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話題に飛びついてしまうのもいかがかと思いつつも、グレイステクノロジーをみて思ったこと

■ さらばグレイステクノロジー

最近、「だいたい売上の半分が架空」、「オフィスに行ってみたらもぬけの殻」などと、話題のグレイステクノロジー。本日、2ヶ月延長していた四半期報告書提出期限を経過してもなお四半期報告書が提出できず、上場廃止となる事が確定した。

2021年11月15日→2022年1月17日

https://www.jpx.co.jp/listing/market-alerts/supervision/nlsgeu00000652y6-att/nlsgeu00000652zn.pdf

いうても、こういうのは普通はなんとかかんとか期限内に間に合わせるものであるが、不可能だったようだ。なにが致命的なボトルネックだったのかは知る由もないが、なかなか期待されていた銘柄のようで、残念な限りである。

まあ、こういうのは、おそらくどこかの大手がビジネスをお買い上げして、その資金でスクイーズアウトって感じになるのかね。

■ グレイステクノロジー社の概略

同社は、1986年に設立された「日本マニュアルセンター」なる、マニュアルに特化した制作会社という、目の付けどころのよさげな会社を前身として、2000年に設立された。現在のグレイス社設立の経緯においても、1999年に役員が突然辞任し、架空の売上・外注によって、実体のない会社に資金を振り込むなどという、まあまあレベルの高いトラブルが発生し、日本マニュアルセンターが経営危機に瀕した事を契機として、リスタートの必要が生じたから、という、わりと業の深い感じのする会社である。

以前、製造業系ユーチューバーのものづくり太郎氏が製造業のマニュアル作成の効率化がどんだけデカいか、という話を語っていた動画で見ただけのにわか知識なのだが、製品ライフサイクルが短くなり、グローバル化が進んでいるような昨今、マニュアルを作るコストというのもバカにならないらしい。詳しくは見てもらえばわかるが、日本が得意とするような製造装置なんかで考えると、その装置は世界中で使用される可能性があり、ローカライズがとにかく大変なだけではなく、各国のレギュレーションに合わせて表記を入れる必要があるなど、多大な労力がかかっている。そんな領域である。

そういう意味では、マニュアル関連のDXというのは、かなり地味は地味だが、意外とNOWなビジネスである。今後も、製造現場の機械化やロボットへの置換、事務処理の自動化等でマニュアルが必要となる装置等はどんどん増えていくだろう。

ちなみに、ものづくり太郎氏のチャンネルは、製造業のナウみたいなことについてドヤるためには非常に強力なのでおススメである。ただし、ホンモノの製造業のPROの前で、わかったような口を利かないようにだけ気をつけよう。コツは「最近こういうの話題になってるって聞いたんですけど、リアルな感じどうなんすかー?」みたいな感じで、教えを乞うてみる事である。そうすると、色んなマニアックな話を教えてくれたりくれなかったりする。少なくとも、「製造業について学びたい意欲のある人なんだなー」という風には思ってもらえるだろう。

心温まるユーザー層

さて、(脱線した)

そんなマニュアルのDXというトレンドはあるものの、マニュアルの制作受託を受けていたところに微妙な感じを受けないでもないグレイス社。同社は2016年12月にマザーズ上場を果たした。粉飾が本格化したのはその翌年の2018年3月期から。最終的には売上の半分近くが粉飾になってしまった。株価への期待、強気の業績予測、形のない投資家のプレッシャー・・・そして、キャピタルゲインで一攫千金という甘美な夢・・・そんな市場の魔物に食われてしまったのだろうか。

まあ、しかしそんな感じでは早晩行き詰っただろうな、という感じはしないでもない。

■ 調査報告書は他人事として読んではいけない

四半期報告書提出不能のお知らせから間もなく、調査報告書が公表された。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/6541/tdnet/2072811/00.pdf

売上の前倒し、分割計上、そしてポケットマネーを用いた「完全架空型」(ネーミングw)取引へと、エスカレートしていく感じがぐいぐい伝わってなかなか良い。以下、特に擁護するつもりはないのだが、こういうのは案外、他所の国の話みたいなものではない、という趣旨の事を書いておこうと思う。

この手の、目標必達・売上至上主義的なマインドというのは、揶揄されがちなものであるが、成長とか向上といった、誰もが一定程度持っている欲望と地続きのものであると自分は思う。大陸で言うと同じ大陸みたいな。努力と達成、創意工夫による問題解決、それをやり遂げた時の達成感や自尊感情。それらはまさに麻薬であり、人間はより高い目標、より困難な目標に駆り立てられがちなもの。いざとなると、ある程度出来たから来年は適当で投資家に頭下げときゃいいや、とはいかないものである。

