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「おっさんずラブ」と同性カップルの結婚

最近、同性カップルのドラマを見ていると「日本は同性の法律婚ができない」という周知の事実を突きつけられる。
子どもができないからだろうか。
そうすると、私のように産まない人生を歩みたい女性たちも結婚してはいけないということになる。

私は産む、産まない、産めないを超えて互いの価値観を認め合い、自由意志で人生を歩むことをテーマにした書籍『母にはなれないかもしれない』を書いた。
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自由意志で人生の大きな決断をする。
これは女性だけではなく、男性にも言えることだ。
同性の法律婚は、同性カップルの選択肢のひとつであってほしい。

「おっさんずラブ」は社会への問題提起というより、ストーリーの一部として、不自然ではないタイミングで「男性同士は結婚できない」「籍を入れられない」と登場人物が発言する。
本作がコメディであることも深く切り込まない理由のひとつだが、視聴者としては「そういえばどうして同性カップルは法律婚がダメなの?」と疑問を抱くきっかけになっている。

ここでは「おっさんずラブ」のストーリーに巧妙に忍ばせてある現実味を、同性の結婚、同居という2点から見ていきたい。


春田と牧の結婚


2018年の恋愛ドラマ「おっさんずラブ」は主人公の春田(田中圭さん)が運命の相手である牧(林遣都さん)と結ばれるまでのストーリーであり、最終回では同性婚についての意識がより強まる描写が詰め込まれていた。
春田の上司で春田との結婚を望む武蔵(吉田鋼太郎さん)と春田の結婚準備は、男女のカップルの準備と変わりなく、終盤では真実の愛に目覚めた春田が、それを察した武蔵に背中を押されるようなかたちで牧にプロポーズをする。
「おっさんずラブ」が同性カップルの結婚を自然なものとして受け止めるドラマであることを堂々と示したのだ。

続く翌年の劇場版では、春田は遠距離恋愛中の牧に贈ろうとしている婚約指輪をずっと持っていた。終盤、牧への愛がより強いものとなり、彼に対して「子どもが好き」「男同士は結婚できない」と話して、「それでも牧といたい」という想いを自ら伝える。
もともとは異性愛者で、女性と運命の恋をする未来を想定していた春田にとってこの言葉の持つ意味は大きい。すべてを諦めてでも、同性の牧と愛し合って共に歩む未来を望んだのだ。

そしてふたりの結婚生活を描いた現在放送中の「おっさんずラブ-リターンズ-」では、春田と牧は結婚しているという設定で物語が進む。

揺るがない前提「同性カップルは法律婚ができない」


それを不自然に感じる人物は少なくとも春田や牧の周囲にはおらず、BLレーベルのようなファンタジーの要素が詰め込まれつつも、やはり現実と同様に「同性カップルは入籍できない」という事実も横たわっている。

また「おっさんずラブ」には異性愛者も多い。2018年からのレギュラーキャラはほとんどがそうだ。
春田の幼なじみのちず(内田理央さん)、その兄の鉄平(児島一哉さん)、春田の同僚で鉄平の妻である舞香(伊藤修子さん)、武蔵の元妻である蝶子(大塚寧々さん)、蝶子の現夫で春田や牧と同じ不動産会社に勤務するマロ(金子大地さん)、そして春田も牧と出会うまではそうだった。武蔵も春田と出会うまでは異性愛者、もしくはバイセクシャルだったと推察する。

物語が始まる前から同性愛者なのは、春田の上司の政宗(眞島秀和さん)と牧のみで、このふたりは元恋人同士という設定である。

ところが「おっさんずラブーリターンズー」は異なる様相を呈する。
新キャラである春田の年上の部下・和泉(井浦新さん)と、和泉と同居している菊之助(三浦翔平さん)が恋をしているのは、同性である男性なのだ。

同性の同居に対する周囲の反応

リターンズによって「同性に恋をすること」はマイノリティではなくなり、和泉や菊之助の、自分の恋心を隠す理由は「相手が同性だから」というものではない。
ここは2018年の連ドラにはなかったことだ。

