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マジの天然っ子はかわいくないんだ

 私は2022年の1月に結婚し、東京で暮らしている。結婚生活が開始して約2ヶ月になる。今回は、その間に起こったある事件について書く

 私の夫の呼び方を「かまちゃん」とする。「かまちょ」の「かま」だ。
 かまちゃんは、実家で暮らしている期間が長かった。そのため、正直私は結婚生活においてかまちゃんの家事についてはあまり期待していないところがあった。
 しかし、ポジティブな意味でかまちゃんは期待を裏切り、初日から現在に至るまで当然のように家事をしている。なんなら私よりやっているような気がして頭があがらない。

 カマちゃんの家事の中で、特にめざましい成長を見せているのが料理だ。
 結婚した当初(長い目で見ると現在もいわゆる「当初」に含まれると思うが)1~2週間くらいは、中華レトルトのもとを使った、炒めるだけのおかずしか作らなかった。また野菜接種の意識は元々高かったのだけど、毎食スーパーのパックサラダを買ってきていた。正直コスパが悪い。
 ところが、今となっては材料を用意し、刻んで煮込んでカレーや生姜焼きを作るようになり、野菜に関してはレタスやキャベツをちぎりトマトを添えるなどしてサラダを手作りするようになった。「すごい成長してるね」と褒めると、「悟りちゃんの健康は僕が守らないといけないからね!」と返ってきた。神か?

 そんなある日、私が出社しなければならない日があった(普段はテレワークで仕事をしている)
 めんどくさいなあとぼやいていたら、「出社の日に唐揚げ弁当作っちゃおうかな!」とかまちゃんが目をキラキラさせて言う。

 これには驚いた。「唐揚げを揚げる」という発想を持つほど料理に積極的になっているなんて。また、妻のためにお弁当を作ろうとするなんて。

 正直、出社したときは会社の食堂に行くので、お弁当を作ってもらう必要性はない。しかし「お弁当を作る」という経験が、今後のかまちゃんのお料理ライフの転換点になったりするのかしら?など、子供の将来を想像する親のような気持ちになり、温かい目で手作り唐揚げ弁当をお願いした。

 きちんと唐揚げを作れるよう、唐揚げの作り方のYouTube動画を3本一緒に見た。なぜ3本も見たのかというと、1本目に見た動画の料理人が、最後の最後で「この唐揚げはお弁当には向かない」とさらっと言ったからだ。お弁当向きの唐揚げとそうでない唐揚げがあるということを、その時初めて知った。
 よって、続けて「唐揚げ お弁当」と検索し、表示された動画をさらに2本視聴するはめになった。

 かまちゃんは揚げ物をしたことがなかったので、結局交互に揚げる形になった。久々に揚げ物をしてみると、あらためて揚げ物は「面倒くさい」と実感した。
 作業自体は、
①食べ物に衣をつけて
②油に入れる 
というシンプルな工程である。面倒くささは心理的な負担がデカいところにある。
 心理的負担要素として、
①油が100度を大幅に上回る致死的な高温であること
②油の中でどんどん食べ物らしく姿を変える中で、油から揚げるタイミングがいまいち掴めないこと
③ちゃんと火が通っているかわからない点、が挙げられる。一連が終わるまで、まったく心が休まらない。

 初揚げ物をしたかまちゃん本人も同じような心境だったようで、揚げ時間を長めに取ってしまったことで墨の手前のような唐揚げが数個できた。

 そんなこんなで唐揚げが完成した。食べてみると、感心してしまうほどそれは「ザ ・唐揚げ」だった。
 食欲を掻き立てるニンニクの香りと香ばしいビジュアルに、口にした途端歯から伝わるガリッとした衣、口の中で弾むジューシーな鶏肉…。
 21時過ぎの揚げたて唐揚げとレモンハイボールは、なかなか心地よい背徳感だった。


 翌日、私は目覚ましの音で起きた。
 遮光カーテンの隙間が紫色になっていて、普段は寝ている時間帯に起きているという事実にうんざりしてしまった。
 自主的に早起きしていわゆる「朝活」するのと、平日に否応なく早起きをしなければならない時の早起きのモチベーションは全然違う。

 重い体を起こして寝室を出て、まず始めにかまちゃんが用意してくれたお弁当を冷蔵庫から出し、持ち出す準備をした。

 その後に顔を洗いメイクをして朝食を食べ、起床してから約1時間後に小走りで玄関をでた。外はもう朝になっていて、冷たい空気がおでこを刺してきた。

 家から会社までは電車の乗り換えが2回あり、約1時間半かかる。2回目の乗り換えを終え、やっと席に座れた。
 冬の電車の座席はぬくぬくしていて、外との気温差で一気に身体が緩む。まあそのせいで通勤時間を無駄にしまいと意気込んで本を読もうとしても必ず眠くなってしまうのだが。

 寝てしまう前に、昨日の日記をつけようとした。私は日記アプリで日々簡単に日記をつけている。昨日のトピックといえば、かまちゃんが唐揚げを作ったことだな、なんて思った瞬間


ないやん。唐揚げ弁当。

胸の中心奥がヒュッと冷たくなるのを感じた。

唐揚げ弁当を最後に見たのはいつだ?


…そうだ。

私は、そもそも持ってきていなかったのだ。

 朝1番にお弁当の用意をしたのに、持ち出すのを完全に忘れた。やってしまった。

 放心する私の脳裏に、自宅でポツンと置かれているランチバックの画が浮かんだ。眠気は吹き飛び、跳ねる勢いで夫に謝罪のラインをした。



 「できたての唐揚げと、作って時間が経ったお弁当のおかずとしての唐揚げ、どっちも食べることができてよかった。次回からのお弁当の参考にするよ。」


お昼に私が食べるはずだった唐揚げ弁当を食べた夫が言った。
どこまでもポジティブな態度に畏怖の念のようなものを感じ、この人に一生ついていこうと思った。


2人で作った初唐揚げ

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