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ゴタク!! 第一話「田中、世界救うってよ」note創作大賞2023 漫画原作部門

あらすじ


204X年。異星人Qが襲来。
人類は対抗する術もなく土地を、未来を、蹂躙される。
2050年。
しがないサラリーマン・田中実(28)は異星人との戦いにおける最前線に放り込まれる。なぜなら彼は5択なら絶対外さないから。
説明しよう。
異星人の名称QはQUINTET(クインテット)の略。5体1組で現れるが本物は1体のみで、あとは分身。そんな異星人Qに対して、人類は有効な対策を打てずにいたのだ。
田中の能力は異星人Q対策にうってつけ。
渋る田中だったが事態が収束次第本社復帰という条件に懐柔される。
しかし事態は意外な展開を見せ。
どうする田中! 頑張れ田中!

登場人物

田中実(28)          会社員
幸ヶ平未知(はとがひろ みち・28)学者
相撲庭祷(すまいにわ いのり・46) 隊長
档鳥坂侃(あっとりざか かん・24)狙撃手
祷の夫・忠
隊員1~4
戦闘員
課長

第一話 「田中、世界救うってよ」


〇広告代理店 啓進舎・オフィス
   デスクが並んでいる。
   田中実(28)、空のプリンカップを手
   に課長と対峙している。
田中「いいですか。冷蔵庫にはプリン、モン
 ブラン、ティラミス、チーズケーキ、フォ
 ンダンショコラの5つが入っていました」
課長「間違いない」
田中「自分のモノには記銘をする。というの
 がこの課のルール。そうですね?」
課長「ああ。だが」
田中「そうですね? イエス、オア、ノー」
課長「イエス」
田中「よく見てください。このプリンに名前
 は書かれていますか」
   田中、課長にカップを見せる。
課長「ない」
田中「聞こえませんでした。もう一度」
課長「ない」
田中「ありがとうございます。つーまーり。
 このプリンは誰のものでもない。というこ
 とです。違いますか?」
課長「ルール上は確かにそうだ。だがしかし。
 私が大のプリン愛好家であることは、この
 課の人間なら全員」
田中「今はプリンの話などしていなーい」
課長「いや。むしろプリンの話しかしていな
 いんだ」
田中「これは世界秩序の話なんですよ課長」
課長「ええぇ」
田中「いいですかみなさん!」
課長「今ここ2人だけだけど」
田中「課長。課長。課長。課の長。課の長が
 率先してルールを守らなければ課の。いい
 や。この会社の。ひいては世界の秩序が」
   時計、18時を指している。
田中「定時なので失礼します」
   田中、カバンを取り、出ていく。
   課長、田中の背中を見送る。
課長「プリン買ってこよ。あ。財布」
   課長、デスクに向かう。

〇タイトル「第一話 田中、世界救うってよ」

〇広告代理店 啓進舎・廊下
   田中、段ボールを抱えたまま掲示板の
   前を通り過ぎる。
   掲示板には「辞令 2050年4月1
   日付で 下記の者の異動を命ずる 
   田中実」の辞令。
田中「我が人生に一片の悔いなし!」
   田中、歩いていく。

〇道
   スクランブル交差点。
   信号は赤。
   田中、キャリーケースを引いて信号待
   ちをしている。
   街頭ビジョンはニュース。
アナウンサー(以下、A)の声「異星人Qに関
 するニュースです」
   異星人Qが街を破壊している映像。
Aの声「政府はこの度、対異星人Q防衛隊の
 組織再編を発表しました。帝和大学生命科
 学部超環境生物学科准教授の」
   田中、スマートフォンを操作している。
田中「えっと。車、バス、フェリー、新幹線、
 飛行機。どれでもそんな時間変わんないな。
 金額は。経費だし関係なし」
Aの声「が新たなメンバーとして加わる模様
 です。次です。台東区の不忍動物公園で昨
 夜、キリンの赤ちゃんが生まれました」
田中「えー。迷うー。どれも楽しそう。車だ
 と一人カラオケでしょ。バスならナンバー
 プレート足し算ゲーム。フェリーなら」
   信号、青に変わる。
   田中、渡り始める人々に翻弄される。

