スタートアップに広報PRが集まらない構造と解決策
最近スタートアップ社長さんと話したり絡んだりすると、なんだかみんな「広報」を探している感じがします。
11月に行われたPR Tableさんのカンファレンス「PR3.0」の影響もあってか、スタートアップ&ベンチャー界隈でPRや広報への関心がめちゃ高まっているように思います。素晴らしいことですね。
でも、「よし広報を入れよう!」と意気込んで探し出したものの、全然見つからない…という悲痛な叫びもよく聞くようになっていて、需給バランスが全然間に合っていない感じです。
私はPR会社出身で、そのあとフリーランスとしてPRや編集・ライティングのお手伝いをしたあとに、自分もスタートアップの中の人となりました。最近は長期がっつりのお手伝いはあまりしていないのですが、今でもときどき相談をいただきます。
広報どうしようーと悩んでいるスタートアップの方向けに、「スタートアップ広報」がなかなか採用できない業界構造と、とりあえずの解決策を書いてみます。
スタートアップにこそ広報が必要なのはなぜか
「スタートアップこそ早めに広報を入れるべき!」というのは、たぶん2018年後半に入ってから目につくようになった論調です。いわゆる「PR=Public Relations」という概念が経営者層に浸透しはじめたのもここ数ヶ月。
少し前に家入さんもそんなことをおっしゃってましたね!かなり同意。
(2023追記)Tweetが削除されてしまったので当時のことを取材した最近の記事を貼っておきます。
なぜこういう話になるのかというと、知名度もリソースもない初期のスタートアップにとって、広報の力でレバレッジを効かせて差別化していくことは、とても賢い投資だから。そして、大企業と勝負するうえでのスタートアップの強みは、間違いなくストーリーにあるから。
無名のスタートアップでも広報をしっかりやれば、商品は売れるわ、採用は上手くいくわ、社内の空気はよくなるわ、信用力が上がって投資元も見つかるわ、マジでいいことしかない。しかも、「情報」という形のないものを操る系のお仕事なので、そんなに実費がかからない。広報(本当はPRと言いたい)にはそれだけのパワーと可能性があります。
なかなか広報にリソースを割けない現実
ただし、スキルのある広報を採用してうまくやっていくのは、なかなか簡単ではありません。
慢性的な人材不足も理由のひとつですが、広報担当をしっかり見極めてワークさせること自体にもスキルが必要で、たいていの経営者にはそのスキルがないからです。
広報は長期的に価値を生むもので、即日効果が出るタイプの活動ではありません。しかも、その効果も定量的に測りづらく、費用対効果を正しく算出することも難しい。
となると、いくら社長本人が「広報は価値がある!」と信じていても、なかなか投資家や各ステークホルダーをロジカルに説得できず、人もお金もカツカツな初期のスタートアップほどコスト投下しづらい構造になっているというわけです。
これは私自身がフリーランスとして入っていたときにも、悩ましい問題でした。将来に向けた仕込みを着実に行っているものの、パッと見ではものすごい効果が出ているわけではないので、初期のシビアな資金繰りのなかで考えるとコストセンターでしかないという。。無念。
広報は「最悪、なくてもビジネスは回る」ポジションです。人事的指標の策定も難しく、正当な評価がされづらい。これが、スタートアップに広報人材が集まらない原因にもつながるのですが……。
スタートアップに良い広報人材が来ない業界構造
「広報できる人ってどこにいるの?(涙)」
みたいな訴えを本当によく聞きますが、スタートアップに良き広報人材が集まらないのには、業界全体の構造が関係しています。
広報という職種はわりと特殊で、営業のように新卒1年目から配属されて育ててもらうということがありません。優秀な広報さんは、
のどちらかであるパターンが多いです。広報として基礎力の教育を受けられる場があまりにも少ない。しかも、100社100様・時代の変化も受けやすく、一度学んでしまえば一生食べていけるタイプの職種でもありません。
1つめの「たまたま広報になった系人材」は、整った企業内にいることが多く、まずスタートアップには回ってきません。積み上げたキャリアをわざわざ捨てなくても、いくらでも条件のいいポジションがあるからです。それに、大企業で身につけた広報スキルは大企業でしか生きない。スタートアップではむしろハンデになりかねません。
では狙いたいのは2つめの「PR会社出身の人材」ですが、これもなかなかスタートアップには移りません。PR会社は広告代理店に近い業務スタイルで、1人が複数社を担当して日々慌ただしくやっています。会社にもよりますが、成果重視型で個人が正当に評価され、総じて給与が高めです。キャリアチェンジをするとしても、別の代理店系に行くか、より自分の関心に近く整った事業会社で挑戦するかのどちらかが多いです(経験上)。
