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【短編小説】ヒエラルキーの牢獄 第2話

「今朝、これが届いたの。読んでみて」
 母の言葉に、アレンは頷いた。
 封筒を開き、手紙に目を走らせる。その内容に、アレンは目を丸くした。
 それは、亡くなったと思っていた、父からの手紙だった。名はハーシーといった。
 彼は、アレンがまだ産まれたばかりの頃、アレンの住むアレグラから、ミットライトという国に移住していた。
 ミットライトは、アレグラよりも経済的にうんと発展している。その大都会で、一旗揚げたいという野心があったのだそうだ。
 だが、夢は叶わぬまま、大病を患ってしまった。末期の状態で、医師からもう長くはないと告げられたという。
 だから、死ぬ前にもう一度、テレサとアレンの顔を見たいと綴られていた。
 手紙を読み終えた時、アレンはとても複雑な気持ちだった。父が生きていたという喜びや、会ってみたいという思いはある。
 しかし同時に、何を今更、そんな感情も湧き上がった。
 そして何より、裏切られた母の気持ちが気がかりだった。
「ごめんね、今まで黙っていて」
 母は項垂れるように頭を下げた。それを見て、アレンは小刻みにかぶりを振った。
「仕方ないよ。父さんは、僕たちよりも向こうでの生活を選んだんでしょ? 小さな頃に知らされていたら、きっと今よりも傷ついていたと思う」
 アレンは精一杯、平静に振舞った。それを見た母は、心なしかほっとした表情を浮かべた。
「まだ、気持ちの整理がつかないかもしれない。けどね、アレンも一緒に、お父さんに会いに行ってほしいの」
 母の言葉は、アレンにとって意外なものだった。
「どうして? お父さんは、僕らのことを置いて出て行ったのに。恨んでないの?」
 アレンの問いに、母は眉をひそめた。
「恨んでないと言ったら、嘘になるわ。でもね、向こうに行ったのは、お父さんだけじゃないの。エリサ、あなたのお姉さんも一緒にいるのよ」
 エリサ、自分のお姉さん。突然の告白に、アレンは何が何だかわからなかった。
「驚くのも無理ないわ。でもね、手紙にあるように、お父さんはもう長くない。時間がないの。その日が来たら、あの子は遠く離れた国で、一人ぼっちになってしまうわ」
 母は懇願するような目を、アレンに向けていた。母が会いたいと望むなら、アレンに断る道理はなかった。
「わかったよ。すぐに、お父さんとお姉さんに会いに行こう。僕も二人に、自分の家族に会ってみたい」
 アレンは立ち上がり、母の背中をさすった。母は「ありがとう」と言って、ぼろぼろと涙を零した。
 それは、いつも明るく振舞う母が、初めて見せた涙だった。

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