〇登山道・入り口
   地図看板が出ている。
   田中、地図を眺めている。
田中「え。これマジもんのマジ? この頂上
 って。初級者コースは。え。途中で富士山
 見えんの? マジもんかよー」
   登山道は5本。

〇対異星人Q防衛隊「OVER Q」・指令室
   暗く人気のない室内。
   様々な計器が置かれている。
田中の声「こういうのは最初が肝心だからな。
 よし。行くぞ!」
   田中、入ってくる。
田中「失礼しまーす。本日付で本社総務部か
 ら異動になりました。田中実です。ミノミ
 ノって呼んでくだ。って誰もいねー」
   田中、中央に歩いていく。
田中「あのー」
   一角のモニターが付く。
田中「おおっ!」
   モニターから昭和のニュース映画風の
   映像が流れてくる。

〇モニター映像
   ワイプで田中のバストアップ。
祷の声「204X年。世界は異星人Qの炎に
 包まれた」
田中「ん?」
   巨大な人型をした異星人Q、巨体と光
   線で街を破壊していく。
祷の声「荒廃した世界で人々は愛を取り戻し
 たいと切実に願っていた」
田中「なんか聞いたようなフレーズだな」
   山の中腹にある基地の映像。
祷の声「そこに誕生したのが対異星人Q防衛
 隊。通称OVER Qである」
田中「オーバーキュー、オーバーキュー。あ
 あ。オバ」
祷の声「がんばれOVER Q。負けるなOV
 ER Q。地球の未来はキミたちにかかって
 いる。ちゃんちゃちゃーん」
田中「ちゃんちゃちゃーんって最後もう口で
 言っちゃてるし」
   画面中脳に「終」の文字。
   画面、消える。

〇対異星人Q防衛隊「OVER Q」・指令室
   田中、モニターの前に立っている。
   モニター消える。
田中「全体的にドヤってるなー」
   照明がつき、クラッカーが鳴る。
田中「わ。わ。なに?」
隊員1「おめでとー」
隊員2「おめでとー」
隊員3「おめでとー」
隊員4「おめでとー」
   OVER Qの面々、出てきて田中を囲
   み、拍手で讃える。
田中「えー。全然吞み込めないんですけど」
   相撲庭祷(すまいにわ いのり 46)、
   田中の前に進み出る。
祷「ようこそ、対異星人Q防衛隊OVER Q
 へ。今日からキミはここの参謀だ。指令室
 で、私と握手」
   祷、手を出す。
田中「はへ?」
祷「司令室で、私と握手」
   祷、田中の手を取り、無理やり握手。
祷「ああ。私? 私はここの隊長。相撲庭祷。
 よろしくね。ミノミノ。あ。私のことはノ
 リノリって呼んでもいいよ」
田中「あ。大丈夫です。スマイニワ?」
祷「相撲の庭と書いて、相撲庭」
田中「へー。そうなんですねー。って違う!
 そういうことじゃないです」
祷「じゃーどういうこと?」
田中「いや。ですから。僕は広告代理店の総
 務部員で、ここにある営業所に左遷されて
 きたんですよ」
祷「課長のプリンを食べたから。でしょ」
田中「え」
   祷、人差し指を立てる。
祷「よく考えてもみてくれ。そんなことで左
 遷されるわけないだろ」
田中「普通のことも言えるんだ」
祷「つーまーり。すべてはキミをここに向か
 わせるために我々が打ったひと芝居だった
 というわけだ」
田中「ええぇ。打つならもっとマシなひと芝
 居がいくらでもあったでしょうよ」
祷「そうかな」
田中「そうですよ。てか。そんなことより僕
 が異星人と戦う? そんなの無理です。絶
 対に無理ですって。そもそも」
祷「ゴタクはいい!」
   祷、田中の前に手のひらを出す。
祷「申し訳ないが、ここに来るまでにキミを
 試験させてもらった」
田中「試験? 僕そんなの受けた覚えないで
 すけど」
祷「ち。ち。ち。甘いな。キミは芋けんぴく
 らい甘い。スイーツ。移動手段。登山道。
 なにか気づかないかい?」
田中「あ。5択」
祷「説明しよう」
   祷、リモコンを取り出す。
田中「ちょっと待ってください。なにをする
 つもりですか?」
祷「説明のための映像を」
田中「口頭でいいです」
祷「しかし」
田中「口頭でいいです」
祷「しかし」
   田中と祷、リモコンの攻防戦。
   祷、咳払い。
祷「異星人Qの正式名称はQUINTET(ク
 インテット)。その名の通り5体1組で現れ
 るが本物は1体のみで、あとは分身だ」
田中「なんでそんな」
祷「詳しいことは不明だが、擬態の一種だろ
 うと考えられている」
田中「ほえぇ」
祷「今現在。Qは世界に9体。というか9組
 存在している。Qだけに」
田中「え」
祷「続ける」
田中「え」
祷「しかし。対Q用光子エネルギー弾を発射
 できるランチャーは世界にまだ1つしかな
 く5体同時に攻撃することができない」
田中「全部に当てればいいじゃん。ができな
 いんですね」
祷「そう。その上Qは逃げ足が速い。よって
 一発で本体を仕留めなければならない。し
 かし、その方法が見つからない」
田中「なるほど。それでオレが」
   祷、仁王立ち。
祷「そう。冴えないサラリーマン田中実に備
 わった唯一の能力。それは。5択なら絶対
 に外さないこと。どーん」
   祷、キメ顔。
田中「なんでナレーションぽく言ったんです
 か? それもかなり失礼な内容を」
祷「ということで田中の席あそこね」
田中「転校生か。てかまだまだいろいろ納得
 いかないことがあるんですけど。甘さのた
 とえ芋けんぴって微妙ですし」
祷「ことが済んだらすぐに本社に戻す」
田中「承知しました。全力を尽くします」
   田中、席に移動する。
田中「あれ。でも。どうして5択のことを」
祷「ああ。それは。彼女が」
   幸ヶ平未知(はとがひろ みち 28)、
   白衣を羽織りながら現れる。
未知「帝和大学生命科学部超環境生物学科准
 教授の幸ヶ平未知です」
田中「みち」
   田中と未知、目を見合わせる。

