宇田侑平

人生の使い道は、底辺日常系小説の執筆。

宇田侑平

人生の使い道は、底辺日常系小説の執筆。

最近の記事

【長編小説】横乗り囚人 episode 4

episode 3→https://note.com/wanpakutsk/n/na10ee91faccb?sub_rt=share_pw  午後の業務の大半は、眠気との不毛な争いであって、あっという間に過ぎ去る。この間にあった入電は七か八。何れも朦朧とした意識の中で応対したものだから、記憶には殆ど刻まれていない。  そして、来る十七時。終業まで残り三十分。 「……はい、そちらの書類に記載されている番号まで問い合わせて頂ければ、他社製品であっても購入から一年以内の不具合

    • 【長編小説】横乗り囚人 episode 3

      episode 2→https://note.com/wanpakutsk/n/nc15cbabe2668?sub_rt=share_pw  二 哀情  或る春のこと。蒼穹と追い風に煽られ、船橋から歩いて十分程の距離にある普遍的な雑居ビルまで足を運んだ巧は、そのビルに入り扉を閉めるや、残寒で仄かに赤らんだ掌にハッと息を吹きかけた。そして、このところの自身の体たらくを回想し、憂いた。  飯田橋の運送会社での件は、裏の事情とやらが絡んで隠蔽されたらしく、あれから二月が経った

      • 【長編小説】横乗り囚人 episode 2

        episode 1→https://note.com/wanpakutsk/n/n950fec9460b0?sub_rt=share_pw  その日は、会社裏に配置された十数台の大型トラックのうち、最も倉庫に近いトラックを使うこととなった。佐藤は、助手席のドアを面倒くさそうに突き飛ばし、開けた。次いで、雑な手招きをして見せる。この所作にも当然に苛立つ巧であったが、些末な仕草まで気にしていてはキリがないと察するや、大人しく助手席に座った。  乗用車より幾分か車高が高い視野、

        • 【長編小説】横乗り囚人 episode 1

           一 激昂  ひとひらの孤高を追い求め、辿り着いた果ては運送業であった。  長年の腐敗堕落、もとい臥薪嘗胆の日々と決着をつけるべく、背水の陣で勝ち取った大型免許を引っ提げ、飯田橋の小さな運送会社に入社した文元巧は、初日の朝上長から告げられた、横乗りなぞいう研修制度に絶望し、これまで幾度となく退職を打診してきた。がしかし、その度に先方から突きつけられる、独立の約束がどうも悪質で、これに因り彼の心中には、煩雑な葛藤が生じてしまうのだった。  で、現時巧はその約束された日を明日

        【長編小説】横乗り囚人 episode 4

          【短編小説】逆境のダガーナイフ episode 3【完結】

          episode 2→https://note.com/wanpakutsk/n/n3353e50c9e79?sub_rt=share_pw  人間の身体を殴打すると、酷く不快な音がする。動かなくなった岩井を玄関先に引きずり出したところで、私は力尽きた。夏のアスファルトには湿り気があった。  向かいの家に、いるはずの唯華は姿を見せなかった。彼女が一枚噛んでいることは間違いなく、私を貶めた黒幕もまた、彼女自身であることはもはや疑いようのない真実であった。  傍にある死体の足

          【短編小説】逆境のダガーナイフ episode 3【完結】

          【短編小説】逆境のダガーナイフ episode 2

          episode 1→https://note.com/wanpakutsk/n/n222b971424da?sub_rt=share_pw  防犯グッズとは名ばかりの、小型カメラや盗聴器ばかり取り扱う怪しいサイトを、幾つも調べ上げた。さる個人ブログ経由で、十円玉サイズのGPS装置を八千円送料込みで購入し、届いたのは一週間後の夜。郵便受けに投げ込まれていた粗雑な包装を解くと、やはり十円玉サイズのGPSが入っていた。私はすぐと使い道を思索した。  第一の壁を接近とするならば、

          【短編小説】逆境のダガーナイフ episode 2

          【短編小説】逆境のダガーナイフ episode 1

           いつかの沛雨に敗れ、頭を垂れたまま眠る向日葵を、水垢のついた窓ガラス越しに眺めていた。時が過ぎるにつれて、美しく思うようになった。  向かいの家の小さな花壇に咲く、その花たちがまだ元気だった頃、私はこの襤褸家に住み始めた。新宿から都電を乗り継ぎ四十分。私鉄に揺られて二十分。北黒岩駅で降車し、東に十二分ほど歩いて漸く辿り着く質素な襤褸家。間取りは六畳一間。家賃は四万五千円。四世帯だけのアパートが故に、ふとした時に横からも上からも煩わしい生活音がして、安らぎなぞ微塵もない。

          【短編小説】逆境のダガーナイフ episode 1