ月でも中国で暮らし、庶民生活に浸ってみると誰でもわかる。制限や制約が思いの外多いかの国で、そこに暮らす人々がどれほどまでに先駆の成功者に学び、創意工夫をこらしているかが。

現実にそのバイタリティに当てられた日本の若者が、年配者に牛耳られた日本の社会を嫌って次々と中国に脱出している。「若者が」という点が大事だ。彼らは間違いなく、中国に「学び」に行っている。

ちょっとむやみなこだわりを捨てれば、学べるものはたくさんある。そして、今では日本の日常にも中国に学んだもの、あるいは身もふたもない言い方をすると「パクった」ものが普通に存在し、我々の生活を彩っている(たとえば、スマホアプリの「LINE」の機能は明らかに中国のSNS「WeChat」のもつ機能をコピーしたものである)。

「先入観によって物事を見られなくなって」しまった日本人が見るべき中国の姿はまだまだ多い。そういう意味で、今回取り上げる高口康太・著「現代中国経営者列伝」はリマーカブルな本だ。

●8人のコワモテ経営者たち

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