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誰のどんな人生からでも、学ぶところや感じるものはあるものだ『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』

ブレイディみかこ『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』

ちなみに、キンドル版もあるが、ジャケットが結構いいので、単行本がおススメである。

最近、『ぼくはイエロー・・・』が文庫化されたようで、本屋で見かけがちなブレイディみかこ氏。『ぼくはイエロー・・・』のおよそ1年後に出版された本が、この『ハマータウンのおっさんたち』である。

タイトル通り、イギリスのおっさんについての本だ。書き出しにもあるように、行き詰まりがちな先進国では、おっさんが悪者にされがちである。本書で取り上げられているおっさんは、およそ1955年~60年ぐらいに生まれた人たちなので、日本でいうと、ジジイ、という言葉で我々がイメージするような対象になるだろう。

日本でも、マナーが悪い、店員とかに偉そうにする、怒鳴る、自分たちの逃げ切りだけしか考えてない、などと評判が悪いジジイたちであるが、まあ、誰もが知っているとおり、そういう人たちも一人の人間であり、世代論だけでは語りきれない部分が必ずあるわけである。おっさんたちも人間である。

そんな、本書で取り上げられるおっさんは、イギリスの労働者階級のおっさんたちである。とことんドメスティックで中流知識層の家で育った自分としては、イギリスの労働者階級と言われてもいまいちピンとこないわけで、ブレグジットがどうみたいなこととか、移民の事とか、崩壊しそうな保健制度の事とかは正直全然わからない。

ひとつわかったことは、この人たちが、ある種ワーキング・クラスとしての誇りと諦めが混ざったような価値観を持っていて、それに良い部分も悪い部分もあるのだなあということだ。

おっさんたちは、典型例でいえば飲酒のような悪癖がやめられず、妻には捨てられるし、すぐに失業する。もちろん、一時的には落ち込んだりするのであるが、「おれの人生だから、まあこんなものだよな」と立ち直り、また新しい恋をしたりしてしまう。そう「絶望なんてロマンティックなことは上の階級がすること」なのである。

自分の身の回りにも、わりと浮き沈みがある人はいるのだが、こういったちゃんとした諦めというかわきまえみたいなものを持っている人は、おっさんと言ってもまだ若いからか、少ない。みんな、現在の地位とか評判とか収入とか、そういうものが傷つくことをわけもなくすごく恐れている。これについては、群れで暮らす生物である以上、人類というのは「立場」に対する脅威に敏感なのだ、といった説明がなされることが多い。一瞬、なるほどー、となることも多いのだが、考えるまでもないが、世間での評判が多少悪くなったり、仕事が多少減ったぐらいでは、案外、人生というのは簡単に崩壊したりはしないものである。

普通に考えればわかることだが、例えばトモダチが何かやらかして、世間から叩かれたりしたとしても、別に自分や親しい仲間に対して不義理をしたりしたのでなければ、身内としては特にこれといって評価を変えたりするようなことはない。むしろ助けてあげたりするものである。逆に、ちょっとアレなやつが、多少仕事で成功したりしたところで、特に評価を改めたりもしない。

こういう、立場が悪くなることを無意味に恐れるみたいな現象の裏側には、自分はもっと良い立場の人間として扱われてしかるべき、みたいな考え方が見え隠れするように思う。おまえ、そんなに高級な人間だったっけ?相応の評価にアジャストされただけでは?と思うようなケースも多々ある。

まったく上昇志向がないというのも考えものではあるし、実際に、労働者の子供は労働者なんだ、みたいな考え方がこびりつくのは、社会としてあまりよいこととは思えない。とはいえ、なんか自分は認められて当然、なんとかして上に行かなきゃ、みたいなことをひたすら信じてる人も、それはそれで問題があるように思う。夢は破れるものだ。いちいち気にしてたら生きていられない。

年功序列的な事が災いしているのかどうかわからないが、人生を右肩上がりだと思い込んでいる人は意外と多い。今日のおれは昨日のおれを超えているか。そんなレベルまで含めると、右肩上がり志向は、頭のどこかにしぶとい巣を作っていて、隅々まで点検してもなかなか追い出せないものだ。

しかし、現実の人生は浮き沈みがあり、右肩上がりであり続けることは絶対にない。正直自分ぐらいでも、もう人間としてはピークを過ぎていると考えて間違いないだろうと思う。体力も、気力も、そして影響力も収入も、いずれは減少して死んでいくのが人生である。

別に、貧乏人の子は貧乏でもいいじゃないかとか、そういうレベルのことを言いたいわけではない。「おれの人生なんてこんなもんだよ」と、どこかで思っておくことは、人生をしぶとく生き抜くためには結構重要な事なんじゃないか、ということである。

昨今、ネットやなんかで目にするものには、どうにも、何かを身に着けていち早く上に行こうみたいなタイプの上昇志向なものが多い。不安な時代には人々は勤勉になるものらしい。しかしながら、そこで謳われている良しとされているものは、自分にとって価値のあるものなんだろうか?思い描く人生は、「おれの人生」と呼べるものだろうか。

テイク・バック・コントロール。時代がどう変わろうと、自分の人生を生きよう。

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