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3つの糸が見事にこんがらかって消化不良。「夜明けの祈り」。

2016年に公開されたフランス・ポーランド合作の映画『Les Innocentes』(邦題:「夜明けの祈り」)より。
監督は「ココ・アヴァン・シャネル」のアンヌ・フォンテーヌ。

第二次世界大戦中のポーランドが舞台。ポーランドの修道院で働く若いフランスの修道女マチルドは、赤軍の侵攻により多くの修道女たちが妊娠してしまったという報告を受ける。これはソ連兵による強姦の結果。しかし、修道女たちはこの事実を外部に知られることを拒否し、社会的な非難や信仰の危機を避けるために秘密にしようとする…。


三人の主要人物が織り成す、三者三葉、三つのドラマがある。

一つめのドラマは「マチルド(演:ルー・ドゥ・ラージュ)が空ける風穴」。信仰を一旦脇に置いてもらうことで、マチルドは修道女のお産のために院内に入ることを許される。彼女の存在が閉鎖的な修道院の慣習に風穴を空けたようなのだが、どうも救世主然すぎるような気がする。
加えて彼女のパートでは、赤十字病院と修道院間の雪道の行き来、行きずりの男医とのロマンスも欠かさないため、物語の流れを激しく阻害している。

二つめのドラマは「修道院長(演:アガタ・クレシャ)が起こすサスペンス」。ソ連兵の暴行を受けた後、動揺する修道女たちを引き止めるため、修道院長は「信仰による秩序の確立」に必死に、かたくなとなる。その必死さが、妊娠した修道女と、彼女らが産み落とした赤ん坊に、暗い影を落とす。唐突に狂信的な面を顕にするのは否めないが、閉鎖的な教会秩序を体現したような振る舞いには、ぞっとさせられるものがある。

三つめのドラマは「シスター・マリア(演:アガタ・ブゼク)がもたらす福音」。修道院内でも際立って陽気な彼女はカルメンよろしく奔放な人生を生きてきた。「信仰とは99%は疑い、残りの1%に救いがある」の台詞通り、人生経験豊富な先達として、苦しむ他の修道女のそばに寄り添い、慈しむ。
厚い修道服の下に隠した女性を、母性を、胸元開けてあたたかく見せている。

一つめのドラマと三つめのドラマは、うまく共和しあって、縦糸を成している。それを二つめのドラマという横糸が、見事にこんがらさせている。
一言でいえば、無理に修道院長を悪人にする必要はなかったのだ。

かくて、本作が目指したのは、絶望に抗おうとする「ペスト」だったのか、カトリックの暗部を暴く「スポットライト 世紀のスクープ」だったのか、閉鎖的な教会にストレンジャーが新風を吹き込む「天使にラブ・ソングを」だったのか、釈然としないまま、映画は終わる。
しかし3つの糸をうまくより合わせることが出来た人にとっては、戦争の残酷さと人間の弱さに直面する修道女たちの姿を通じて、信仰と慈悲の力が人々を救う可能性を表現している、と伝わるかもしれない。


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