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感想&雑感:『知事の真贋 』片山 善博 (著)

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで。

 知事経験者でもある片山氏から自治体リーダーのコロナ対応についての考察が詰まった一冊を用いて書いてみたいと思います。

1.法律と解釈の狭間

 多くのニュース報道で話題になったのは、自治体の知事が独自に発した自粛要請です。自治体の知事が独自に発した自粛要請自体には法的根拠が備わっていないと言われていますが、この引き金ととなったのが新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)の解釈です。

 特措法では政府が対策本部を設置したあと、基本対処方針という政府がどういう対策をしていくかという方針を定めることとされていますが、その中に知事が緊急事態宣言下に行う自粛要請だけでなく緊急事態宣言がでていなくても自粛要請ができるという解釈が盛り込まれ、その根拠となったのが特措法24条9項です。片山氏が特に指摘をしていたのが、「公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる。」を抜き取って、本来は医師会や専門家等に当該自治体の対策本部の強化を目的として協力を要請するという規定を誰にでも要請ができるという解釈をしてしまったのではないか?と指摘しています。

 片山氏は著書内で当時厚生労働大臣の田村憲久氏が自民党内のコロナ対策本部の本部長をしていた時に、24条9項の解釈の間違いをしたところ田村氏からはコンメンタール(逐条解説書)に書いてあったと言われた事を記載していました。コンメンタールはどの法律においても制定後発刊されますが、例えば「新型インフルエンザ等対策特別措置法」のコンメンタールの作者となっている新型インフルエンザ等対策研究会といった名称は架空の組織で、実態は政府の役人が書き、発刊には法律の制定から1年ほど間が空くため、当時制定に携わった役人が異動でいなくなることもあります。

 また逐条解説書には鵜呑みにしにはし難い記述もあったりするが、法解釈の場面においては一番に参照する書物であるため、本来都道府県知事が感染を防止するための協力要請等として行う事ができる特措法45条ではそれを実施する上での前提条件が書かれていますが、それを特措法24条9項の違法解釈で押し切った結果として、例えば知事がパチンコ店に対して行った休業要請も特措法24条9項を入り口として従わない店舗には特措法45条に切り替えて公表を行っていきました。しかし、特措法45条でいう公表の解釈も片山氏が言うには少々違うようです。

 特措法45条における公表は、あくまでも45条2項の規定による要請又は45条3項の規定による命令をしたときにその旨を公表することができるという事であって、従わないから公表して晒し物にするみたいな内容ではないという事です。この間違った解釈は、元々は法律家でもある大阪府の吉村知事も知事がどういう事を要請したかという事を公表するという解釈ではなく、従わなかったから晒すという解釈で運用してしまったとの事です。

 著書内では他にも理容店・美容院への自粛要請を巡るあれやこれやや郊外のショッピングモールや居酒屋等の飲食店への自粛要請,東京都の風俗店への自粛要請の流れをピックアップして考察されていますが、これらを見ていると出だしでの法律の解釈を間違えると体系としては私権制限にならない規定となっているけれども事実上なんでもありな状況になってしまうんだなぁと思うところでした。

2.総司令官としての知事

 片山氏は自身が鳥取県知事だった頃の経験から、知事が危機の時に「何をしなければならないか」という問いに対して、オペレーションの総司令官と述べています。そして、「何をしなければならないか」という問いを総司令官として向き合う上で、まずは何ができるか?できないか?を考えて、できない部分については理由を探ります。この理由を探るという観点において、片山氏は著書内で和歌山県の仁坂知事の対応を紹介されていました。

 医療行政においては厚生労働省から多くの通知が送られていますが、通知はあくまでも政府から自治体への助言としての役割でしかなく、法的拘束力はありません。即ち通知に疑問を覚えるのであれば、他のやり方を模索しても問題は無いという事です。政府は、「帰国者・接触者相談センター(という名を冠しているが実際は保健所)に御相談いただく目安」は「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く方」として通知し、自治体も流行当初はコロナウイルスの実態がよく分かっていないため、これを金科玉条の如く用いていましたが、実際は目安から外れる感染者が続出したため最終的に厚生労働省もこの要件を削除しましたが、これにいち早く疑問を抱き政府の方針を脇に置いてPCR検査を行った結果として感染を抑制できたのが和歌山県の仁坂知事でした。和歌山県内における感染者の多くが最初に感染者が発見されたと言われる中国への渡航歴や中国人との接触があるわけではありませんでした。そのため、政府の通知とは別に病院関係者474人にPCR検査を行ったそうです。仁坂知事はメディアの取材に「厚生労働省にはやりすぎだと言われた」そうですが、総司令官としてどうやって危機を脱出するかという事に着眼をした適切な判断であり、和歌山県のPCR検査のマンパワーでは対応しきれない部分を大阪府に協力をお願いするというのも知事でなければできないというところを鑑みても、知事自ら組織を把握して足りない部分をバックアップし、中核市である和歌山市は市独自で保健所を設置できるため、和歌山市の情報で分からない事柄をマスコミから質問された際に「聞いてくれ」と突き放すのではなく「聞いてみましょう」と返して次の日には回答するという真摯な回答をしていたそうです。(この一連の流れが分かる動画がこちらです☟)

 一方で、知事の中には分断や偏見を助長しかねないメッセージの出し方をしていた知事もいました。例えば山形県と岡山県が非常事態宣言中のGWを中心に高速道路のパーキングエリアに立ち寄った人に体温測定を行った施策では、山形県の吉村知事はやむにやまれず必要な行うという柔らかい表現を行って粛々と実施することができたけど、岡山県の伊原木知事は「『マズイところに来てしまったな』と、後悔していただくようなことになればいい」と発言をしまして批判の嵐となりました。地域によっては生活圏に近くて県境があまり意味をなさない地域もあるため、メッセージの出し方にはもう少し細やかな気を配った出し方を心がけるべきではないか?と片山氏は指摘をしています。

 こうして見ても、総司令官としての知事がなすべき役割はなんなのか?という部分はリーダーシップの最たるものであり、ここでは詳しく書きませんが片山氏は著書内で東京都の小池知事が和歌山県の仁坂知事のように深く勉強をした上で独自の施策を実行するならともかく、そうでなければ都庁の仕事を邪魔しないよう広報係長のような役割で立ち回る事を皮肉を込めて評価されていました。

 小池知事自身は元々衆議院議員ではありましたが、その当時に厚生関連に携わった経験が乏しくてあまり積極果敢なタッチの仕方をされてこなかったのであればこういうやり方も分からなくはないですが、選挙で選ばれたリーダーが都庁の仕事の遂行を邪魔しないために広告塔になってコロナヤバいよとPRするだけならば、辞職なさった方が賢明なのではないか?と私は思います。

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