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映画「牡牛座 レーニンの肖像」_晩年、孤立、無縁。

身動きが取れない状況。その苦しさを描いた作品の中で、これほど真に迫ってくるものを、私は知らない。


ソ連を建国した「英雄」であるレーニンは、働き盛りの52歳、1922年5月に突然脳卒中の発作を起こし、倒れた。以降、彼は休養と復帰を繰り返して、1924年に逝去する。
療養ちのモスクワ郊外ゴールキの別荘で、はじめの頃、レーニンは病床から様々な指示を出していたが、しかしその影響力は急速に奪われていく。白い悪魔の手によって。
ソ連政治局から、レーニンはかんぜんにひきはがされている。映画は、この時のレーニンの姿を写す。

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監督自身が操るカメラは、長回しでレーニンが衰えた姿を映し出す。
右半身が麻痺した状態で、それでも歩こうとし、唸り声を上げる。
点在するランプ(それも光量の低い)だけが照らす部屋の中は常に薄暗い。
室内が明るくても、もはや彼の視界ははっきりしないだけだろうが。

医師たちが、非医学的かつ非人道的な処置を加え、彼の体を痛めつける。
精神的にも、肉体的にも、ネグレクトされている。
不安の中で、レーニンは呻く。
トロッキーほか建国を共にした心を許せる同志は、周囲に誰もいない。
得体のしれない不気味な側近、またはメフィスト:スターリンがいるだけだ。
すでに国内の権力は、真っ白な軍服を着た彼によって掌握されている。
彼の手で、他者は面会させられないようにされている。
この白い悪魔がどんな表情を浮かべているか、おぼろげで、分からない。

おそらく彼は、気分を悪くするような微笑みを浮かべながら、こう思ったに違いない。「自由に、好き勝手に振る舞うこと」それができるのが権力だ。

レーニンの背中を見て密かに得たこの教えを旨に、スターリンは以後三十年間、レーニンの後継者の名の下、しかし恐らくレーニンが目指した国造りとは遥か遠い方向へ向けて、自分のやりたいよう好き勝手振る舞い、大往生を遂げる。
享年は、レーニンよりはるかに長い。



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