〇同・トレーニングルーム
   祷、入ってくる。
   档鳥坂侃(あっとりざか かん 24)、
   マシンで汗を流している。
   档鳥坂の腕から背中にかけて大きな傷。
   祷、档鳥坂に歩み寄る。
祷「第三狙撃班班長。档鳥坂侃。新しい仲間
 を迎えたのに挨拶もないとは、あまり褒め
 られた行動ではないな」
档鳥坂「ああ。今日だったんですね。すみま
 せん。うっかりしていました」
祷「気に入らないか。田中参謀の入隊」
档鳥坂「いえ。そんなことは」
祷「わかっているとは思うが档鳥坂。田中を
 リクルートしたのはキミの手腕を過小評価
 したものではない」
档鳥坂「わかっています。それに組織に身を
 置くものとして上の判断に異を唱えるつも
 りはありません」
祷「はっきりしない物言いだな。キミらしく
 もない」
档鳥坂「じゃ。言いますね。いいですか。泣
 いてもちびっても知らないっすよ」
祷「む。無論だ」
   档鳥坂、祷の間合いに入る。
档鳥坂「反対はしません。ただ。いい気分じ
 ゃないっすね。やっぱり」
   祷と档鳥坂、目を見合わせる。
祷「田中参謀を連れて建物の案内をしておく
 ように」
   祷と档鳥坂、目を見合わせる。
档鳥坂「従いますよ。命令なんで」
   档鳥坂、タオルを取り、出ていく。
祷「泣きそーになってないしー」
   祷、档鳥坂の背中を見送る。

