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読書感想『グレイスは死んだのか』赤松 りかこ
躾と、調教は、根本から違うんだ。
一見健康そうに見えるグレイス、だがその肉体はゆっくりと死に向かっていた。
グレイスの飼い主でもある調教師の男は、グレイスの無事を祈る。
グレイスと男は過去に壮絶な遭難体験をしており、彼はその体験を獣医であるオリーブ先生に語り始める。
大けがを負った調教師とグレイスの、主従関係すら反転した日々の記憶。
壮絶な体験の中で露呈する『命』の本質とは…。(表題作:グレイスは死んだのか)
自然の声をきちんと受け止められない出来損ないのシャーマンの女と爆弾男の交流を描く『シャーマンと爆弾男』を併録した一冊。
何処か狂気を感じさせる調教師の男が体験したグレイスとの遭難事故が語られながら、現在の原因不明に弱っていくグレイスを救おうと模索を繰り返す獣医師を描く一編である。
いや、なんかものすごい…命というもの、強者と弱者、そして主従についてを掘り下げた一編で、圧倒されました。
ちょっとね、主体とか時間軸がふらふら変わるので、個人的には若干読みにくい部分もあったんですが、展開してる物事には非常に惹きつけられる一冊だったな、と。
暴力によって考えること自体を放棄させる調教師の男だが、傷をおい遭難した深山の中で圧倒的な強者であることが出来ず、自分の飼い犬であるグレイスがいつの間にか男を下に見だす。
極限の中でそのことを屈辱に感じながらも生き残るためにはグレイスの存在が不可欠な男はそこに屈服していく。
生きて帰るために男は選び、受け入れるしかないその過程が、疾走するように綴られており、そこから圧力すら感じるのである。
いや、若干個人的には読みにくかったんだけども(笑)
どこまでが男の語りで、どこからがその語りに飲み込まれた獣医の夢でなのかが、あえてかもしれないが境目なく混じっているので読んでるこっちの境界線すらあやふやになるような感じで…
死生観とか、生物としての人間とか、なんかもう見てる世界の視点が現代人というより動物っぽいというか…
うん、うまい言葉を見つけられないんだが…自分とは、全く違う視点からの世界の捉え方に圧力を感じた一冊である。
なんか、人よりも動物に近い本を読んだな…って感じで…。
同時に収録されている『シャーマンと爆弾男』も不思議な世界感で…
自分と感性が違いすぎてうまく飲み込めてる気がしないんだが、読書でしか味わえない不可解な理解をさせられたような一冊だった。
上手く言葉をまとめられない…こういう本の感想は難しい…。
うん、でもなんかすごかった…。
こんな本もオススメ
・河崎 秋子『肉弾』
・古川 日出男『ベルカ、吠えないのか? 』
・川越 宗一 『熱源 』
何だろうな、書いてある文章の意味は分かるのに本質的には理解できてないような気がするのよね、こういうのって…。
ただ自分だけじゃたどり着かない思考回路ぶつけられてる感があってとても興味深い