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自主デザインの思考プロセス

夫と二人で仕活版印刷とデザインの工房しています。私はデザイン担当です。デザインの仕事は受注があって作ることを主としていますが、自主制作で制作したアイテムを販売したりもしています。
今回は自主制作アイテムの制作プロセスについて少し書きます。

自主制作は苦手

私はデザイナーですが、こういう気持ちを表現したい!という熱い気持ちはありません(デザイナーとしてはこの性格は大変に向いていると思っている)
なので自主制作型の人間ではないので、クライアントがいないアイテムを作るときは、とても慎重で考えすぎて制作に至らないことがよくよくあります。そもそも私の作るものなんで誰が必要としているのか…というところから毎回始めるので作らずに終わってしまうラフみたいなものが山ほどあります。

ポストカードをデザインします

お気に入りポストカードを見つけよう」という企画に参加します。
企画は主催ではなく、nemunoki paper itemさんにお誘いいただいたのですが、出ると決めたからには新しくポストカードをデザインすることにしました。カードという形だけ決められている企画なので、そう、私の得意としない自主制作です。
手紙好きな作家であれば「こういうものがほしかった!」と形にすると思うのですが、私は手紙を書くにあたり、紙とペンだけあればいい。というタイプで、自分で企画に参加すると決めたのに「何を作ればいいのか…」と悩み、締め切りをぼんやり意識しながら「私のデザインしたカードなどいるのか…?」とネガティブな私をなだめ、どうしようかね〜何がいいのかね〜と子供をあやすかのように思考します。

依頼の代わりとなる制作テーマを決める

課題(依頼)がないので、自分で課題を見つけるしかありません。そうなると好きなものを形にするのが一番です。好きでもないものを誰の依頼もないのに作れるわけがない性格です(逆に依頼であれば興味がなくてもそれを好きと思えるほど執拗に調べます)
今回は時期もありますが、紫陽花のカードであれば作りたい(好きだからデザインできそう)と思いました。ここでネガティブな私が、「私より紫陽花好きな人はたくさんいるよ、そんなの作ってどうするの」と囁いてきましたが、締め切りがあるので今回は無視しました。締め切りがない制作だとこのまま作らず終わります。

紫陽花をデザインする思考プロセス

ここで紫陽花と決まったから紫陽花を描いて印刷して完成!ならいいんですが、どういう形にするか、とか決めないといけない。私が固執して表現したい手法は今は特にありません。私はなぜ紫陽花が好きなのか…と考え始めます(この過程を通過しないと制作できない病だと思ってください)

私が紫陽花を好きだと思うところ

1 きれい…特にグラデーションがきれい…変化していく過程の美しさ

2 丸い形…ガクアジサイよりセイヨウアジサイのほうが好き…まるっとしたものが好き

3 おもしろい…よく見て知ると複雑でおもしろい
・土壌で色が変わる…同じ木に咲いているのに木の中でも様々な色の花がある
・花びらと思っているものは花びらではなく萼(ガク)であり、花びらと思っている丸い塊は、小さいガクたちの集合体であり、その塊一つに様々な色があり変化していく過程がおもしろい

ということは、私は「紫陽花」の変化するところや、風変わりな感じが好きなのかもしれません。たぶんそうです。締め切りがあるのでそういうことにします。締め切りがあってよかったです。

課題化する自主制作
ここまできたら、好きなところを視角的に落とし込みんだり好きなところが表現できる印刷方法を選択すれば完成です。
しかし、私は活版印刷とデザインの工房をしているので自主制作といえど『あじさいの好きと思うところどうデザインするか、ただし印刷手法は活版印刷とする』という但し書きが発生します。
透明ホロ箔で紫陽花のベタが多いイラストを印刷したら素敵だなと思う自分に別れを告げ、活版で紫陽花をどう表現するかという思考に入ります。活版工房のデザイナーなので比較的簡単にに4つの表現を思いつきました。