〇同・食堂
   田中と未知、テーブル向かい合って食
   事をしている。
未知「そんなに本社戻りたいの?」
   田中、大量に胡麻をかける。
田中「当然。ザギンでシース―だよ」
   未知、人参を田中に渡していく。
未知「なんてバブリー」
田中「憧れるわー」
未知「好み。変わんないね」
田中「お互いな」
   田中と未知、微笑み合う。
未知「ていうか。奇跡だよね」
田中「いや。未知が無理やり僕をここに」
未知「ここじゃなくて。私たち。てかマッチ
 ングアプリ」
田中「あー」
未知「2050年だよ? ミドルセンチュリ
 ーだよ? なのにAIとビッグデータがマ
 ッチング外すとか。奇跡でしょ」
田中「外れてはないでしょ。好きだったし」
未知「え?」
田中「え? 未知は好きじゃなかった? 僕
 のこと?」
未知「いや。それは」
   田中と未知、目を見合わせる。
田中「未知。今ミドルセンチュリーって言い
 たかっただけでしょ」
未知「バレたか」
田中「いいから人参食べなよ」
未知「絶対いや」
   田中と未知、笑い合う。
   档鳥坂、開けたドアに背中を預けて未
   知の笑顔を見つめている。
   档鳥坂、咳払いしてドアをノックする。
档鳥坂「第三狙撃班班長。档鳥坂です。施設
 内をご案内するよう言われてきました」
田中「ここ。普通の名前の人いないの」
   档鳥坂、行く。
田中「てか今。咳払いかノックか、どっちか
 でよかったよね?」
   田中、追いかける。

〇同・施設内某所
   グリーンバックの部屋。
   田中と档鳥坂、並んで立っている。
田中「ここ。どこ?」
档鳥坂「時間短縮のためグリーンバックでご
 案内します」
田中「いや。そこは時間かけてよ」
   順番に背景が変わる。
档鳥坂「この施設にあるのは指令室。監視塔。
 仮眠室。談話室。初療室。図書室。研究室。
 会議室。ランドリー。ジム。ベンダールー
 ム。大浴場。サウナ。バー。コンビニ。メ
 ディテーションルーム。以上です」
   グリーンバックに戻る。
田中「勝ち組のタワマンかよ」
档鳥坂「失礼します」
   档鳥坂、出ていく。
田中「ええぇ」
   田中、出ていく。

〇同・指令室
   一同、一角に集まっている。
   祷、ジョーカー4枚とダイヤのA1枚
   の計5枚を持って田中と対峙している。
   田中、ダイヤのAを取る。
一同「おおーっ」
祷「18回連続」
田中「だから。5択は外さないんですって」
祷「その割には溜めたりするな」
田中「いや。だって。そこは? なんか?
 求 められてるっていうか? そんな気が
 して? やってます」
祷「田中。テレビ慣れした中堅芸人みたいな
 ことするじゃないか」
田中「それちょっとわかんないですね」
祷「いやいや。今のはわかりやすいたとえだ
 っただろ」
未知「生体解剖したいわー」
   一同、未知に目をやる。
祷「ひとりだけ発言の趣旨が違うな」
未知「え」
田中「あ。風呂。行ってきます」
   田中、出ていく。

〇同・サウナ
   档鳥坂、入っている。
   田中、入ってくる。
   档鳥坂、ロウリュ。
田中「あの。档鳥坂くんさ」
档鳥坂「呼び捨てでいいですよ。参謀」
   档鳥坂、ロウリュ。
田中「僕のこと嫌い?」
档鳥坂「はい」
田中「うわぁ。ハッキリ言うね」
档鳥坂「すんません。自分。軍人なんで」
田中「ああ。そうだよね」
   档鳥坂、ロウリュ。
档鳥坂「自分。軍人なんで。戦場に参謀のよ
 うな戦闘の素人が入ってこられること、納
 得いってないです」
   档鳥坂、ロウリュ。
档鳥坂「もっと言うと、それくらい自分の仕
 事が軽く見られていることにも、納得いっ
 てないです」
   档鳥坂、ロウリュ。
田中「なんで。自分は軍人になったの?」
档鳥坂「バカにしてますか?」
田中「いや。ごめん。すみません」
档鳥坂「オレの家族はQのせいでバラバラに
 なりました」
   档鳥坂、ロウリュ。
田中「もしかして。その傷」
档鳥坂「これは小学生のころ自転車で坂道を
 爆走してた時にブレーキが壊れてたせいで
 すっ転んでできた傷です」
田中「エピソードわんぱくかよ」
档鳥坂「Qが最初に街を襲ったニュースを家
 族で見てた時のことです」
田中「続けるんだ」
   档鳥坂、ロウリュ。
档鳥坂「お袋がQを見て、かわいいって言っ
 たことがきっかけで親父とケンカになって。
 で。そのまま離婚しました」
田中「え」
   档鳥坂、ロウリュ。
档鳥坂「あいつのせいで家族はバラバラにな
 った。だからオレは絶対にQを許さない」
田中「ええぇ」
   档鳥坂、ロウリュ。
田中「さすがにQもそれで恨まれるとは思っ
 てないと思うな」
档鳥坂「自分。行きます」
田中「あ。うん」
   档鳥坂、出ていく。
田中「てかロウリュ!」
   湯気が充満している。

