読書感想『死蝋の匣』櫛木 理宇

父親は、そこにいるのに、いない人だった。

茨城県でめった刺しの男女の遺体が発見された。
ジュニアアイドルを扱う怪しい芸能プロダクションを営んでいた二人だったため怨恨の線が疑われる中、現場から死蝋のかけらが発見される。
その翌日には女子中学生5人が襲撃される事件が起き、現場に残された遺留品から同じ犯人だと推定された。
捜査に浮上したのは椎野千草、彼女は13年前の無理心中事件の生き残りだった―――
元家裁調査官・白石は昔椎野千草を担当したことがあり、友人の県警捜査第一課・和井田は捜査協力を仰ぐ。
椎野千草の行方が知れないまま、捜査上には次々と死体が積みあがっていく…


テーマは児童ポルノであり、家族の中の「父親」とは何なのかを問う一冊だ。
まぁ、テーマからもわかるように読んでいて気持ちのいい本ではないが、事件ものとしてはなかなか面白かった。
なんでも『虜囚の犬』という同コンビの前作があるらしいのだが、すいません、そっちは未読です。
幸い読む分には全く問題なかったです。
父親と確執のあった白石は、父親の起こした無理心中事件の生き残りである椎野千草の行方を追いながら、「父親」というものについて向き合っていく。
話に深く関わっているジュニアアイドルはアイドルとは名ばかりで、12歳以下の子供を親が躍起になって活躍させようとするあまり児童ポルノの餌食にされている子供たちだ。
その中でも必死になっているのは「ステージママ」であり、その活動に対して「父親」は不在であり、まるで部外者のような様相なのだそうだ。
子供に深く関わっているのは常に母親で、この作品の中で出てくる父親はほぼ全員が、決して当事者にはなろうとしない自分本位で我儘な生き物として描かれている。
ちょっと極端すぎやしないかい?と思う比率だが、確かにまぁ、そういう父親ってもともと多いよなぁ、と妙な納得もさせられるのも事実である。
そんな無関心な父親、そして自分が満たされるために躍起になった母親たちにより児童ポルノの餌食にされてしまった元子供たちが悲劇を生んでいく、そういう一冊である。
うん、読んでいてね、気分のいい本ではないのだが、色々考えさせられてしまう本ではある。
母親の行き過ぎによって犠牲者になった子供もいれば、母親が自分のためにちょうどいいと差し出した子供も出てくるのがもう‥なんか、普通の神経ではただただ胸糞悪いよね。
正しい愛情をもらえなかった子供は、きちんと愛情の受け渡しができない生き物に育ってしまうというくだりは本当に哀しい。
負の連鎖が生み出すやるせなさや哀しみを固めたような一冊でした。

こんな本も好きかも?


・天祢 涼『あの子の殺人計画 』

・中脇 初枝『きみはいい子』

・窪 美澄 『朔が満ちる』

いろんな事情や考え方があるだろうが、どんな家のどんな子供でも大切にされて欲しいと切に願うよ。

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