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田舎へ帰ろう。 浸るべし、侯孝賢監督作品「冬冬の夏休み」と「恋恋風塵」。

今年のお盆の帰省、おそらく、多くの人はあきらめていることだろう。
せめて、映画のなかだけでも里帰りしよう ・・・侯孝賢が、観たくなる。


80年代、「台湾ニューシネマ」で侯孝賢が書き留めたのは、高度成長以前というべき、懐かしき光景、祖父母や両親の時代から続いていたような生活の断片だった。その代表する作品が「冬冬の夏休み」「恋恋風塵」の二作品だろう。
簡潔に紹介する。

過ぎ去り、二度と帰ってこない思い出の夏。 「恋恋風塵」

1960年代末。山村で幼い頃から常に一緒に育てられた幼馴染の少年アワンと少女アフン。アワンは成績優秀だったが家が貧しく、家計を助けるために、台北に出て働きながら夜間学校に通っている。アフンも一年遅れて台北に来て働き始めた。大都会台北で二人の絆はさらに強くなり、何時しかお互いに愛情を抱くようになる。しかし、アワンは兵役につかねばならなくなり、金門島に配属される。二人は互いに手紙を送りあうことで互いの近況を確認し合うが、いつしか、アフンからの手紙は届かなくなり…

ビデックスJP 公式サイトから引用

一緒に映画を見る。
村の広場にスクリーンが貼られ、野外上映会が開かれようとする。
祖父が小さな孫のために、「お子様ランチ」を作ってやる。
少年たちが、下宿している映画館の裏部屋で賑やかに食事をする…。

やがて別れる少年少女の、最後に一緒に過ごす夏が描かれる。
そして少年は、兵舎の中で、少女が他の人と結婚したことを知る。 哀哭。
少年にとって掛けがえのない:過ぎ去ってしまった夏のものがたり。


来年、また帰ってこれるおもいでの夏。 「冬冬の夏休み」

1984年夏、冬冬(トントン)は妹の婷婷(ティンティン)を連れて、夏休みの期間中、祖父母の家に預けられることになった。目的地の銅鑼駅に降りたった二人を待っていたのは、村の少年たち。阿少國を初めとする少年たち。早速、仲良くなった友達がこれからの楽しい夏を予感させる。そして、一見厳しいが孫思いの祖父との交流、仲間たちとの川遊び、少し頭が弱いが婷婷を救ってくれた寒子(ハンズ)との出会い…田舎でのひと夏の経験は二人の心に忘れられない宝物を残してゆく―

ビデックスJP 公式サイトから引用

主人公二人が幼い分、こちらは「恋恋風塵」よりも、目線を下げている。
村の子供達と川へ泳ぎに行く、木登りする、昆虫採集する、飼牛を追う。
ここに、村に過ごす大人とのドラマも挟まれる。
冬冬と婷婷が今まで目撃したこともなかった様な、スケールの大きな世界。

冬冬と婷婷が里帰りしたのは、母親の容体は悪く、父親が看護に忙しいから。
母が健康を取り戻したことを聴いて、ふたりは父とともに台北に戻る。
でも、それは寂しいものじゃない。また帰ってこれる。そんな淡い期待を残して映画は終わる。


朱天文の脚本の力を借りて、侯孝賢は、自身の祖父母や両親の時代から続いていた生活の断片:制作当時台湾ですら既に失われつつあった高度成長以前というべき、懐かしき光景を、フィルムに焼き付けた。 それは黒澤明が讃えたところ

この作品の風景や子どもたちが美しいよね。丹念に描いているから、大人も昔は純粋で美しかったと思えるし、子どもの内包した世界のキレイさが際立ってくるのだと思う。

黒澤明の選んだ百本の映画

と言い当てたところ。


せめて、映画のなかだけでも里帰りしよう。そこには、都会では感じることができない感情が、待っている。


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