〇同・バー
   未知、入ってくる。
   祷、カウンターでウイスキーを飲んで
   いる。
未知「お隣。よろしいですか?」
祷「もちろん。私の隣は美人とイケメンのた
 めの席だからな」
未知「まぁ。同じものを」
   未知と祷、微笑み合う。
   未知、祷の隣に腰掛ける。
祷「どうだ。元恋人との再会は」
未知「セクハラですよ、そういうの」
祷「奢る」
未知「許す」
   未知と祷、微笑み合う。
   未知の前にウイスキーが置かれる。
   未知、祷とグラスを合わせ、呑む。
未知「もうちょっと冷静でいられると思って
 ました。おかわりを」
祷「そうか」
未知「相変わらず皮肉屋だし。一言ったら十
 帰ってくるし。ホント、ムカつくやつです
 よ。おかわりを」
祷「確かにな」
未知「え」
祷「ん?」
未知「いや。他人に言われるのはちょっと」
祷「ああ。申し訳ない」
未知「いえ。でも、なんかホッとする自分が
 いて。変ですよね。別れて4年経つのに。
 おかわりを」
   祷、スマートフォンの待ち受け画面を
   見せる。
   祷と夫・忠のツーショット。
祷「ダーリン」
未知「素敵です。確か」
祷「ああ。6年経つ。でも気持ちは変わらな
 い。変わらないんだ。ずっと」
   未知と祷、笑みを交わし合う。
未知「私と結婚するか。別れるか。どっち?」
祷「え」
未知「4年前。その言葉をきっかけに私たち
 は別れました」
祷「思い切ったな」
未知「自信しかなかったんで」
祷「さすがだ」
未知「それに。あの時は信じてなかったです
 から。ミノルの。5択の能力」
祷「ん?」
未知「今ならわかる。ミノルは5択以外かな
 らず外す。だから私の2択は外して当然。
 そう。私は美しい! お。と」
   未知、立ち上がり、ぐらつく。
祷「着地そこか」
   祷、未知を支え、微笑む。

〇同・談話室
   祷、未知に肩を貸して歩いてくると、
   ソファに座らせる。
祷「水を買ってくる。待機」
未知「らじゃ」
   祷、去る。
   未知、体が安定せず、ソファに倒れ込
   みそうになる。
   档鳥坂、未知の腕を取る。
档鳥坂「飲みすぎですよ。未知先生」
未知「先生はやめてぇ。かゆくなっちゃう」
档鳥坂「未知」
未知「年上だぞ」
档鳥坂「そこは体育会系なんですね」
未知「ううん。落研」
档鳥坂「逆に意外っす」
   档鳥坂、未知の横に座り、ペットボト
   ルの水を差し出す。
档鳥坂「どうぞ」
未知「えー。間接キッス? いやーん」
档鳥坂「大丈夫です。開けてませんから」
未知「そ。あんがと」
   未知、水を飲む。
未知「かー! 美味い! この一杯のために
 生きてる」
档鳥坂「それお酒のときに言うやつですよ」
未知「いーの。美味しいんだから」
档鳥坂「はい」
未知「よし。いい子」
   未知、档鳥坂の頭をポンポン。
未知「ミノルとは仲良くやれそ?」
档鳥坂「仕事ですから」
未知「クールだねぇ」
档鳥坂「そんなんじゃ」
未知「あいつのことよろしくね」
档鳥坂「いや。よろしくって。え」
   未知、档鳥坂の肩で眠る。
   档鳥坂、未知の肩を抱くか。抱かない
   か。抱くか。抱かないか。抱かない。
   祷、物影から様子を見ている。
祷「韓国ドラマのキスシーンだけ編集したや
 つ観よ」
   祷、去る。