こういう不正事案みたいなものを読むとき、世界の裏側で起こったバカげたひさんな出来事、のような読みかたをするウカツな人ほど危ない。その穴は、あなたの足元にもぱっくりと口を開けていて、多くの人は、そこに足を踏み入れてしまったことすら気づかない狡猾な悪魔めいた罠なのだ。それぐらいに考えておいたほうが良い。

疑問を感じつつも不正に巻き込まれていく人達の心情もリアルである。NOというべきだ!と言うのは簡単だが、実行するのは多くの人にとって難しい事だ。通常考えられる大人の対応としては、関わらないようにさっさと逃亡する、ということになるが、人によっては「それなら会社をやめれば良いではないか、というような簡単なことではない。」などとしており、ヒューマンのリアルをビシビシ感じるところである。

実際問題、なんか周りの人に合わせとこう、みたいなマインドが世の中になくなってしまうと、それはそれで、大いに治安が乱れる事になるだろう。こういう「群れで暮らす」ことに適した人類の性質みたいなものは、そうそう変わるものではない。まっとうな組織運営を目指す上で「群れ全体」を良い方向に向けること、というのは極めて重要な事で、自分の体感として、それをできる才能を持った人はとても少ない。運よく、そういう人がリーダーになればよいが、現実には、大体「ボス」というものは腕っぷしで決まるのでやっかいなところだ。

「ボス」の言う事に基本的に従うというのも、群れを維持する上では考えるまでもなく重要な事だろう。一定数世の中には、誰がボスかはっきりさせて欲しい、みたいなマインドの人もいる。当事者となった役員陣は当然責任を問われる立場であるが、よくよく考えると、一応40人くらいは従業員がいるのだから、誰か一人ぐらい、このままじゃうちの会社ヤバいっすよ!みたいな騒ぎを起こしてもよさそうなものである。そういうことがあったのかなかったのかはわからないが、こんなにエスカレートするまで表に出てこなかったというところは、よく考えてみたいところだ。

イカついパワハラ企業みたいなところだと、大体ひどい目にあって辞めた従業員とかが、どっかにタレ込んだりするものである。まあ「外部からの指摘を受け」パターンなので、誰かSESCに凸したりしたのかも知れない。

ともかく、人類は愚かであり、あなたも私も、人類なのだ。

2019年3月期有報より

■ ガバナンスの基本がなってないみたいな話の違和感

こういうケースでよく言われるのが、そんな基本も出来てなかったのか!的なことである。これはもっともと言えばごもっともなのだが、色々な現場を見ていると、IPOとかガバナンス村の人々の、わりとステレオタイプな感じも、なんかこういう事案が生まれてくるのになにか関係しているんじゃないか、という気がしてならないところである。

大体の小さな会社は、実際のところ、コンプライアンス委員会をやりたいとも思っていないし、独立した内部監査部門が必要であるとも考えていない。冷静に考えてみれば、社内に顔と名前が一致しない人がほとんどいないようなたかだが数十人の会社で、独立した内部監査が無いと社内のインチキとかルール違反が見抜けなくて治安が保てないのだとしたら、そっちのほうが問題だ。相当に病的な状態といって良いだろう。仮にそんな感じなんだとしたら、内部監査部門を設けてみたところであまり役に立ちそうにない。小さな組織をまっとうに運営するために必要なのは、正味、まともな社長と、有能かつ常識のある右腕ぐらいのものである。

大体数十人規模の会社というのは、そうはいっても全員がプロフェッショナルみたいなはずもなく、単なるスタッフみたいな人が半分ぐらいは絶対いるはずである。となると、実際の経営というのは、多くて10人、なんなら5人とかでやっているのが大半のケースなんじゃないかと思う。

そんな組織で、IPOのテンプレめいたガバナンス体制を敷くというのは、普通に考えたらかなりトゥーマッチというか、実効的な運用を支えるだけの組織のバックボーンも筋肉も備わっていないので無理がある、と見るのが当然のように思う。しかし、いざ上場審査となると、なんしか出来もしない様々なルールを導入しなければならないのだ。

そもそも論から言うと、そうした「上場レベル()」の体制がマストなんだとしたら、それを支えるだけの人的資源やキャッシュといった経営リソースが無いような会社を上場させるべきではないと思うのだが、一方で、社会を変革するようなニュービジネスに優秀な人材や投資マネーを引き付けるためには、ベンチャー的な会社にもどんどん市場に出てきてもらって、ニュースを生み出してもらわなければならない。という、それはそれで「正しい」事情もある。

