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映画「ポテチ」


2012年5月公開

この映画は震災後、それまで何度も伊坂作品を映画化してきた中村義洋監督によって、いくつもの映画の舞台となっている仙台へ恩返しをしたいとの思いから作られた作品です。

私は伊坂幸太郎さんの小説が大好きで、
中村監督によって映像化された映画も原作と同じくらい大好きです。

原作 伊坂幸太郎
監督 中村義洋
音楽 斉藤和義

ファンにはすっかりお馴染みのこのタッグ。
映像化の話を何度か断ってきた伊坂さんも
「中村監督ならとオッケーを出しました。」と、何かのインタビューで話されていたように記憶しています。確か斉藤和義さんには伊坂さんからオファーされたとか。伊坂さんがきっかけで和義さんの音楽のファンになり、今となってはライブに通うようになった身としましては、繋がりやご縁のありがたさを感じるところであります。

以下、内容にも触れていきますので
ストーリーを知りたくない方はここで読むのをおやめくださいね。


黒澤と今村

さて、映画「ポテチ」の冒頭シーン。
大森南朋さん演じる黒澤と、濱田岳さん演じる今村忠司が話しているその場所に注目です。
2010年公開の映画「ゴールデンスランバー」で堺雅人さん演じる青柳が無実を訴えるため姿を現した、まさにその場所が使われています。
ファンとしては、のっけからテンションが上がりまくりです。

主人公の今村は空き巣稼業ですが、
同業者であり上司(劇中、今村は親分と呼んでいますが)を演じているのが監督ご本人だったり、
監督熱演のその背後でエキストラとして竹内結子さんがワンシーンだけ出演されていたりと、ネタがふんだんに盛り込まれています。

目に入っていたのに、言われるまで気づきませんでした。

「いろいろあったけど、どうぞ今はこの映画を楽しんでください」というメッセージにも受け取れますし、何より監督はじめ俳優陣やスタッフの皆さん全員が愛を持って、なおかつ楽しみながらこの映画を作られたように感じました。

感情が読めない黒澤

伊坂さんの小説では複数の小説にまたがって登場するキャラクターがいたり、別の小説のキャラクターがちょい役で一瞬だけ出てきたりなどしますが、黒澤もそんな一人です。
空き巣と探偵を生業とする黒澤。原作では、感情を表に出さない(感情がない?)かなり独特な人物として描かれているので、演じるにあたり大森南朋さんも色々と工夫なさったのではないかと想像します。

寝起きの彼女感が秀逸

個人的には木村文乃さん演じる若葉がとてもよかったです。今村とのベタベタしない距離感が原作そのままでしたし、ちょっと頼りない今村を彼女が引っ張っていくように見えて、実のところは若葉のほうが今村を必要としている感じ。
それがとても自然に伝わってきました。

どの俳優さんを見ても思うのですが、
普通っぽいって難しいですよね。
木村文乃さんは普通がとても似合うと思います。
美人なのに普通に見えるって凄いことではないでしょうか?
あと、寝起きのすっぴん姿が醸し出す彼女感。
たまらなく可愛かったです。

さて、地元のプロ野球チームに在籍する尾崎選手と同じ日に同じ病院で生まれた今村は、ひょんなことから自分とその尾崎が生まれた時に取り違えられていたことを知ってしまいます。

甲子園にも出場し地元のスターだった尾崎にくらべ、自分には何も取り柄がなくパッとしない人生を送ってきた。
取り違えなど起こらなければ、自分の母親は今ごろスターを息子に持って違う人生を歩めていたのではないか?少なくとも、こんな出来の悪い息子を持つことはなかっただろうと思うと母に申し訳ない。
そんな行き場のない思いを抱えて苦しむ今村。
事情を知った若葉は、黒澤に言われるがままにある秘密の作戦を決行することになるのでした‥。

コンソメ味と塩味で泣く

濱田岳さんも、中村監督による伊坂作品には欠かせない常連組です。頼りなさそうに見えてここぞの時には行動力を発揮、学はないけど優しい心は人一倍(空き巣やってるけど)。
飄々として見えるけど、その内側はとても繊細。
そんな今村を見事に体現されています。
やはり濱田岳、さすが濱田岳。
ちなみに自分的イチオシは「ゴールデンスランバー」のキルオですけど。

上映時間68分と短い映画で物語が展開していくのも早い。軽快なやり取りとそのテンポの良さのおかげで、最後に流れる感動の涙も湿っぽくならずにすんでいる気がします。
野球のナイター試合が舞台なのですが、
この設定もとても好きです。
球場の夜間照明って、ちょっと不思議な感じがしませんか?他は真っ暗なのにそこだけ異様に明るくて、どこか現実味がない。
夢の中のような感じがあります。
涙ながらに若葉が言う台詞も素敵です。

今村くんの良さがわかる若葉さんって素敵な人だと思う

伊坂さんの書くお話は、必ずしもハッピーエンドではありません。起きている出来事だけにフォーカスするなら、ハッピーエンドどころか何も解決していなかったり、むしろ不幸と呼ばれてしまう終わり方だったりします。
なのに、どこか清々しい。
なぜか希望がある。
これまでの自分の人生まるごと愛したくなるような、爽やかで幸せな気持ちにさせてくれる映画、
ポテチの紹介でした。

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