【洒落怖漢譯】猿夢(原題:猿夢)

譯文

吾在夢中,則意明晰,能自覺也。獨身在站,站寂而無人。俄聞聲不知其自何來,曰:「列車要來,就會遭凶」車到,其状即礦車似玩具也。男女芒然坐而列數人。吾異之,欲自試,因就其第三座。是夢也,太凶者可醒。

坐。氣潤如液,時晰似寤。車沿軌行,入隧道則暗,出則明。有聲。曰:「下一站,刺身」刺身,何謂也? 乃自後座聞叫喚之聲。反顧,車尾有群猿衣黒衣,而環一夫。皆以刃刺之,血射如噴。毎取臟腑,夫輒絶叫。吾惑甚,顧他。彼我之間有長髮婦,但默而瞻前耳。可恐矣! 此夢。所刺夫亡,有肉片凝。

復有聲曰:「下一站,去眼」兩猿現,以匙去婦之眼。婦忽苦絶叫,眼從窩繋,嚥血嗚咽,濺我。安得然後獨存乎? 三有聲曰:「下一站,絞肉」吾知所置,思將覺矣! 將醒矣! 行之如此則無不覺醒。俄猿持刃機駕我。瞑而又思。機響轟然相風。將觸,音止,寤於牀。

遍身盜汗,起暴飮水,猶戰慄不息。翌日,言諸學堂,而莫聽。四年後,就大學,勉學打工,忘夢。

某日,在夢中,聞聲曰:「去眼」吾再坐車。反顧,猿去婦眼。直瞑目而不覺。又曰:「絞肉」鋒刃迫我。思,覺矣! 醒矣! 身邊卒靜,得逃也。將開眼,聲曰「必殺汝矣!」起身在牀。是非所聞於夢中也。吾何由被害如此也?

書き下し文と語彙解説

吾夢中に在れば、則ち意明晰にして、能く自覺するなり。獨身站に在り、站寂にして人無し。俄に聲の其の何れ自り來たるを知らざるを聞く、曰はく「列車來たらんと要す、就けば會ず凶に遭はん」と。車到る、其の状即ち礦車の玩具に似るなり。男女芒然として坐して列すること數人。

○明晰 はつきりとしてゐる。○獨身 一人で。○站[現] 驛。○自何 どこから。○要… ここでは副詞。もうすぐ…する。○會 必ず。きつと。○状 すがたかたち。○礦車[現] トロッコ。○玩具 遊具。○芒然 ぼんやりと。


吾之を異とすれども、自ら試さんと欲す、因りて其の第三座に就く。是夢なり、太だ凶なれば醒むべし。坐る。氣潤ふこと液の如く、時晰らかなること寤むるに似る。車軌に沿ひて行く、隧道に入れば則ち暗く、出づれば則ち明るし。聲有り。曰はく「下一なる站は、刺身」と。刺身、何の謂ひぞや。乃ち後座自り叫喚の聲を聞く。反顧す、車尾に群猿の黒衣を衣して、一夫を環る有り。皆刃を以て之を刺す、血射すること噴く如し。臟腑を取る毎に、夫輒ち絶叫す。

○太… あまりに…すぎる。○隧道 トンネル。○下一[現] 次の。かくの如き交通用語は、近代以前には乏しく、現代語を借りた。○刺身 原文は「活けづくり」。これと意味を同じくする日本語「刺身」は和習であるが、「身を刺す」の意味として用ゐれば、後述のありさまを表すに卻つて適してゐると思はれるので之を採用した。○…何謂也 …とはどう云ふ意味か。○反顧 後ろを見る。○猿 原文は「小人」と表記されるのみで、猿とは言はれてゐないが、類推して猿とした。○毎…輒~ …する毎に~する。


吾惑ふこと甚し、他を顧る。彼我の間に長髮の婦有り、但だ默して前を瞻るのみ。恐る可きかな! 此の夢は。刺す所の夫亡して、肉片の凝る有り。復た聲有りて曰はく「下一なる站は、去眼」と。兩猿現れて、匙を以て婦の眼を去る。婦忽ち苦しみて絶叫す、眼窩從り繋り、血を嚥みて嗚咽し、吾に濺ぐ。安くんぞ然る後に獨り存するを得んか? 三たび聲有りて曰はく「下一なる站は、絞肉」と。吾置く所を知る、思ふ將に覺めんとするを。將に醒めんとするを。之を行ふこと此くの如くんば則ち覺醒せざる無し。俄に猿刃機を持ちて我に駕す。瞑して又た思ふ。機響くこと轟然として相ひ風す。將に觸れんとす、音止む、牀に寤む。

○瞻前 前を見る。○去眼 「去」は「取り除く」の意。○窩 くぼみ。○繋 ぶら下がる。○濺 ふりかゝる。○絞肉[現] 挽肉。○所置 されるところ。○駕 またがり乘る。○瞑 目をつぶる。○相風 私に風が吹き付ける。「相」は「我」などの賓語が倒置したものである。


遍身盜汗あり、起きて水を暴飮す、猶ほ戰慄して息まず。翌日、諸を學堂に言へども、聽く莫し。四年の後、大學に就き、勉學打工して,夢を忘る。

某日、夢中に在り、聲の「去眼」と曰ふを聞く。吾再び車に坐す。反顧すれば、猿婦の眼を去る。直ちに瞑目すれども覺めず。又た曰はく「絞肉」と。鋒刃我に迫る。思ふ、覺めよ。醒めよと。身邊卒かに靜かなり、逃ぐるを得たるなり。將に開眼せんとするに、聲ありて曰はく「必ずや汝を殺さん」と。身を起こせば牀に在り。是れ夢中に聞く所に非ざるなり。吾何に由りてか害を被ること此くの如きや。

○遍身 全身。○盜汗 寢汗。○諸 「之於」の縮約。○打工[現] バイト。○鋒刃 武器などの刃先。○卒 にはかに。

各種リンク

參考元:猿夢 

私の漢文アカウントはこちら:書くための漢文研究(@kakukanbun)
自作の解説書はこちら:書くための漢文研究 文書版

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?