不時着、未知の星にて
「サンプルを採取して来いと言ったんだ。使えない部下を殺して来いと言ったんじゃない。」
「大変申し訳ありません。麻酔針の当たりが浅く、運んでいる最中に急に暴れだしまして……」
「言い訳はもういい。それで、結果はどうなんだ?」
「ただいま解析中でございます。おおむね我々の予想通り、あの生き物の持つ特殊な器官を利用して空間転移が可能と思われます。」
「そうか、これでやっと家族の待つ地球へと帰れるわけだ。」
「……、ただ、懸念すべき事項が二つあります」
「言ってみろ」
「一つ目はこの宇宙船を転移させるのに必要な空間転移器官がどのくらい必要か、ということです。あの生き物は自身を数キロ先へ移動させることが可能です。自己を分子レベルに分解し、目的地で再構築している訳です。分子の分解と再構築、安定にその器官が使われているのです。詳細は計算中ですが、この宇宙船を地球まで飛ばすとなると、いくつかの星を経由していくわけですが、少なく見積もっても一億は必要になる計算でして、あの生き物の家畜化、転移器官の保存法の確立するとして、準備に数百年はかかるかと……」
「宇宙船を丸ごと飛ばす必要はない。二つの脱出ポッドで転移するならどのくらいかかる?」
「大急ぎで十年です。」
「私と君の二つだ。もう一つは何だ?」
「時差の問題です。重力の関係で、この星の一秒が地球の十秒に当たります。つまり十年が百年となるわけです。」
「五年が五十年だ。君はもう五年かけて帰ってこい。私は今すぐにでも家族に伝えておかなければならないことがある。」
「承知しました。」
「それにしても我々は運がいいのか、悪いのか。エネルギー資源の調査に出発し、ブラックホールの重力に巻き込まれてこの星へと墜落したのが数日前、ここで餓死するかと皆が覚悟したところで、地質調査に出ていた君があの生き物を見つけた。生きる希望、もとい生き延びねばならない理由ができたわけだ。生き物がいるということは恵まれた環境にあるということだ。その情報を何としても地球へと持ち帰らねばなるまい」
「その通りです。あの生き物と言い、ここは非常に興味深いところです。五年や十年なんてあっという間ですよ」
「君は非常に優秀だ。そうあることを願っているよ。(五年後、一人地球へ帰る私を見た他の部下達がどう思うか私の知ったことではない)」
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