要するに、正当にスキルを磨いてきた人ほどスタートアップで広報をやる旨味がない。こういう環境で活躍してきたにもかかわらず、広報への理解も薄く、チーム体制もできていなくて、社内制度や評価基準すら整っていない会社に進んで来る人ってけっこう物好きですよね。
しかも実際なってみたらわかりますが、スタートアップ広報は超孤独なポジションです。相談相手もいないし。そのうえ先述のように正当な人事評価がされづらく給与も下がるときたら、広報としての今までのスキルを生かして働くにはあまりにも面白くないフィールドなのです。
(余談ですが、社内でメディア掲載などを報告したときに、同じ温度感で喜べる人がいなさすぎてびっくりします)
それでもスタートアップ広報をやろうという人は、何か強いビジョンのある人です。自分のキャリアを一旦ゼロに戻してでも目指したい世界がある、という独立心旺盛なところもあります。
ただ、それでいて基礎広報力も高いレベルで備わっている人というのはかなりレア。そんな広報に運良く巡り会えたなら絶対に離さないようにしてほしいところですが、そう上手くはいかないですよね。
では現実問題、どうすればいいのかな。
ビジョン型広報を伴走で育てていくのがおすすめ
スタートアップの広報のやりかたとしては、以下の3つの選択肢があります。
①の方法が最も多いと思いますが、広報PRは専門職です。てきとうにプレスリリースを配信するくらいならできるかもですが、長期視点で広報計画をつくってやっていくのは、なかなか片手間だと難しい。本質的な広報にはなっていないのかなと思います。
②は、短期的な効果は出るかもしれませんが、社内にノウハウが蓄積されない点で、あまりオススメではないですね。私はこれを「一生死ぬまで賃貸契約の家で暮らすようなもの」とよく言っているんですが、フィーの垂れ流しになりかねません。どうひっくり返っても外部は外部なので、社内やインナー要素の強いステークホルダーも含めたトータルコミュニケーションも難しい。これからは社内も社外もシームレスに関係づくりをしていくことがますます求められるので、「メディア露出を取るだけ」みたいな外注は無意味だと思います。
で、おすすめなのが③に手を加えたやりかたです。
これが答え(200likesとかでびびった)。経験豊富でビジョンにも共感してくれるパーフェクトな広報を採用するのはかなり困難なので、あきらめましょう。特に1人目の広報を採用する場合、スキルはなくてもいいので「ビジョンへの共感と会社への愛があるか」を基準にするといい感じです。
先日、こんな記事も話題になっていました。HOWではなくWHYがマッチするというのは、本当にそのとおり。なぜかというと、スキルは後からいくらでも身につけていけるけど、会社への愛と共感は努力でなんとかなるものじゃないからです。
広報ほど、愛と共感に左右される職種はありません。理系脳の人は「嘘だろ」と思うかもしれませんが、感情が大きくパフォーマンスに影響します。だって、好きでもない会社のこと一生懸命発信したりしないもん、絶対。
メディアなど外部の人にたいしても、会社のことや事業のこと、はたまた業界全体の動向について、誰よりも詳しく語れなければなりません。その意味では、日常生活やプライベートの親和性の高さも大事だったりします。たとえば、主婦向けサービスの広報は主婦がやったほうが当然いい、とか。「仕事は仕事」と割り切りづらい側面もあります。
社員が10人、20人と増えてきたら、社内の別ポジションの人を「専任広報」として抜擢するのもいいですね。会社のことをよくわかってくれていれば話は早い。
ただどうしてもその人には広報スキルのHOWの部分が追いついていないことが多いので、独自スタイルで頑張ってもなかなか成果が出ず、肝心のモチベーションも下がっていってしまいます。間違った方向で努力するほど虚しいことはないですね。
最近はフリーランスでPR支援をしている人がちらほらいるので、そういう人にコーチングに入ってもらいましょう。手法をきちんと教えてもらえば、習得は早いはず。これが一番おすすめの方法です。
大事なのは「伴走型」というところ。上から目線でペラペラと口出すだけのコンサルタントはたくさんいるけど、それを活用できるようになるにはもう少し時間と規模が必要かも。初期ステージでは、同じ目線で会社のことを一緒に考えてくれつつも、実際には社内の人が気持ちよく動けるようにサポートしてくれる、みたいな絶妙な立場関係を作れるといいよね、という感じ。
PRには正解はありませんが、ある程度のお作法とセオリーはあると思ってます。ビジョンに共感した人が、HOWを身につけるとスゴイ加速するよ!
というわけで、スタートアップ広報についてでした。何かお困りのことがあればお寄せください〜。可能な範囲で反応してみたいと思います!
おわり。
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