#378 ソニック・シーズニング
音楽がもたらす飲食体験の変化
飲食店の雰囲気を作る手段として、BGMの重要性はよく知られています。しかし、その効果は単に雰囲気作りにとどまらず、料理の味覚にも影響を与えることが分かっています。この現象を「ソニック・シーズニング」と呼び、最近注目されています。この記事では、その具体的な効果と実例を紹介しながら、飲食店経営に役立つヒントをお届けします。
#ソニックシーズニング
3つの心理的効果
①マスキング効果
BGMは、隣のテーブルでの会話やキッチンでの作業音など、周りの雑音を覆い隠す役割を果たします。これにより、お客様は周囲の音を気にせず、リラックスして食事を楽しむことができます。この効果は、特に賑やかな環境や狭い店内で顕著に現れます。
②感情誘導効果
音楽は感情を動かし、それに連動した行動を引き起こします。例えば、アップテンポな曲が流れているときは食事のペースが速まり、スローテンポな曲が流れているときは穏やかな気分でゆっくり食べることができます。また、閉店時間近くに『別れのワルツ』(蛍の光)を流すと、お客様は「そろそろ帰らなければ」という気持ちになります。
③イメージ誘導効果
BGMは店舗の雰囲気やイメージを演出する強力なツールです。「楽しい」「くつろげる」など、店内の印象を音楽によって強化することができます。内装やスタッフの雰囲気、業態、価格設定に合わせた選曲が効果的です。
季節感を演出する
季節に応じた音楽を流すことで、より一層の季節感を演出することができます。例えば、夏には涼しげな曲を、冬には暖かみのある曲を選ぶと、お客様の気分もそれに合わせて変わります。また、クリスマスやバレンタインなどのイベントに合わせた音楽を流すのも効果的です。
#心理効果
著作権に関する注意点
飲食店で音楽を流す際には、著作権の問題に注意が必要です。CDや配信、動画サイトで提供されている音楽は、個人で楽しむ非営利目的の使用が前提です。店舗での使用には、著作権を管理する団体に手続きし、使用料を支払う必要があります。許諾を得ずに音楽を流すと、著作権侵害となり、損害賠償責任を負う可能性があります。これを避けるためには、BGMや音楽配信のサービスを提供している業者と契約するのが賢明です。業者は「USEN」「モンスター・チャンネル」「OTORAKU」が有名です。
#著作権
実験結果が示す音楽の効果
イギリスのオックスフォード大学の心理学者、チャールズ・スペンス教授の実験では、BGMが料理の味覚に与える影響が明らかになりました。700人の被験者に対して、様々なジャンルのBGMを流しながらテイクアウト料理を味わってもらい、検証が行われました。その結果、音楽のジャンルによって料理の味や食欲が変わることが分かりました。
なかでも、最もマッチングするという結果が出たのはイタリア料理とクラシックの組み合わせです。その理由として、「両者は歴史的にも関わりが深いためではないか」と推測されています。また、スパイシーなインド料理にはアップテンポなロックが合うとされ、音楽の影響で料理の味が強調されることが示されました。その他、中華料理にはポップミュージック、寿司やタイ料理にはジャズが適しているという結果も出ています。
Red Hot Chili Peppersの『By The Way』+タンドリーチキン
ここで興味深い組み合わせの一例として、Red Hot Chili Peppersの『By The Way』とタンドリーチキンを紹介します。アップテンポでエネルギッシュなこの曲を聴きながら、スパイシーなタンドリーチキンを食べると、その味わいが一層引き立つかもしれません。音楽のリズムとスパイスの刺激が相互作用し、味覚体験を豊かにしてくれます。
#RHCP
Spice Girlsの『Wannabe』+カレー
さらに、Spice Girlsの『Wannabe』とカレーの組み合わせも興味深いです。元気でポジティブなこの曲を聴きながらカレーを食べると、そのスパイス感がさらに強調され、より一層美味しく感じられるかもしれません。
#スパイスガールズ
音楽のテンポや音量と味覚の関係
音楽のテンポや音量、音程も味覚に影響を与える要素です。例えば、大音量のBGMは甘味や塩味を鈍らせるとされています。ある実験では、大きな音と小さな音のホワイトノイズ※を聞きながらクッキーとチップスを食べる調査が行われました。大きな音のホワイトノイズを聞きながら食べた被験者は、甘味や塩味を感じにくかったと報告しています。
※ホワイトノイズ...全ての周波数で同じ強度となる雑音。テレビの砂嵐など。
さらに、調子外れな音や速すぎるテンポの音は酸味を強く感じさせる効果があるとも報告されています。これらの研究結果は、飲食店でのBGM選びにおいて非常に参考になると思います。
#ホワイトノイズ
五感の相互作用とクロスモーダル現象
「食事は五感で楽しむ」という言葉がありますが、聴覚もその一部であることが分かっています。音楽が味覚に影響を与える現象を「クロスモーダル現象」と呼びます。五感のとある感覚が刺激されることで、脳が過去の記憶などから実際には起きていないことを想起し、起きたと錯覚してしまうのです。
例えば、風鈴の音を聞くだけで涼しく感じたり、赤色の甘味料にイチゴ味を連想するのもクロスモーダル現象の一例です。イギリスの有名シェフ、ヘストン・ブルメンタール氏は、この現象を利用して、三つ星高級レストラン「The Fat Duck」で音楽を聴きながら食べるメニューを考案しています。シーフード料理を提供する際には、貝殻に隠したiPodで波の音を流し、味覚を刺激しています。
#クロスモーダル現象
まとめ
音楽が飲食体験に与える影響は計り知れません。BGMを効果的に活用することで、店舗の雰囲気を演出し、料理の味覚を引き立てることができます。季節やイベントに合わせた選曲や、適切な音量の調整も重要です。また、著作権の問題に注意しながら、安心して音楽を楽しむための手続きも忘れずに行いましょう。
BGMの力を最大限に活用し、より魅力的な店舗作りを目指しましょう。音楽が持つ力を信じて、ソニック・シーズニングを取り入れた新しい飲食体験を提供してみてはいかがでしょうか。
#音楽と飲食