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夢の国を食わず嫌いするひと、まるで俺たちを見ているよう。「ウォルト・ディズニーの約束」。

「プロフェッショナル “夢の国”スペシャル 知られざる、魔法の秘密」を見た。

意見は色々あると思うが、
かの「夢の国」の魔法を信じているか、信じていないかでも、
大分、感想が変わってくると思う。(私は、信じる方だ。)

「夢の国」の魔法を分からない人にこそ、ぜひ観てほしい映画が、今回紹介する本作だ。1961年、創業者率いる「夢の国」が、自らの内面を、告白する。

長年にわたり『メリー・ポピンズ』映画化を目指すウォルト・ディズニー(トム・ハンクス)は、ついに原作者P.L.トラヴァース(エマ・トンプソン)と共に映画の製作に入る。 しかし、彼女は提案する脚本やアイデアをことごとく否定しはじめ、製作は難航していく。なぜ彼女は頑なに映画化を阻むのか。名作映画誕生に隠された真実とは。
キャスト
P.L.トラヴァース:エマ・トンプソン/塩田朋子
ウォルト・ディズニー:トム・ハンクス/安原義人
トラヴァース・ゴフ:コリン・ファレル/津田健次郎
ラルフ:ポール・ジアマッティ/石住昭彦
リチャード・シャーマン:ジェイソン・シュワルツマン/小森創介
ドン・ダグラディ:ブラッドリー・ウィットフォード/根本泰彦
ロバート・シャーマン:B・J・ノヴァク/下崎紘史
マーガレット・ゴフ:ルース・ウィルソン /高橋理恵子
ギンティ:アニー・ローズ・バックリー/大室佳奈
エリーおばさん:レイチェル・グリフィス/相沢恵子
スタッフ
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ケリー・マーセル、スー・スミス
製作:アリソン・オーウェン、イアン・コリー、フィリップ・ステュアー
製作総指揮:ポール・トライビッツ、クリスティーン・ランガン、アンドリュー・メイソン、トロイ・ラム
撮影監督:ジョン・シュワルツマン
プロダクション・デザイン:マイケル・コレンブリス
編集:マーク・リヴォルシー
衣装デザイン:ダニエル・オーランディ
音楽:トーマス・ニューマン

Disney ブルーレイ・DVD公式サイトから引用

トラヴァース夫人はヘンクツだ。
なにせ、創業者本人じきじきに招待され滞留したディズニ・リゾートホテル
部屋に入るや、アメニティをすべてクローゼットの中にしまってしまい、
ベッドの上のビッグサイズのミッキーマウスのぬいぐるみを

You can stay over there until you learn the art of subtlety.

と言って、壁脇に押しやるのだから。

彼女の「夢の国」に対する態度は、「俺たち」同様にシニカルだ。

I know what he's going to do to her. She'll be cavorting, and twinkling, careening towards a happy ending like a kamikaze.
IMDB公式サイト から引用

どうせ「ただの」ハッピー・エンドにするんでしょ? 
そんな単純なの、望まない。もっと深みを、人生の教訓を意味あるものを。
彼女の頑なな態度、まるで「俺たち」をみているようで、なんとなく、恥ずかしくなってくる。

重要なのは、これが、
難しく言えば「社会のテーマパーク化、大衆消費主義に対する意識的反抗」
簡単に言えば「食わず嫌い」ではなく
彼女のものすごく悲しい過去に由来するもの。

幼い頃、愛する父と引っ越した、未知の土地、オーストラリア。
ひろびろした大地で、詩作と空想の世界に心をはためかせる楽しさ、大切さを教えてくれた父。
しかし、彼女は、そこで父が滅びていくのを、見届けることになってしまった。

そんな悲しい過去を夢に見、ぱっと目が覚めた夜、
彼女は、壁脇に押しやったミッキーマウスの人形を拾いに行って
ぎゅっと、抱きしめるのだ。

夢敗れた父を見て育ったからこそ、
「お伽噺では、人生に対するファイトは湧かない」のが、彼女のスタンス。
では、どう映像化したいのか。これは、彼女自身も答えを持っていない。
答えを持っていないから、今まで映画化を拒んできたんだし、
他の人のアイディアに従うのに、意固地になるのは、当然だ。


終盤、彼女の内面での混乱を察した、ウォルト・ディズニーは、
トラヴァース夫人に一対一の対談を申し込む、
そして、「メリー・ポピンズ」の子供達の父親・バンクス氏のモデルが、夫人の父であることを見抜き、こう説得する。

George Banks and all he stands for will be saved. Maybe not in life, but in imagination. Because that's what we storytellers do. We restore order with imagination. We instill hope again and again and again.

IMDB公式サイト から引用

彼女は、父の言葉を忘れられなかった。

Don't you ever stop dreaming. You can be anyone you want to be.

だから、彼女は、ディズニーに自分の魂を託すことにした。
結果、世に「メリー・ポピンズ」という傑作が贈り出される結果となった。

トラヴァース夫人やウォルトばかりが主役ではない。
「夢の国のものがたり」を支えるスタッフたちも、本作では主役だ。
夫人のワガママに答えるべく、寝食忘れて作曲作詞に励むシャーマン兄弟、
悩み迷うウォルトを側で励ます秘書・トミー、
そして、トラヴィス夫人の乗るリムジン専属の運転手、ラルフ…
彼らの仕事への真摯な姿勢もまた、偏屈な夫人の心の氷を溶かすのに、一役買っている。

誰かの夢を叶えること。叶えるために尽くすこと。
その美しさ、他の人なら薄っぺらく聴こえるだろうが
エマ・トンプソンとトム・ハンクスの二人の名優だから、説得力を持つ。
そして、夢で世界は光り輝く。


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