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上野駅から上野公園、不忍池まで 〈前編〉|白土晴一

リサーチャー・白土晴一さんが、心のおもむくまま東京の街を歩き回る連載「東京そぞろ歩き」。今回は、古くから庶民の行楽地としてにぎわいを続けてきた上野公園を歩きます。ランラン・カンカン来日から半世紀。江戸期の花見の名所から始まり、近代以降の博覧会場としての利用や動物園開業を経て、パンダ文化がどんなふうに上野の「地場産業」になっていったのかを振り返ります。

白土晴一 東京そぞろ歩き
第6回 上野駅から上野公園、不忍池まで 〈前編〉

 私は鳥瞰図に目がない。
 鳥瞰図というのは、その名前の通り、飛んでいる鳥の目から見たような眺めを描いた図のこと。衛星写真や航空写真が一般的ではない時代に描かれた鳥瞰図は、描くものの技量によって表現方法が違うので面白い。それを描く人間の空間把握能力と表現方法によって、その鳥瞰図の個性が変わってくるのでついつい細かく見てしまう。
 Google mapのような技術とは違う、個人の能力が強く介在した鳥瞰図を見つけると思わず購入したくなるのだ。

 先日も、日本海海戦25周年を記念し、昭和5年(1930年)に上野で開催された「海と空の博覧会」を描いた鳥瞰図を購入してしまった。

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▲日本海海戦二十五周年記念 海と空の博覧会鳥瞰図(著者蔵)

 現在は上野動物園のある会場には巨大なパヴィリオンが建設されたこの博覧会は、空の知識を啓蒙し、産業発展を促すことを目的としていたが、時代もあって軍事的な展示も多かった。
 この鳥瞰図の下の方、何やら水飛沫が上がっているが、これは不忍池で行われた水雷発射実験場を描いていると思われる。
 この水雷発射の展示が実際にどういう形で行われたかはわからない。まさか本物の機雷や魚雷を爆発させたとは思えないが、何やらそれを模したような仕掛けをしたのだろう。この鳥瞰図に描かれたような、実際に水飛沫が上がる展示だったのかもしれない。
 「上野の不忍池でそんなことをやっていたのか!」と驚くかもしれないが、明治から戦前までは最新で大規模な仕掛けがある展示会や博覧会は、上野公園不忍池の周りで行うことが多かった。
 広い空間があって派手なデモンストレーションを行うには最適な場所と思われていたようで、1909年12月には元フランス海軍士官ル・プリウールと日本海軍士官相原四郎が製作したグライダー実験が不忍池で行われたこともある。
 以後航空機の展示などで上野不忍池が使用されることは度々あり、第一次世界大戦の終結を記念して開催された大正11年(1922年)の「平和記念博覧会」でも、不忍池で水上飛行機の飛行デモが行われた。

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▲国会図書館デジタルコレクションより(出典

 こう考えると上野公園は、ハイテクな技術や産業の展示を行う場所、今の幕張メッセや東京ビッグサイトのような役割を担った場所だったのである。
 現在、コロナのためにイベントの多くが中止され、私も2年ほどは大きなイベントに行っていない。最新技術の展示会が好きで、以前は「国際航空宇宙展」や「防水技術展」などの開催と聞くと、嬉々として見学しに行った。
 こうした大規模イベントが中止される状況の中、その代わりと言ってはなんだが、かつて行われた巨大な博覧会の匂いを嗅ぐため、上野公園に行くのも悪くない。
 そう思うと街歩きの虫が疼き出し、さっそく上野公園に行ってみることした。

 まず、新しくなったJR上野駅公園口から上野公園へ向かう。
 2017年から始まった改修により2020年からは公園口改札口は100mほど北側に移設されている。JR東日本リテールネットが運営している駅ナカの商業施設「エキュート」も好調な様子で、コロナ禍でも多少の賑わいを見せている。

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 そして、毎度上野に来るといつも思うのだが、ここの地場産業は「パンダ」(当然ジャイアントパンダのことだが、以下パンダと略す)なのではないかと感じてしまう。

 上野といえばパンダ、パンダといえば上野という感じで、周囲にパンダが溢れている。上野のお土産はパンダを冠したものが多く、看板や公園内の郵便ポストですらパンダである。

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 上野駅公園口を降りた向かいにある売店「パークス上野」さんには、「パンダのうんこ」なんて商品もある。麩菓子なのだが、パンダならばうんこと名付けてもお土産になるらしい。
 上野のパンダの力は絶大である。

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 でも、パンダは地元にどれほどの利益になっているのだろう?

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