表現1 紫陽花の絵を印刷する…私の紫陽花の好きなところ見た目のまるっと感で、そこだけあればいい。細かく描かれた絵である必要はない。細かく書くと好きである変化性が薄れるかもしれないから丸い形だけあればいい

表現2 活版のグラデーション印刷を用いる…変化していく過程を楽しめていい。最近グラデーション印刷好きだからこれは是非やりたい。グラデーションで色をしっかり見せたいので紙は白にしよう。ベタ面も広い方がわかりやすい。グラデーションを重要表現にする

表現3 紫陽花という言葉を印刷する…紫陽花という言葉や漢字自体に私の好きが含まれないので今回はやらない。

表現4 紫陽花の花言葉を印刷する…花言葉を調べると紫陽花には様々な意味があるから私の好きな「変化」というものに近いものなどがあれば取り入れてもいいかもしれない。
紫陽花の花言葉…移り気、浮気、冷淡、あなたは美しいが冷淡だ、辛抱強さ、辛抱強い愛情
…なんかあまりいい言葉がないからやめようかな…と思ったけど、海外のサイトで『アジサイの花束が贈り主に感謝の気持ちを表しており、受信者の理解に感謝していることが示唆されている』とありこれはとても響いた。理解してくれることにありがとうというのいいなぁと思う。変化や、他と違うことを理解してくれてありがとう、という感じは今の世の中でとても大切なのでは、思うところもあってそれを表す様々な言葉を考えてみた。けど、ここは単純に「thank you」を入れる。いろんな気持ちを込めたthank you。


視覚化されていく私の紫陽花

はい、これでやっと視覚化する準備ができました。どういうカードにしていくかの道筋が完成です。みんなの思うところの「デザイン」はまだできていませんが、ここまでくると私的には7割終わっている感覚があります。

・丸い形 ・グラデーション ・thank you

このカードについて考え始めたときに、円をグラデーションで印刷する案は頭にあって「え、それ本当に成立する?」と言い出した私がいたので、思考して視覚化してもいいな、と思う作業をしてました。めんどくさいですね。
同じ視角表現になるなら何も考えずに作ればよかった!とは思わない。まったく思いません。自分でも嫌だな〜、めんどくさいな〜と思いながらも延々思考して選び抜いたので自信を持ってこれが作れる。なので思考途中で最終デザインをもちろん変えることもあります。形をちゃんと裏付ける思考が欲しい。誰に聞かれても答えられるプロセスがないとシンプルなデザインほど怖い。だからカードによく使われる「thank you」という言葉を使う思考も私の中では大切なプロセスなんです。
この要素を決めるのに1週間くらい時間がかかっています(作る理由づけに一週間かかったよ、という言い訳です)


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要素をデザインして「紫陽花に見えないな」と思いました。横に入れた文字と縦に入れた文字で悩んでいるのがわかります。どっちにしろ紫陽花に見えない。
ここからどこまで紫陽花を想起させるデザインにするかを考えます。私の紫陽花の好きなところは「丸くてグラデーション」なので、蛇足の行為だと思うのですが、観た人が「紫陽花だ!」と思わなくても、「植物かな」と思っては欲しい。
植物かな?と思ったら、丸くてグラデーションの植物…ああ、紫陽花か思わせられるはず、ということを信じてデザインをします。見る人を信じています。

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はい、できました。
紙は白がいいけど活版でやや色ムラが出て欲しいのでそれを可能にする特Aクッション0.6にしました。
偏光パールの紙もいいかな、って一瞬思ったけどパールとグラデーションだとまた紫陽花から離れて光を連想させてしまうかもしれない。雨上がりの紫陽花とかであればいいかもしれない、とまた自分の中でいろんな思考プロセスが働き紙を決めました。

明日、印刷担当(夫)に印刷してもらいます。
ちなみに何度も頭を抱えていた締め切りは明日です。夫よ、頼む。

おわり


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