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読書の冬

唐突だが、私は冬が嫌いだ。

この記事を書いている最中にも
湯上りで火照った手足はかじかみ
あまり室温の上がらないエアコンの所為で
日々上がっていくのはインターホン横の電気メータだけ。

倹約家の私でも、昨今の寒冬による電気代は夏のおおよそ1.5倍あり
この寒さのなか,冷や汗を掻いたほどだ。

寒さはほかにも、私の生活をひどく浸食してくる。

その一つが洗濯だ。4年近く一人暮らしをしていてそれなりに家事を一通りこなすようになったが、そのなかでも冬の洗濯干しが最も嫌いなところだ。
外は寒く、窓を開けている一瞬で私がコツコツ溜めて築き上げていた室温を容赦なく奪っていく。
そのくせ、朝干した洗濯物を夕方回収しても冷たすぎて乾いたかどうかも怪しい。そういうときは次の日の昼まで放置しておくことが、わたしの家事の裏技だ。

「部屋干しすればいいじゃないか」
という声が聞こえてきそうだ。しかし、私は部屋干しが嫌いなのだ。
あの部屋干し特有のにおいを身に纏うぐらいなら、冬の寒さを甘んじて受ける覚悟を持つぐらい部屋干しが嫌いだ。

冬は、この「寒さ」という一点で私たちを苦しめ、その行動力を奪い、人間が人間たらしめることを良しとしてこなかった。


しかし、そんな私が唯一冬(の寒さ)で気に入っているところがある。


それはダウンを着ることができるところだ。
別におしゃれが好きで特にダウンに凝っている、というわけではない。

ダウンの一番の魅力は、おしゃれでも暖かさでもなく(でもめっちゃ暖かい)ポケットの多さだ。

肩が凝るリュックや片手がふさがるトートバッグが苦手な私は、基本的に手ぶらでいるのが一番好きだ。手ぶらでいると散歩がしやすく、身軽なので行動範囲がぐっと広がる。

しかし夏であれば、そうはいかない。
上が半そで、下がジーンズというシンプルな服装しか持っていない私にとって、ポケットがジーンズの前後4つしかないのはまったくもって足りない。

いくらものを減らしたとしても
財布、スマホ、イヤホン、ポケットWi-Fi、
もうこの時点でポケットがいっぱいであるにもかかわらず、そのほかにも
鍵、写ルンです、そして本
と持ち歩くものが多すぎて手ぶらで歩くのが到底無理だった。

しかし、寒い冬、パンツはジーンズしか持っていない私だが、そんな季節に半そでを着て外に出歩くような馬鹿じゃない。というか寒い。
私にはダウンがある。私のダウンは、ポケットが表に4つ、裏に4つと計8つもある。これにパンツのポケットをあわせると12の収納スペースがあり、これを一人で使いたい放題なのだ。
初めてダウンを着たときの感動は、貸家から引っ越して一人部屋をもらったときのそれとおなじだった。



本を収納できるスペースを確保し、手ぶらで身軽になり行動範囲が広がった私にとって、冬の寒さは一種の快感に変わっていた。

内ポケットにそっと今日の物語をしのばせ、今日も私は洛中を歩き廻る。
行き先はその時の気分次第だ。
逃現郷、cafe町子、翡翠、六曜社地下店、そのうちカフェ、回廊、さらさ西陣.etc
もちろん大手のチェーン店にも行くし、どこにも寄らずただ歩いて家路に着くこともある。
日付が回り,それでも眠れない夜には深夜喫茶しんしんしんに行って夜更けまで読書に耽るときもある。


「本を持ち歩く」という行為は、私をいろいろな場所へ連れて行ってくれる。それを可能にしているのは、ポケットの多いダウンであり、ダウンを着らざるを得ないほどの冬の寒さだ。
少しは冬にも感謝すべきなのかもしれない。


一般的には、読書の秋という言葉があるそうだが
私に言わせれば、冬こそ読書をするのに適した季節であり、冬の読書はそれ以外の生活をも豊かにする。



まさに 読書の冬 である。

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