それもわからなくはないし、IPO村の住人としては、なんとか自分の食い扶持を探してこないと、という話もあるだろう。とはいえ、取り敢えず上場審査段階でそれっぽい資料を揃えられるようにと、本当に必要かどうかも定かではない、中身のある運用が可能な地力があるかどうかもわからない、そんなルールをテンプレ的に導入して、十分な体力を備えていないような会社を上場させてしまうことは、果たして良い事なのだろうか。

また、そういうスモールな会社にとって、本当に必要なガバナンスのキモみたいなのはなんなのか?という事を、本当に取引所を含めIPO界隈の人々は考えているのだろうか。疑問である。

大体の会社が一見大体同じようなガバナンス体制を敷いているというのは、よく考えてみるとかなり異様な事だ。一社一社、ビジネスの内容も異なれば、歴史、文化みたいなものも異なる。もっとミクロなところを見ると、経営者や役員のキャラクターも個々に異なる。マジメに、自社にとって最高のガバナンスみたいなものを追求すると、なんならひとつとして同じ体制の会社は存在しない、となってしかるべきなんじゃないかと自分は思う。

しかし、現実に行われていることは、ベストプラクティスをふわっと平均した感じの、パッケージ化されたガバナンスを盲目的にインストールしているだけである。そんなものが、根付くと考えることがそもそもおめでたいと思うのだが、自分がおかしいのだろうか。

もっとも、昨今、DX化みたいな文脈の中でしきりに言われているとおり、効率を考えたら、独自性みたいなものは排除して、運営をテンプレートに合わせていきましょうみたいなのも、もっともらしいことではある。そういう意味では、ガバナンスのパッケージ化みたいなものも、いたずらに否定されるべきではないのかも知れない。ただ、経営のような、現在のところ、わりとヒューマンなものと考えられている分野でも、それが妥当するのかどうか、自分は疑問に思うし、そもそも、現在流通しているようなガバナンスパッケージが、各社オリジナルの取り組みと比較して、効果的であり効率的であるという効果測定みたいなことは、ちゃんと行われているのだろうか。自分は、あやしい限りだと思っている。

IPOを手伝いますみたいなコンサルティングビジネスを色んな立場で色んなプレイヤーがやっている。これもビジネスの効率みたいな事を考えた場合、上場審査に通りやすいパッケージを売ってしまうことが、上場を成功させるという顧客の目的と、カネを設けようという自分の目的から言うと、効果的で効率的だ、という事になるのだろう。しかし、それは本当に当事者である会社にとって「ためになる」制度設計となっているのだろうか。普通に考えれば、そういうのはオーダーメイドになってしかるべきだと自分は思うのだが。

ともかく、テンプレを導入しなければ、にっちもさっちもいかないという現実があるのは仕方ない。そして、取引所も、薄々なんかまたテンプレみたいなこと言ってきてんなーと思いながらも、フェアに審査をしましょうという観点からは、一定の証拠を出されてしまうと、(実際はわからんけど)まあOKッス、みたいにならざるを得ないところだろう。就活エントリーシート必勝法みたいなもんだ。そんな無意味な事やめちまえ!みたいに言っているのは、実際のところ、自分のような、若干アナーキーなけがある人間だけなんだろうと思う。

そうなってくると、せめて、内容を理解した上で、一応は趣旨をそこなわないように運営して欲しいところであるが、残念ながら、世の中の経営者で、そこまでリテラシーの高い人間というのは限られている。誰もが、みんなやってるそれっぽいことを、なんとなくやっているだけで、中身を深く考える人というのは珍しい。

そういう風なことを考えると、上場審査では、変なテンプレ項目をなめてつぶしていくぐらいなら、主要な経営者を呼びつけて、3日ぐらいかかる多岐にわたる記述式のペーパーテストでも受けさせて、それなりの見識が備わっているかどうかを問うたほうが、まだマシなんではないかと思わんでもない。ペーパーテストというのは、物事の理解度を問う、万能ではないが、一定程度有効性が認められてきた伝統的な手法である。一夜漬けや暗記には意味がないという意見もわかるが、一応、ひと通り勉強してみると、多少なりとも知識が身につき、見えてくる景色も変わってきたりするものだ。

経営者のトレーニング、みたいなことも求められる昨今であるが、人に言われないと勉強しないような経営者は、そもそもダメなんじゃないか、そんなことを思うこの頃である。


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