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弱さと自己PR

自己PR と聞くだけで、つい「バイバイ、今日は用事があるんだ」って言って距離を置きたくなってしまう。だって、自己PRって自分のいいところとか強みとかを見つけ出して堂々と言わなくちゃいけないから。「自分でいいところがわからないのなら、他人はあなたのいいところなんてわからない」、こんなふうに言われたこともあった。ないものを一生懸命捻り出して、飾り立てる、虚しくて独りよがりな感じがしてしまう。

しかし、この前の大学の授業で「胡散臭いプレゼンをする」という課題の発表をした時に、教授から話題として出されたものの中におもしろい話があった。自己PRもプレゼンテーションも、自己呈示だけで完結しないことが大事で、内容と同じくらい相手からのフィードバックが重要なんだ、という話だ。自己PRやプレゼンテーションというと、「勝敗」がついて「上手い下手」「得意不得意」といった言葉で形容しがちだが、そうではない、と。なるほどね、これはもっと考えて、柔らかい状態で自分の頭に入れておきたい考えだと思った。

普段耳にする自己PRは、自分の持っている価値を主張することや、いいところを伝えて自分を売り込むことのような使い方をされている。受験や就活の面接で必要とされる能力であって、相手から求められている像に自分を当てはめていく、一方通行的なイメージがあった。

ところが、PR(Public Relations)の歴史を辿ってみると、そのイメージはあくまで一面的なものであることに気づかされた。日本のPRという言葉の歴史は、1945年ごろまでさかのぼる。GHQが日本の軍国主義を改めて民主化を押し進めようとしていた時、政府の発する政策に対して国民が自由に意見を述べられるようにするための仕組みとして、パブリックリレーションズオフィスの設置が命令された。そこで日本全国に作られたのが「広報広聴課」だった。

つまり、政府から国民への一方通行的で反論を許さないようなコミュニケーションを改めて、自由に意見を言い合える双方向的なコミュニケーションをするようにしたのがPRのはじまりだった。PRと聞くと「広報」=「情報を与える」ことばかりに気を取られてしまうが、本質はむしろ「広聴」=「情報を返す」こと、リアクションをすること、双方向的なコミュニケーションをすることにあったのだ。このことを踏まえると、自己PRは自分だけで完結するのではなく、相手を巻き込むことが重要であると、確かにいうことができる。

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私は「信頼はどこで生まれ、どこにあるのか」ということに興味があってよく考えているのだが、生活する中で「相手を巻き込む余白」に信頼は生まれるのではないかと思うようになった。

自己PRにおける「余白」とは、相手からのフィードバックを受け入れようとすることだと私は考える。フィードバックを受け入れるためには、相手にフィードバックをしてもらわなければ始まらない。そのために、一生懸命伝えようとすることで、相手に「何か返したい」と思わせることが必要だ。そして、その意見を取り入れて、修正していく。この連鎖のなかで、相手は自分に対して「手を加えた感覚」を覚え、そこに「愛着」が宿り、その愛着はいつしか「信頼」へと変化するのではないかと思う。

愛着は、信頼の入り口だ。自分が関わった人に、自分に対する愛着を抱いてもらうこと。相手の気持ちに応えようとすること。不器用でも、結果として変われなくても、その「変化しようとする過程」を見せることに意味があると、私は考えるようになった。自分の意見によって何かが変わる。それは気になり、応援したくなる。そして、その応援や期待に応えようとするその姿に、また親しみを感じ、感情が動くことで、自分が「愛着」を抱いていることに気づく。もし何かがあっても「今まで」の行動の積み重ねが「あの子ならきっと大丈夫」という気持ちをうみ、すなわちそれが「信頼」というものなのではないだろうか。

自己PR は、決してひとりよがりなものではない。相手に媚びを売るものでもないし、勝ちにいくものでもない。満たされた自分を見せるのが自己PR ではなく「欠け」と「欠けを補おうとする気持ち」を引き出してもらうことが自己PR なのではないか。自己PRが勝負ではなくて、弱さの補いあいに対する希望を呈示する場になったら素敵だ。

他人が入り込める余白を残しておくことが、信頼されるためには必要だ。私は完全にはなれない。でも、完全になれないからこそ人との出会いがあり、助けられ、愛し愛され、次に進もうとしていく。こんなことを考えていると、ラッドウィンプスの曲『オーダーメイド』の一節が頭の中で流れ出した。

『一人じゃどこか欠けてるように 一人でなど生きてかないように』

強さよりも、優しさが欲しい。理想はもっていたいけれど、現実をもがく瞬間も大事にしたい。そんなふうに思った金曜日の夜。

(2020/12/04 気づけば12月で、もう2020年が終わってしまう、、)

残りの2020年にやりたいこと:
無印良品のムレにくい厚手毛布を買って温まって眠ること

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