だいぶ前になるが、アメリカのドラマで『Lの世界』というドラマがあった。
同性愛者、異性愛者、バイセクシャルなどさまざまなセクシャリティの女性たちを描写した物語であり、「同性カップルにとって同棲は結婚と同じ」といった台詞もあったと記憶している。

春田と牧の結婚生活は、まさにそのとおりなのだ。
法律的な契約はなくても、同居することで婚姻関係にあると、ふたりや周囲は認識する。

一方、和泉と菊之助の同居は異なる。
蝶子と春田がこのふたりの関係性を推測するシーンに表れているように、異性であればカップルだと思われるはずのこの二人は、同性なので「カップルかもしれない。でも、違う可能性もある」と春田だけではなく、無意識のうちに私たち視聴者も感じている。

同性の法律婚と和泉と菊之助の同居に関しては、周囲の反応も現実に近いのだ。
制作陣によってさりげなく盛り込まれているため、言語化しなければ気づかない点がある。

春田と牧にとって結婚式の持つ意味とは

そして今夜、春田と牧の結婚式によって、同性カップルの結婚はどのようなかたちで成立したと見なされるのか、春田と牧によるひとつの答えが引き出されるのは間違いない。

今、これを書いている10分後にいよいよ春田と牧の結婚式が放送される。
視聴後、この記事と見比べると新しく見えてくるものがあるかもしれない。

日本はなぜ同性婚ができないのか。
楽しみながらもそのことを考えながら視聴したい。

【6話視聴後】結婚式を最終回にしない理由、判明

もし「おっさんずラブーリターンズー」が2018年と同じ恋愛ドラマなら、春田と牧の結婚式で終わっていただろう。

結婚式をしたら簡単には戻ってこれないんですよ、と春田に言う牧。
指輪。恋人としての同居。そして、ふたりは式を挙げることで春田と牧だけの「結婚」をしたのだと思う。

好きな人たちのためにチョコレートを買ったほかの男たちは、好きな人のためにそれを渡さない決断をした。
個人的には想いを伝えて楽になるとは限らないと考えている。だからそれぞれの決断は潔いものだった。

そして第6話、なぜ結婚式をラストではなく中盤にしたのかが最後にわかった。

【6話視聴後】悲しい目で結婚式に参列した男たち


衝撃的な第6話のあと、ずどーんと重みのある予告がきた。
ネタバレをなるべく避けて言うと、武蔵は帰りを待つ相手ができたのかなと思う。それが、ここ数話、フラグをたてている菊様(菊之助)なのか、春田や牧と家族になったという意味なのかは7話を見ないとわからないけれど。

菊様もピンチが訪れた様子。
駆けつける和泉と菊様は、もしかすると結ばれるかもしれない。
だけど、菊様は武蔵のもとへ行く予感もする。

武蔵、和泉、政宗、菊様。
それぞれに幸せが訪れてほしいと願っているけど、この四人で二組のカップルができるのはリアルではないとも感じた。

それから「おっさんずラブーリターンズー」はコメディだから、最悪のパターンはない。きっと。武蔵も菊様も、もちろんちずも。視聴者の方は、ひとまずそう信じていいと思う。

【6話視聴後】結婚生活、最後の難関

予告で子供をあやす牧の表情に、「自分たちは子供を作れない。春田さんの好きな子供を作ってあげられない」という感情が見えた。
女性であっても産めないことはあるし、ここが同性カップルの正念場だと思う。
調べればわかるけど、男性同士のカップルが子供を持つのは、日本では無理に等しい。一時的に養子を迎えても、ずっと育てられる可能性は低い。
6話、7話で春田と牧は結婚生活の難関を知って、向き合い、ふたりで乗り越えていくと思う。
そして8~9話は、武蔵のターンになるのではないだろうか。

「おっさんずラブーリターンズー」はホームドラマ。
衝撃のあとは、その言葉の意味が、ゆっくりとしみわたる。


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