【作家解説】モーリス・ルヴェル ─ 鬼才が描く極上の恐怖
モーリス・ルヴェルというフランスの作家をご存知でしょうか。ルヴェルの作品は、江戸川乱歩を始めとする日本の小説家をも魅了したと言われています。
この記事では、ルヴェルとその作品の魅力を簡単にご紹介します。
モーリス・ルヴェルとは
モーリス・ルヴェル(1875-1926)は、「フランスのポー」と称され、20世紀初頭に活躍した小説家です。ルヴェルの短編小説は、戦前の日本でも翻訳紹介され、当時の日本文壇にも多大な影響を与えたと言われています。
ルヴェルが得意としたのは、恐怖と残酷さに焦点を当てた物語です。二十頁に満たない短い作品が主ですが、どの短編も刃物のような鋭さを持ち、その多くに悲劇的な結末が待ち受けています。
以下では、オススメの作品を三編紹介していきます。物語の内容に一部触れていますので、未読の方はご注意ください。
『或る精神異常者』
刺激に飢えたある男は、突発的な災難を求め、舞台や見世物を見ることに熱中します。そんな道楽にも飽きが来ていたあるとき、自転車曲芸の見世物を訪れた男は、いつか事故が起きるに違いないと予感し、この見世物に通い続けます。ある日、偶然対面した曲芸師から、精神集中の方法を聞いた男は…。
物語冒頭で「残酷酷薄な男ではなかった」という紹介がありますが、文章の端々から男の異常性が見て取れます。男の目論見通り、物語は悲劇的な結末を迎えますが、人は誰しも心のどこかで悲劇を求める生き物なのかもしれません。
『幻想』
ある物乞いは寒空の下で、目の見えない物乞いに出会います。物乞いは自分の素性を隠して、彼に施しを与え、これまでにない幸福を感じますが…。
読後の哀愁が胸を打つ作品です。本当の幸福とは何かを考えさせられる本作は、ルヴェルの短編の中でも白眉の出来でしょう。
物乞いがどのような想いで最後の行動をとったのかは様々な解釈があるかと思いますが、どうか幸福な気持ちであって欲しいと祈るばかりです。
『空家』
泥棒を生業にしている男は、忍び込んだ空き家で、異様な気味悪さを感じます。物語の最後で明かされる、その正体とは。
こちらはホラーテイストの強い作品。空き家に忍び込んだ男の恐怖体験が臨場感たっぷりに描かれています。私たちの生活の中でも、ふと気味悪さを感じることってありますよね。
紹介した三作以外にも、泉鏡花の『外科室』を彷彿とさせる『麻酔剤』など魅力的な短編を多く執筆しているルヴェル。現在日本で出版されている作品集は、『地獄の門』(白水社)、『夜鳥』(創元推理文庫)の二冊だけのようですが、青空文庫で見ることのできる作品もあります。
気になる作品があれば、秋の夜長のお供に、極上の恐怖体験はいかがでしょうか。
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