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哺乳類の進化2‐同性愛は遺伝するのか?

同性愛者は、子供を残す可能性が少ないので、同性愛の原因となる遺伝子が次世代に受け継がれるとは考えにくいものです。しかし、少なくともヒトにおいて、同性愛者は社会に一定数が存在して、歴史的にも維持されてきているので、同性愛は遺伝するものと考えられるようになりました。

1993年、ディーン・ヘイマー(後に自らゲイであることをカミングアウトしています)らによる「X染色体上のDNAマーカーと男性の性的指向の関係」という論文が出て、同性愛遺伝子が発見されたとして、大きな反響をよびました。この報告では遺伝子そのものまで突き止められたわけではなく、複数ある同性愛遺伝子のうちの一つがあると考えられる染色体上のある広さの領域(マーカー)としてXq28が見つけられたというものです。また、この遺伝子マーカーはX染色体にあるので、女性にも遺伝します。そして、この遺伝子を女性が持っている場合、約6ヵ月思春期の訪れが早かったということです。つまり、この遺伝子は男性を同性愛化させる一方、女性の生殖期間を延長させて多くの子供をもてるようにしている可能性が示唆されました(「遺伝子があなたをそうさせる」ディーン・ヘイマー、ピーター・コープランド)。

2004年のアンドレア・カンペリーノ・キアー二らによる報告では、ゲイ男性の母方の女性血縁者は、異性愛者の母方女性血縁者よりはるかに多くの子供を産んでいるということでした。ゲイ遺伝子をもつ女性が多産である理由として、ゲイ遺伝子は男に対する性的魅力をつくる役割を担っているので、この遺伝子をもつ男性は同性愛者になり、女性は周囲の男性にもてることでたくさんの子どもを産むからだと説明されています。だからこそ、ゲイ遺伝子は子孫に伝えられてきたと考えられます(「もっと言ってはいけない」橘玲)。

同性愛遺伝子マーカーの発見から約30年がたちましたが、その後、研究はどこまですすんだのでしょうか?遺伝子が特定されたという話はまだないようですが、最近出た論文に関して様々な議論があることが、ネイチャー誌のニュースで紹介されていました(「遺伝的パターンは同性愛の進化への手がかりを提供する」Genetic patterns offer clues to evolution of homosexuality. By Sara Reardon, Nature 597, 17-18 (2021))。

最近行われた大規模な研究において、同性間の出会いに関係する遺伝子マーカーが子孫を残すことを高めている可能性が示されました。これまで考えられてきたことと同じ方向性の結論となっていますが、研究者の間では研究内容について異論も出ているということです。

この研究は、オーストラリアの進化遺伝学者ブレンダン・ジーチらにより、同性のヒトと少なくとも1回はセックスしたと言った48万人のゲノムと、異性愛者のセックスしかなかったと言った36万人のゲノムを比較しました。その結果、同性のパートナーを持っていたヒトと、異性愛者の中でも多くのパートナーを持っていたヒトとの間で遺伝子マーカーのいくつかを共有する傾向があることを発見しました。さらに、同性のパートナーを持っていたヒトと、危険を冒してでも新しい経験を受け入れると述べたヒトとの間でも遺伝子マーカーを共有していることが見られました。

この研究に対して次のような反論が寄せられました。米国の進化生物学者ジュリア・モンクは、性感染症が治療できるようになったり、避妊と排卵誘発剤が出てきた現代社会においては、人間の祖先とは異なり、性行動と生殖は高度に文化的に情報化されていて、遺伝学で掘り下げることは不可能だと言います。また、最初に同性愛の遺伝子マーカーを発見したディーン・ヘイマーは、1回の同性との出会いに基づいて性的指向を定義する方法じたい、人々を分類する有用な方法ではないとしています。一方で、新しい経験に対する開放性に関わる遺伝子マーカーの発見は、同性愛者のパートナーを持っているヒトと多くのパートナーを持っていた異性愛者の間の重複を説明できるかもしれないと考えています。そして、複雑な行動を遺伝学で説明することの難しさを認めながらも、性的指向の研究が行われていることに対しては応援の言葉を述べています。

ところで、私は洋楽好きです。私自身のことを言うと、性的に魅力を感じるわけではありませんが、カッコいいと思う、あるいは作っている音楽が好きでシンパシーを感じる同性愛者のミュージシャンはたくさんいます。例えば、フレディー・マーキュリー(クリーン)、ピート・シェリー(バズコックス)、マーク・アーモンド(ソフト・セル)、モリッシー(ザ・スミス)など。一言では言えませんが、なにか存在自体がアートという感じです。

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