〇同・指令室
   招集のベル。
合成音「緊急招集。緊急招集。総員直ちに配
 置につけ。緊急招集。緊急招集。総員直ち
 に配置につけ」
   一同、集まっている。
祷「紀伊半島沖南南東120キロの海上でQ
 を確認。出動要請発出」
   計器から様々な音。
祷「観測隊。Qの動向を随時上げてくれ。第
 一狙撃班。位置につけ。第二狙撃班は出動
 準備の上待機。第三狙撃班離陸準備急げ」
   計器から様々な音。
未知「あの。隊長」
祷「なんだ?」
未知「とりあえず一回。着替えた方が」
   田中、パジャマ。
   未知、高校ジャージ。
   档鳥坂、浴衣。
   祷、ネグリジェにバスローブ。
   計器から様々な音。

〇同・指令室と戦闘機と輸送機
   戦闘機。
   T「第三狙撃班戦闘機」。
   档鳥坂、操縦桿を握っている。
     ×  ×  ×
   輸送機。
   T「調査班輸送機」
   未知、窓から編隊を組む戦闘機が見え
   ている。
     ×  ×  ×
   指令室。
   T「OVER Q 指令室」。
   田中と祷、指令室で戦闘機と輸送機か
   ら送られてくる映像を見ている。
祷「田中参謀。初陣だ。カマしていこう」
田中「ひゃい!」
祷「田中参謀。緊張しているときは手のひら
 に人という字を書いてだな」
田中「人。人ですね」
祷「違う。それは入るだ」
田中「え。ああ。そうですね。人。人」
隊員1「第三狙撃班現着」
田中「あひゃ!」
   戦闘機からの映像がQの姿を捉える。
田中「本物だ」
祷「3回書いて飲み込むんだ。人を飲むと言
 って昔から」
档鳥坂「参謀。どれですか?」
田中「え。と」
   Q、戦闘機の編隊を攻撃する。
田中「え」
档鳥坂「避けろ!」
戦闘員「間に合いません!」
   戦闘機の一機が片翼を落とされる。
戦闘員「航行不能。離脱します」
   戦闘機、海面に降下。
田中「え。え。え」
祷「田中!」
档鳥坂「参謀!」
未知「ミノル!」
田中「左から2番目!」
档鳥坂「信じていいんですね」
田中「え。そんな」
未知「大丈夫。ミノルは外さない」
祷「档鳥坂。キミも外すな」
档鳥坂「了解。照準よし。光子エネルギー弾。
 発射!」
   档鳥坂、光子エネルギー弾を発射。
   左から2体目のQに当たる。
   他の4体、消える。
   Q、倒れる。
   一瞬の静寂。からの歓喜。
   指令室の一同、拍手。
祷「よし!」
未知「やった!」
田中「オレ。やった?」
   田中、崩れ落ちる。
   祷、田中の肩に手を置く。
祷「お疲れ」
   田中と祷、微笑み合う。
档鳥坂「第三狙撃班。これより戦闘員救助の
 応援に切り替えます」
祷「任せる。観測班。至急現場付近を捜索。
 救護班。処置の準備を」
   一同、動き出す。
田中「え」
   田中、取り残される。

〇同・初療室
   戦闘員、ストレッチャーに乗せられて
   運ばれてくる。
   田中、戦闘員に駆け寄る。
田中「すみません。僕の判断が遅かったせい
 で、こんなことに」
戦闘員「参謀。お疲れ様です。大丈夫です。
 こんなの。かすり傷ですから」
   戦闘員、初療室に入っていく。
   閉まるドア。
   田中、ドアを見つめている。
   档鳥坂、田中に歩み寄る。
田中「あ。あの。お疲れ様。すごいね。一発
 で。ドーン。て」
档鳥坂「参謀。ここは。戦場なんです」
   田中と档鳥坂、目を見合わせる。
   田中、視線を逸らす。
   档鳥坂、去る。
   田中、档鳥坂の背中を見送る。

〈第二話につづく〉

第二話「夕方カルテット」

第三話「近未来にチート能力で無双しまくりな件」https://note.com/walking_ant/n/nf409a7f54772

#創作大賞2023
#漫画原作部門


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