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▍「0→1」より「1→10」が難しい?

■はじめに


「新規事業の立ち上げを経験したい」「0→1の経験を積みたい」

ベンチャー企業にいると、このようなキャリアを目指す後輩の声をよく聞きます。かく言う私も、同じように既存事業→新規事業立ち上げ→事業横断のBizDevというキャリアを歩んでいますので、この気持ちは非常に共感できるところです。

ただ私の場合、新規事業の立ち上げを経験する前と後では、「0→1」への認識が大きく変わりました。どちらも面白く、やりがいがあることに変わりはありませんが、個人的には「0→1」よりも「1→10」(あるいは10→100)が難しいと感じています。

今日はそんな「0→1」と「1→10」についてお話しします。


■既存事業→新規事業立ち上げで感じた「楽さ」

私は幸運なことに、新卒2年目で新規サービスの立ち上げを経験させてもらいました。

営業1人目で組織を立ち上げ、契約書を作って新規営業にいっては断られ、リリース後は新規開拓からCSまで1人で全部やりながら、なんとか売上が立つところまで仲間を増やしつつやってきました。

もちろんビジネス経験もないただの新卒営業マンが、
新しいサービス・新しい組織を立ち上げるわけですから、
任された当初は本当に毎日会社にいくと何をすればいいかわからず、とりあえず営業リストに電話をかけるだけの生活をしていました。

徐々に一人にも慣れてマーケター・エンジニアと一緒に要件要求をあれこれ思案したり、バックオフィスと連携して契約書内容や経理的な処理の業務フローをゼロから考えたり、様々な仕事をしてきました。

当然当初は新規だけでなく既存事業の営業もやっていましたから、
業務の幅は広く、いわゆる激務だったと記憶しています。

みなさん口をそろえて、新規事業の初期フェーズを「カオス」と表現し、
耐え難く難易度の高い、レベルの高い業務だといった認識
を持たれているように思います。

ただ、私が数ヶ月新規サービスの立ち上げをしていて抱いた感情は、
「根性さえあれば意外と楽だな」というものでした。

毎日前に向かって進んでいるからです。
歩んできた道が特にないわけですから、何をやっても、前しかないのです。

転んでも、身長の分だけ前に進めます

一方どうでしょう、最後新規事業に完全に異動する直前まで兼任していた既存事業では、すでに数年間事業を運営し、自分の上司たちがあれやこれやと試行錯誤してきた結果としての事業体がそこにありました。

ダイエットの初期に1kg減らすのは簡単ですが、
3kg痩せたあとに更に1kg痩せるのはなかなか難しかったりするあれです。

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つまり既存事業においては、
過去がんばってきた自分たちのがんばりを大きく上回る改善をしないと、前に進めないのです。

新規事業は違います。
もちろんお金を作れない程に間違った方向に進めば失敗・撤退もありますが、ある程度ドメイン知識があり顧客とその課題の解像度が高い状態であれば、大外しすることはありませんから、頑張れば頑張った分、新鮮に成果に出るのです。

これが、私が「0→1」に感じる「お、意外と楽じゃん」という感情です。
毎日わけもわからないまま電話をかけまくった日々も、今考えれば数百万、数千万円の売上につながる顧客にむかって前進していたのです。


■「カオス」とはなにか。


天文学者でありインフルエンサーでもあるBoss Bさんが出演されたPIVOTの動画の中で、すごく腑に落ちた言葉があります。

「未来とは、乱雑である」

「時間はなぜ未来に進むのか?」というテーマから派生したお話だったかと思います。

未来に進めば進むほど、あらゆる原子・分子の動きの可能性(未来のパターン)は乱雑になっていく。未来とは、整然であったものが、時間の経過とともに周りの原子・分子と影響し合って乱雑になっていくあらゆる可能性であると。

いわゆる新規事業の代名詞としての「カオス」は、
本来的にはこの「乱雑」と似た意であると思います。

そして他にも好きな言葉が登場します。
「未来はわからないからこそ選べる」
「未来は決まっていたとしても、私達にはわからない」

これらを合わせて考えると、既存事業はすなわち「乱雑さがより進んだ事業体」といえます。そして乱雑さはより乱雑になっていきます。
つまり、未来こそカオスなのです。新規事業だけがカオスなのではなく、カオスに向かう過程であるだけであり、積み重ねるほどによりカオスになっているのです。

時間軸的には、長い事運用してきたサービスのほうが「乱雑さ」の尺度では先にいるのです。

新規事業に対して世間で声高に言われる「カオス」という表現が、
実際にその現場にいる人間からすると真逆の表現であることが、少しイメージとして伝わるのではないかと思います。

なにもないからこそ選べるのです。

この施策をやったらどうなるだろう?
その答えが経験値として見えるほどに、やれることが減っていくのです。

だからこそ私は、「0→1」、「1→10」(PMFを10とすると、イメージとしては、「10→12」のような仕事でしたが。)のいずれも経験してきた身として、積み上がった乱雑さの中で戦っている既存事業の改善者たちに、大きなリスペクトを持っています。

先日X(旧Twitter)でみつけたダイニー・松本さんのポストも紹介しておきます


■とりあえず「ゆくゆくは新規事業に…。」と話す就活生のみなさんへ。


新規事業とは「整然」から始まる作業です。
「目的」「リソース」などの数少ない制約があるだけの「整然」とした世界です。

そこから試行錯誤して何かを生み出すと、
それによる制約が増え、より乱雑になります。
乱雑さが重なるほどに、打ち手がなくなり、負債となっていきます。

私は比較的大きい会社にいますので、定期的に新規事業が立ち上がっています。同時に、社内には業界トップシェアのサービスもいくつかあります。

そんな環境だからか、多くの学生さんが、
「御社に入ったらぜひ新規事業に…」とお話をされています。

2024年度入社の新卒社員の配属前後にも「自分は新規行きたいです」「既存の運用は嫌です」そんな声をよく耳にしました。

ぜひ、既存事業から新規事業へとキャリアを移してきた経験者の立場から、「どちらも経験するほうが良い」「既存だからといって運用だけだと思っていると運用すらできない」「正直同じドメインなら新規より既存の方が難しい」という経験談をお伝えできればと思います。


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