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映画「三十四丁目の奇蹟」_『サンタさんは、いるの?』

クリスマス・イブには、それに相応しい映画をお贈りしよう。
1947年のアメリカ映画「三十四丁目の奇蹟」だ。

物語の舞台となるのは、いま世界のどこでも逆風に晒されている百貨店。
マンハッタンに位置するメイシーズの旗艦店、創業の地の最初の店舗だ。

1858年にニューヨークに移転、マンハッタンの6番街14丁目にニューヨーク最初の店舗を構えた。1902年にはブロードウェーと34丁目角のヘラルド・スクエアに移転。その後もさらに店舗拡大を繰り返し、現在では6番街と7番街、34丁目と35丁目の各通りに囲まれた一角のすべてを占めるまでに広がった。

WIkipedia「メイシーズ」の記事から引用

いまから70年前、アメリカが戦後空前の好景気を迎えていた時代のこと。
この物語は、白いおひげのお爺ちゃんが、ぶらぶらと三十四丁目を歩いているところから、始まる。


クリスマス商戦の開始を告げる仮装パレードの準備中に酔いつぶれたサンタ役を叱りつけた白いお髭がチャーミングな老人(エドマンド・グウェン)。
人事係のドリス(モーリン・オハラ)の判断で代役を務めるよう、願われる。
最初は断るも、ドリスの説得に押されて、あっさり承諾する、ツンデレおじいちゃん。NYど真ん中のガチのパレードで、堂々とサンタを演じてみせる。

尻目にドリスはとっとと帰宅、娘のスーザン(ナタリー・ウッド)のことが心配なシングルマザーだからだ。当時花形の百貨店勤めだから、生活に余裕はある。
あえて問題といえば、母親の仕事柄か、母親のさばさばした性格の影響を受けてか、スーザンもかなりドライな女の子ということだ。もうお姉さんだから、サンタクロースなんて信じないのだ。
スーザンに近からず遠からずの距離で「サンタなんて創造の産物よ」と声に出して言うお母さんにも、多少問題はあるとは思うだが。

私(筆者)の母親は、中学一年になるまで、毎年12月25日には英語でタイプした「サンタクロースの手紙」を贈ってくれた。ツリーの下のクリスマスと合わせて、毎年、心躍らせていたものだ。私の母と、本作のドリス。やはり親が違うと、子供の考え方も変わってくるのだな、と思う。 
(なにもドリスのしつけが悪いとは思わないが、余談ながら。)


さて、一仕事終えて、バックヤードではクリスマスの商業主義にぶつくさ文句を言うサンタさん。彼のスタンスは、店内の売り子でも活かされる。
子供たちから、クリスマス・プレゼントの相談を受ける仕事。メイヤーズに子供が欲しがる商品がないと知れば、別の百貨店の商品を紹介してやる。ヨーロッパからアメリカに渡ってきたWW2の戦災孤児のお願いに、オランダ語で答えてみせる。母親たちは「商業主義よりクリスマス精神を活かすなんて大したものね」(だからメイシーズのファンになるわ)と支配人直々に遠回しな皮肉を言うほど、このおじいさんに惚れ込んでいる。

父親になってくれるかもしれない弁護士フレッド(ジョン・ペイン)に連れられて、メイシーズの店内に入ったスーザン。サンタさんを論破するつもりが、説得力ありすぎな姿に、本当にサンタはいるのだと、逆に信じこんでしまう。
お母さん、これには焦って、「これは芝居だ」と目の前のサンタを否定しようとするも、サンタさん「私は本当にサンタなのだよ」と言って疑わない。
彼に提出させた雇用カードまで、本名:クリス・クリングル(サンタクロースの別名)、出身地:南極、とある始末。


果たして、この底抜けに無邪気なサンタさんを巡って周囲の大人は右往左往(子供達は大歓喜)、「スミス都へ行く」よろしく最後は「サンタクロースを裁く」大騒動に発展する。
長じて「理由なき反抗」「草原の輝き」「ウエスト・サイド物語」で見せた苦悩の影などゼロ、素直で愛くるしい女の子になってみせたナタリー・ウッド。
下積みが長く、60歳になってようやくのスポットライト、浮世離れた風貌や性格の白髭のおじいさん=サンタクロースに成ってみせるエドマンド・グウェン
男社会に揉まれたビジネスマンとしての顔と、一人の母親としての顔、見事に演じ分けてみせるモーリン・オハラ。
三者三様の魅力に支えられている。

だから、台詞回し、脚本の巧みさが身に染みる。
サンタクロースの存在を信じてみたい…  そんな星夜に相応しいドラマだ。

s監督のジョージ・シートンは、舞台俳優、ラジオの声優を経て、脚本家に転身した変わり種。「黒処女」で初のアカデミー脚本賞を受賞。監督を任せられるようになってからも、ほとんどの作品で脚本を執筆し、本作と「喝采」でアカデミー脚本賞を受賞。ロマンティックで軽いタッチの作品を得意とした。
遺作は1970年の「大空港」。(応援監督はヘンリー・ハサウェイ)。パニック映画の元祖と言われるも、アクシデントパートはまるで手を握らない、むしろ雪が深々降り積もる夜の空港内で繰り広げられる善意の人間模様でほっこりさせられる、不思議なグランドホテルもの。
ひょっとしたらこれもクリスマス映画かもしれない。ご覧あれ。



クリスマス映画・選

移民のクリスマス。「クリスマスのその夜に」。

悪夢のクリスマス。「ウィザード・オブ・ライズ」

賢者の贈り物のクリスマスほか4編。「人生模様」。

サンタの存在を問うクリスマス。「三十四丁目の奇蹟」。



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