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ぼんちゃん ❷

溶け出すコンプレックスと、優しいスポンジ

初めての電話から約2週間、ついに私とぼんちゃんは、初対面となる約束の当日を迎えます。
舞台は私の最寄駅、ぼんちゃんが電車を乗り継ぎ、会いにきてくれることとなりました。

約束の14時よりも15分ほど早く到着した私は、2階建の駅構内を出て少し歩いたところにある、歩道へと繋がる橋の中程でぼんちゃんを待つことにしました。

下面にある道路を見下ろすことができ、少しは緊張がほぐれるかと期待しましたがそんなはずもなく、汗をかかないよう必死になり逆に汗をかくという悪循環のレールから降りようと、汗だくになりながら待ちました。

そして、14時まであと5分ばかしというタイミングで、ぼんちゃんから「着いたよ」とメールが届きます。

緊張と不安、恐怖にしがみつかれていた私は、いたたまれず、直線距離で言えば20メートルほど先にいるであろうぼんちゃんに電話をかけました。

ぼんちゃんは電話に出るとすぐに「あ、見つけた」と言い、一方の私は「ああ、見つかった」と心臓が大きく跳ねました。
とはいえ勿論逃げ出すわけにもいかず、笑顔で近づいてくるぼんちゃんを、その場で待ちます。

爽やかと、筋肉と、アーモンドみたいな目と、大きな口と、聞き慣れた声と。
ぼんちゃんの第一印象は、夏でした。ぼんちゃんは、心身ともに夏らしい人でした。


初めまして、も、おかしいか、なんて言おうかと悩んでいると、「初めまして、もおかしいか」と、ぼんちゃんは笑って言いました。

待ち合わせるだけ待ち合わせ、行き先を決めていなかった私たちは、100メートルほど歩いた場所にある、生い茂った木によって半個室状態となっていた休憩スペースへ向かいました。

やっと会えたね、なんて会話から始まり、それが終わりを迎える頃には、4時間ほど経過していた、私とぼんちゃんの初対面。

この4時間で、ぼんちゃんは、幾度となく私を褒めました。
勿論、渾身の顔面工事、その時に出来た精一杯の施術にて挑んだ対面でしたが、顔だけでなく、華奢とはいえないスタイルだとか、背の高さだとか、小さくない手だとか、そんな細かい部分に至るまで拍手喝采のぼんちゃん。
会う直前まで不安で仕方なかったもの全てを溶かしてくれるような、私の内側にある禍々とした汚れをスポンジで少しずつ擦り落としてくれたような、不思議な時間でした。

別れ際に「ありがとう」と、ぼんちゃんは私を抱きしめ、キスをして、それから最後に「可愛い」と褒めました。


こうして、ぼんちゃんと私の2年半が、私にとっては長くて濃い2年半が、はじまりました。



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