読書感想だけどほぼ思い出語り『光車よ、まわれ!』天沢 退二郎

ある雨の日、一郎は周囲の様子が今まで違うことに気づく。
突然クラスメイトが化け物に見えたり、水たまりで小学生が溺れるというおかしな事件が起こる中、クラスの美少女・龍子に声を掛けられる。
一緒に『光車』を探して欲しい———
果たして今自分の周りでは何が起こっているのか、光車とは何なのか…龍子に誘われるまま一郎もその捜索隊に加わるのだが…
知ってる人には、いまさら何をそんな懐かしい本…と思われるかもしれない、もうずいぶん前からある児童文学らしいのだが、大人になってから読書に目覚めた僕としては知る機会に恵まれなかった本でもある。
なのだが、僕にとってこの本は何十年もタイトルも結末もわからなかった、記憶に残る謎の本だったことが最近発覚したのである。
というのも、小学生の時、当時通っていた塾の国語の先生が「本を読む楽しみを知って欲しい」と、とある一冊の本を何週間にも分けて文章題として学習題材に使用された。
プリント一枚に小中学生がテストで読む程度の文章を抜粋し、10問前後の国語の問題が出題されるプリントとして毎週配られるそれが、当時とても楽しみで少しずつ少しずつドキドキしながら読んでいた。
漫画ばっかり読んで文字だけの小説を読み続けるだけの集中力を持ち合わせなかったおバカな僕は、その短さで初めてきちんと自らの意思で長編小説と向き合えたのを覚えている。
それはもう、先生の目論見通りに。
ただ、その先生は1年ほどで体調を崩されて退職されてしまいプリントが完結することはなかったのである。
如何せん小学生だった僕は、いなくなってしまった先生が独自に行っていたそのプリントの題材を調べる方法を持ちえず、結末がわからないモヤモヤを抱えたままほとんどの内容は忘れてしまった。
覚えていたのは、小学生の男の子と女の子が奮闘すること、水たまりで異世界に行ったこと、雨のシーンが多いこと…くらいの超絶断片的な、イメージのみだったのである。
曖昧過ぎて検索することも出来ず、ただときたまあの本って何だったんだろう、これって探偵ナイトスクープ案件?…とずっとどこかに引っかかりながらもタイトルを調べることは諦めていた。
それが、先日、後輩と本の話をしていたところ、その子が今でも好きな昔読んだ本として『光車よ、まわれ!』の商品紹介ページを見せてくれたことで状況が変わった。
児童文学って知らないんだよなーとかいいながら、あらすじを読んでみたところ、本のタイトルも作者も知らないのに、めちゃくちゃ懐かしかったのである。
いやほんと、めちゃくちゃびっくりした…知ってるよ、こんな内容の物語を確かに僕は読んだことがあるよ!?とイメージしか残ってなかったあのプリントたちの輪郭が初めてはっきりしたのである。
急いで本を取り寄せて、初めて「光車よ、まわれ!」をひらいた。一郎が、涼子が、ルミが奮闘する様は記憶があやふやすぎてほぼ覚えてないながらも、これだわ、この本だわ!?と確信させるには十分だった。
小学生たちの冒険譚は、今読んでもドキドキの連続で、水たまりの中の反転世界は薄気味悪い。
敵と戦うために光車を3つ揃えようと奮闘する彼らに、脅威がじわじわと近づいてくる描写も怖い。
自分たちの目的を達成するために容赦がない敵たちが一組でないことも衝撃だった。
ほとんど内容は忘れているのに、この薄気味悪さとドキドキ感に、あぁこの本だ…面白くて薄気味悪くて、ずっと読んでたいけれど同時に結末が知りたかったあのお話だ…と夢中で読み進めた。
子供のころの消化不良と、懐かしい彼らに出会えた喜びと、ついに結末を知れる興奮で一気読みでした。
そう、一気読みして、思わず先生!?いや、おい先生!!!???と僕の中の小学生の僕が叫んだよ…。
最後まで文句なく面白かった、のに、これは…続きないんですか!?こ、ここでおわりなの!?えぇ!!??と予想外のラストで…
まさか、最後まで読んでも物語の続きを求めるタイプの作品だったとは…
ずっと知りたかった結末をやっと知れたのに、同時にこの物語の続きをこれからもあれは結局どうなったんだろう?と夢想し続けることになるとは…。
もう名前も覚えていないけど大好きだった国語の先生は、きっとめちゃくちゃ本が好きな人だったんだろうなと今更ながらに気づかせてもらえたんですけど先生、子供に本を読む楽しさを教えたいなら最後は大団円のやつを選ぼうよ!?これは本読みになれてる子に渡す本やで!?とつっこみつつ、あぁ、僕は一生この本の最後を思い描き続ける宿題を渡されてたんだな、と懐かしさと嬉しさで泣きそうです。
何十年ぶりに答えを見つけたのに、やっぱり解決しなかったという驚愕に打ちひしがれながら、正体の分かったこの本を、きっと自分はまたドキドキしながら読むんだろうと思う。
ちくしょー先生、感想言いたかったよ、考察言い合いしたかった…
数十年の謎は結局、答え合わせのできない謎になってしまったという、読書体験でした。

・ミヒャエル・エンデ『モモ』『果てしない物語』
"・東 曜太郎『カトリと眠れる石の街』など、大人が読んでも楽しい児童文学ってあるよね!
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