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【ぶんぶくちゃいな】植民地時代から続く「政治風刺」を潰す香港政府と親中派

6月19日、香港の公共放送局「香港電台」(Radio Television Hong Kong、以下「RTHK」)の看板番組の一つ、「頭条新聞」が今クールの最終回を迎えた。

番組名の「頭条新聞」は、「頭条」=「トップ」、「新聞」=「ニュース」、つまり「注目ニュース」という一般名称から来ている。中国のオンラインメディアにも同じ名前のキュレーションサイトがあるが、RTHKのこの番組とはまったく関係ない。

RTHKの「頭条新聞」は1989年4月、ちょうど北京では天安門広場に学生たちが座り込みを始めた頃に誕生した、政治風刺番組だ。歴代の進行役は弁護士だったり評論家だったり学者だったりジャーナリストだったり、それぞれさまざまな形でその時点での政治や社会のムードを庶民の視点からブラックユーモアで綴る形を採る。

ここ10年余りのメイン進行役はジャーナリストの呉志森氏と曾志豪氏の老若コンビ。1958年生まれの呉氏は雑誌記者からの叩き上げで左派メディアで働いた経験もある、民主派の舌鋒。そして曾氏は1977年生まれで、大学を卒業してすぐにRTHKに入職した生え抜きながら、メディア業界の先輩とも舌戦を演じた過去を持つ「反骨」ジャーナリストとして知られる。

番組は毎回3つのコーナーで構成されており、それぞれ世相や政情を風刺する。メインとなっているのは前述の老若ジャーナリスト2人がそれぞれ、西太后と宦官、袁世凱を模した将軍と「徐」副官、三蔵法師と孫悟空、包青天という伝説的な名裁判官と庶民などに扮して、その週の新鮮な話題を取り上げて演じる寸劇である。

たとえば、今年4月3日に放送された「集会制限令」の回を以下、ちょっと見、日本人には分かりにくい表現を飛ばしてデフォルメ翻訳してみる。YouTubeで公開されている動画は広東語だが、中国語の字幕付きなので中国語が理解できる方はぜひ、そのムードを味わっていただきたい。なお、ここに出てくる西太后と包青天は同時代の人物ではないが、そこもミソである。

包青天「太后、わざわざわたしをお呼びで?」
西太后「ちょうど、美容マスクしてて出かけられなかったのよ」
包青天「エステはまだ営業中でしょ、なんでお店に行かないんですか?」
西太后「エステの従業員にも新型コロナ患者が出たし、怖いじゃないの」
包青天「じゃあ、エステに休業命令を出せばいいじゃないですか」
西太后「あら、わたくしだって民意が気になるわ。エステ休業で金持ち夫人たちに罵られるのはごめんよ」
包青天「ほお、太后でも罵られるのがおイヤだとは」
西太后「みんないろいろ言うけど、結局わたくしの知性を心配してくれてるのよ」
包青天「わたしはあなたの知性を疑ったりはしませんよ。でも、あなたの手が心配です」
西太后「手?」
包青天「だってあなたは『ばね指』じゃないですか? 先日も、お酒を全面的に禁止すると言ったかと思ったら取り消して、その後になって今度はお酒どころかまるごとバーを休業させる。あなたの跳ねっ返りぶりはお見事としか言いようがない」(「ばね指」=腱鞘炎の指が悪化して動かなくなる指のこと)
西太后「しかたないでしょ、バーでクラスターが発生したんだから。その前はカラオケ」
包青天「当初あなたはカラオケや雀荘は休業しなくていいと言っていたのに、突然即時休業を命じたんですよ? うちの法廷も! 賠償はしてくれるんですか?」
西太后「あら、心の準備はしとかなきゃ。どんなことも突然停止命令を出すことがありますからね」
包青天「…まさか、立法会選挙のことをおっしゃっているのでは?」
西太后「感染防止のためなら、なんでも起こしうるわよ」
包青天「太后、もしかして副業でミニバスを運転なさったりしていません?」
西太后「なんのこと?」
包青天「ほら、ミニバスは右へ〜左へ〜と大きく車体が揺れるじゃないですか。そのうち運転手も自分がどこに向かってるかわからなくなって中央分離帯に乗り上げて、あわや死なばもろともの大事故になりかけ、乗客が悲鳴を上げるでしょ。あれ運転してるの、あなたじゃないんですか?」
西太后「わたくしがミニバスの運転手なんかやるわけないでしょ」
包青天「いやいや、エイプリルフールの冗談ですよ。だってそんな運転手はすぐにクビになりますからね。そこんところが、あなたとは違うところですよねぇ」

●警察を皮肉る「庶民の味方」公共メディア

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