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ベニオフ『トレイルブレイザー』は粗削りだが結構大事なことが書いてあるいい本だと思ったから、勢いで紹介する。まだ後悔はしていない。

きみはもうトレイルブレイザーを読んだか

2020年7月にセールスフォースのマーク・ベニオフが著した『トレイルブレイザー』の邦訳が出版された。

うまくまとめられた理論書とは言い難いが、これからのビジネスにとって基本となる重要なことが述べられている。いずれ、これを深化させた経営論みたいなものが出てくるだろう。

なにより、トレイルブレイザーとかいう名前がカッコいい。そういうところもあって、おれはこいつは流行りそうだぞ、と直感したので、今日は本の紹介をしたい。

紹介したい理由は、あってるとか間違ってるとかではない。
何となく流行りそうな気がするからだ。
それを強調しておきたい。

簡単に内容をいうと、企業は株主のために利潤を追究するだけではダメで、善き事をしなければならないみたいな話を、セールスフォースが直面した様々な出来事から語るもの。まっとうなコアヴァリュ―をいかに設定し、文化として育んでいくか、その大事さが説かれている。

そのようなことは今までも繰り返し言われていることのように思うが、ベニオフは、それを社会を良くすることにつなげる、ということに力点を置いて繰り返し言う。

善き事をせよ、などと言われると、うさん臭く感じるのが、我々古代の資本主義人である。

しかし、既に世の中で言われているとおり、世界を良くすることと利潤を追求することは、必ずしも相反することではない。

むしろ、これからのことを考えると、この二つの関係は強くなっていくとおれは思う。

ビジネスのグローバル化と、どんどん強くなるプラットフォーマー企業の影響力。情報の民主化。SNSの時代。評価が利益を生む時代。。

色んな背景があるが、成功した企業はいまや、世界の問題との関わりなしではやっていけない。自社の評価に影響を及ぼし、それが経済的なインパクトにもなるからだ。

企業は今や重要なインフルエンサーとみなされている。

単にプロダクトを人々に届けるだけではなく、人々から支持される存在であり続けること、その側面や役割を無視して、やっていくことは、今後ますます難しくなるだろう。

ここには、世界の価値観の移り変わりがある。重要なトレンドは、ピュアな資本主義的なものへの懐疑である。

成長が鈍化する先進国。悪化する財政。一部のテックジャイアント。拡大する格差。。

資本主義が経済を発展させれば、当然大金持ちは出現するが、なにより人々の暮らし全体が良くなる。

というのは過去の話。

時代はスローライフ、丁寧な生活めいたもの。価値は具体的なエコノミーからバーチャルなものへとシフトしていっている。

格差の問題が深刻だ。

今のところ、格差がうまいこと是正される気配はないし、知っての通り、さらなる拡大が予想されている。進行し続けるAI・ロボティクス化。ネット、テック社会に対するリテラシー。教育。今のままだと、様々な理由で取り残される人々が発生するだろう。

そういった人たちを放置することは、結局のところできない。

だいたいの物語でそういうひどい格差みたいなものは、最終的にヒーローによって打倒される運命にあるのだ。文化作品が我々の価値観に与えている影響を侮ってはいけない。ひどいディストピアみたいなことをやむなしとすることは、多くの人にとって案外難しい事になるだろう。

ベーシックインカム的なものが、昨今では、セーフティネットのひとつの形として、次第に注目されるようになり、主にコスパの観点から議論がされている。

現在ではまだ先の話と捉えられているが、いずれは何らかの形で、やむを得ず社会に実装せざるを得ない、そういったことになるだろうとおれは予想している。そうでもしないと、格差は埋められないし、みんなディストピアは嫌だからだ。

直接の担い手が、政府になるのか、企業や市民になるのかはさておき、財源は当然ながら偏在する利潤しかないだろう。つまり、稼いだ人が負担するという事になる。


短期、狭い視野でいうと、コスパ的にあり得ないと感じられるかも知れないが、長い目では、企業は人々の生活を守る事から無関係ではいられない。

いい暮らしをする人が増えれば増えるほど、経済は大きくなる。経済、社会インフラへの投資が、企業に、より多くのリターンをもたらす事につながる。そういった考え方が強くなってくるだろう。

我々は今その初期の段階にいる。

現時点では、企業はあくまでも投資家にリターンを返すための私的なもので、世界を良くすることは直接のミッションではない。しかし、結局のところそれは考え方の問題。

今までも、斬新な優れたサービスで世界を良くする企業は勝ち残ってきた。

資本家はそのために投資を行い、それに見合うリターンを得るという仕組みが機能してきた。

しかし、投資家を儲けさせることが、我々人類の最終目標だったのだろうか?

