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【小説】夜に編ム 2.首に猫-3

 喫茶井口に、エヴァはやってきた。入り口側の、二人掛けの席に座った。優紀がメニュー表を持ってくる。
「コーヒーとトーストを」
 エヴァはメニュー表を見ずに注文した。優紀が笑顔で応える。
 コーヒーの準備をして、厚手のパンに北海道バターをたっぷり塗ってトースターへ。焼いている間に。今日一番にいれたコーヒーが温まる。それを読谷焼きのコップにいれて、エヴァに出す。すると、トースターがチン、と鳴る。焼きたてのパンの上につぶあんをのせて、その上にブロック状にカットした北海道バターをのせる。
「どうぞー」
「あ、ありがとうございます」
 コーヒーを飲もうとして、エヴァの眼鏡が曇る。彼女はやるせない気持ちになった。
「ねえ、エヴァ」
「はい」
「愛ってなんだと思う?」
 優紀はカウンターで帳簿をつけながら話しかけた。その背中には、見えないが般若が隠れている。
「愛、ですか……」
「そ、死神博士と、うまくいってる?」
 ふりかえった。そこには、普天間カナデがいた。
「最近は、すれ違いで」
「あなたが、彼の領域に踏みこめばいいじゃない」
 暗い顔のエヴァに、さらりとカナデは言った。
「あなたが彼の本の登場人物になればいいのよ」
「でもわたし、演技なんて」
「演技じゃなくてよかったら?」
 不敵に嗤うカナデ。エヴァはその言葉に目をきょろきょろさせた。
「博士のことが好きな、眼鏡の女性を探しているの」
 そのとき、真鍮のベルが鳴った。
「うー、戻りびーさだなこりゃ」
「シンシア」
「いらっしゃいませ」
 何食わぬ顔で優紀はシンシアを迎え入れた。コーヒー。シンシアはぶっきらぼうに注文する。優紀はさきほど温めたコーヒーをまた2,3分火にかけ、コーヒーを出した。
「で、なんで呼び出したの?」
「……えっと」
 エヴァが黙る。重い空気。優紀は鼻で息を吐いた。
「わたし、彼と別れようかと」
「――マジ?」
 エヴァは縦にうなずいた。シンシアは天を仰ぐ。
「中学からの付き合いじゃん。ちょっとのすれ違いで手放していいの?」
「でも、最近彼がわからなくて」
 カラン。真鍮のベルが再び鳴る。首にトラ縞の猫の入れ墨。黒縁眼鏡。赤いシャツ。
「あんた」
「アメリカンいれて。市民会館押さえたよ」
「なんの話っすか?」
 シンシアが食いついた。男が答える。
「普天間カナデの新作舞台の話さ」
「へー、カナデさんすごいっすよね。海外でも認められてる演出家なのに、地元でもずっと活動してて。で、それと優紀さんとなんの関係が?」
 男は優紀を見た。眉をㇵの字にして笑っている。
「しりたい? 普天間カナデの正体」
「正体?」
 シンシアは首をかしげた。
「明日、夜の一時に井口で」

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