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コザの夜に抱かれて 最終話

 ――みゆき。彼女はその界隈では有名な風俗嬢だ。売春街をまるでシーグラスのように、波間を漂って生きてきた。
 ある日、彼女のもとに、一本の電話が入った。ディスプレイには<真由美おばさん>と表示されている。眠気まなこだったみゆきは電話に出た。
「もしもし」
『みゆき? どーすんの? 入院するの?』
「ストライキが終わってからでいいですか?」
 受話器の向こうで、真由美は絶句した。
『あんたねえ。もうこんな仕事やめたら? 医療事務の資格持ってんでしょ? なんとかしてうちで働かせてあげるから。もちろん入院することと、お酒やめることが条件だけどね』
「……考えさせてください」
 みゆきがそう言って、電話は切れた。
 プツリ
 真由美が流した涙はみゆきの紙のカルテに落ち、ボールペンで書かれた文字をにじませた。
 みゆきはその電話のあと、早いが店に向かおうと着替え、コンビニで大量の差し入れのおにぎりを買った。そこでアイポッドを忘れていることに気づいて、家に帰った。
「み、みゆきさん」
 みゆきの部屋の前にいたのは一鉄だった。
「……どうしたんですか? いっちゃんさん」
 すると一鉄はポケットから、バタフライナイフをとり出した。すでにそのナイフには赤い液体がこぼれ落ちないように、へばりついていた。
「お、おれは、い、いま課長を刺してきたんだ。どうせ見つかる。だ、だから、最後に、生でやらせろ」
 それを聞いて、みゆきは液体窒素ばりの冷たい言葉でこう言った。
「ここより部屋のほうがあったかいよ。」
 ぽかんとしている一鉄を差し置いて、みゆきは自分の部屋のドアを開けた。
「どうするの? するの? しないの?」
 一鉄はみゆきに押されて、そのまま彼女の部屋に入った。
 それから獣のような<アニマル・ファック>でみゆきを三回抱いた。そして、朝がくると、着替えだした。外に出ようとしたのだ。そして――気づく。
「み、みゆきさん。このこと、だれにも言わないよね」
「ええ」
「う、嘘だ! ぼくに優しくするやつはみんな嘘つきなんだ!」
 ――刹那であった。一平のナイフがみゆきの腹をえぐるのは。
「う」
「あ、あああー。ごめんよ。ごめんよみゆきちゃん」
 射られた弓のように、一鉄は裸足のまま外に飛び出した。
「ついに、やられちゃいましたね」
 みゆきはベッドに横になった。携帯で、参護に電話する。
「参護さん?」
『どうした?』
「刺されちゃいました」
『! 今どこだ?』
「家です」
『すぐ行く、動くなよ!』
 電話が終わるとみゆきはアイポッドを手に取った。もちろん腹部は激痛だ。しかし、彼女はいつものヘッドフォンを頭にやってシャッフルで曲を流しはじめた。ジママの<大丈夫>が流れはじめた。
 そして彼女は、幸せになった。

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