資本と労働力を集積すれば、大きな力で世界の変革を進めることができる。そこから得た利潤を再投資することで、さらなる好循環を得ることができる。この仕組みはとてもよく機能するものだった。

しかしこれはあくまでも、そういうツールが便利だよね、という話であって、そればかりが目的とされるのもまた違う。

おそらくこういう価値観の変化、問い直しが今後ますます盛んになってくるとおれは見ている。

世代交代は必ず起こる。

いまZ世代などと言われる人たちが、新たな感性を持って社会に出てくる。消費者としても労働者としても。

ジェネレーションZが最終的に社会でどういう人たちになるかは知らないが
今のところ、
・個性を大事にする、つまり多様性を認める
・世界と情報でつながる、つまり社会の問題を共有する
・平等、堅実、オープンなコミュニケーション
みたいなよくわからない連中だと言われている。

だいたいこういう世代論みたいなものは、金に汚い大人が適当なイメージを若者に当てはめるというはなはだ信用ならないものなのだが、そういうのにコロっと乗せられて、その気になってしまうのもまた人間である。

従って、そういうやつらがどんどん社会に出てくると思っておいても、8割がた間違いではないだろう。

するとどういうことが起こるか。

「1年ぐらい働いたけど、我慢ならないから言うわ、
 うちのCEOはマジ金の亡者だから○○社はクソ会社」

「○○の中のものだけど、新しい商品は
 マジクッソコスパ悪くてヤバいからみんな買うなよ」

こういうことを個人が簡単に発信して、それが「イタいヤツ」ではなく、共感される、といったような未来も十分あり得る。

企業が、目先の金を追って行動に失敗すると、不買運動や従業員の離職を招くことは盛んに起こると想像すべきだろう。

また、これからも世界は変化を続けるのである。新たなことに備えるうえで重要なのは、優秀な人材を確保しておくことだ。世界から認められる意義深い組織であることが、高い給料を出すことよりも重要になる可能性は十分ある。

そして優秀な人材を惹きつける事も大事であるが、ここで働きたい、という人間を雇うことがむしろもっと重要だということは、言うまでもないだろう。


しかし、社会問題にコミットするというのは、だいたいが儲かっている会社だからできる事であり、ましてや、経営者でも何でもないおれには関係ない。そういう意見もあるだろう。

確かに、おれも多少そう思う。

これは成功者がかっこつけて語っている、プレジデントめいたくだらないたわごとに過ぎないのではないか、と。


ちまたには、成功するためのノウハウがあふれている。ところが、不思議なことに、ほとんどの人は、世間でいうところの成功をほとんどしないのである。

ビジネス本を読んだ、普通の人が結局どうなるか。

それは簡単で、経営を評論するようになる。

飲み屋で評論家気取りで語るのもするが、具体的には、プロダクトにお金を払ったり、イイネをしたりするようになる。逆にdisったりするようにもなる。

個々に取り上げると些細な行動である。しかし、こういうのが、案外身の回りの人に小さな影響を与える。

それがマスになると、どうなるか。

とんでもないデカい影響になるのは想像に難くない。

だからおれは強調する。流行りそうなものはよく知っておくべきだ、正しいかどうかではない、と。

トレイルブレイザー的な考え方がよく知られるようになると、そういう軸で会社や経営者、他人の行動を評価する人が出てくる。それに沿うかどうかはまた別の問題だが、このことはよく踏まえておくべきだ。

例えば、自分が経営者みたいな人に話をするとき、世間では最近こういう評価軸が強くなってきてますよ、と言えるか言えないかは大きな違いになる。

誰もが自分の評価や意見を世間に公開することができる時代がすでに来ていて、そして、評価が経済的な成果と密接に関係する社会が本格化してきている。

そしてそれは、今も加速し続けている。このムーブメントにうまく対処することが重要だ。決して無視をすべきではない。

そのために、今何をすべきか。
トレイルブレイザーをポチってライバルに差をつけるのだ。


なお、大体おれがへんに盛り上がっていることは、そう大層なことにはならず、知らないうちに自分でも忘れていることが多いということは、念のため付け加えておくとしよう。


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