知ったかぶりの効用
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知ったかぶりの効用

和田洋一

新しい仕事に飛び込むには勇気が要る(ような気がする)。
同じ部署に在籍しているだけでさえ、役割が変わると、実質的に全く別の職種になってしまう事がある(こんな事なら転職も視野に入れればよかった・・)。

私は、異常なまでに多様な(しかも、そこそこ難しい)業務に関わってきた。
(ココからの数行、省略可)
証券会社では、ファイナンス、M&A、デリバティブ、他の金融機関との新サービス、管理会計、リスクマネジメント、金融制度改革関連、株主総会、社内経営会議事務局、証券アナリスト、法人営業、個人営業等々、トレーダー以外の業務はだいたいこなした(「証券会社出身」とレジュメに書いてある人には要注意、大抵は一つか二つの分野しか経験していない)。ついでに外交官に転籍し文化担当。今世紀に入ってゲーム産業に身を置くようになってからは、エンタメ、IT・インターネット、会社経営、海外展開、M&A・提携、業界活動等々々。目下はベンチャー界隈で、決済、マーケティングなど。
(ココまで。以下、本文)

新規分野で「即戦力」になるために、言い換えればどこでも生存できるように、私なりに実践してきた手法の一つを書いておく。

勿論、各人各様なのでピタリと当て嵌まる事は決してないが、ヒントはあると思う。行動の役に立ててもらえれば幸いだ。

実務のプロは、教えてなんかくれない

一刻も早く戦力になるためには、仕事の本質を掴まなければならない。
独学もいいが、時間がかかりすぎる。また、正しい道を進んでいる確証が持てない。従って、教えてもらうしかない。

教えてもらえるのであれば、どんな厳しいレッスンでもいいから一流のプロに習いたい。
しかも、評論家ではない実務のプロフェッショナル(s)だ。

ところが・・・

だいたい、それほど優秀な人材は、いかなる組織においても最も多忙で、どこの馬の骨ともわからないド素人なんぞに関わる時間はない。

また、多くの場合、職人気質の人材は、当該分野で突出しているものの他の世界に疎い。
ここから、二つの不都合が生じる。
そもそも、何が分からないかが分からないので、教え方が超下手。かつ、「新参者の教育は俺の仕事ではない」との大義名分もあり、指導法上達に無関心。
また、こちらがナマジ優秀そうな匂いをさせたら最後、敵影と認められ、鉄の扉が閉じる(潜在的な競争相手は芽の段階で潰せ)。心の鉄扉ね。

ちなみに、以下は論外なので、本稿では言及しません。
「研修の充実していない会社はダメですよね」
あのね、本を読めばわかるようなことは自腹でやんなさい。
そもそも、汎用的研修の提供できるのはせいぜい足切りラインと見切るべし。実戦用じゃないからね。
他人をあてにしない事。

では、どうするか。

心は潜入捜査官

まずは臆せずプロの中に飛び込む(ここは頑張れ)。


プロの属する「コミュニティ」に紛れ込むのがポイント。

理由は二つ。

最初からサシでコミュニケーションをとるのは難易度が高すぎる。
話す事がない!
(バックグラウンドが違いすぎ、話題についていけない・・というか、そもそも何を話したらいいのかわからない)

また、プロは、プロ通しの会話ではじめて真価を発揮する。
彼らは水中花。水槽から出してはいけない。
飛び込んだら、潜入捜査官として気配を消し、プロ通しのエレガントな会話を滞らせてはならない。

紛れ込む際に留意すべきは気配を消す事だ。

敵対視からの回避もあるが、真の理由はプロのエッセンスを引き出すため。
自己を打ち出したり、くだらない質問をすれば、彼らの会話に水を差す事になる。

そんな事をすれば・・・

厳しい人なら、君の前ではもうプロの話はしなくなる。
しかも、なんのサインもなく。
だって、面倒くさいだけだもの。

優しい人なら、かみ砕いてくれる。
「わかりやすく」説明してくれるのは一見良さげだが、ここに甘えたら成長はない。
テレビのコメンテーターが「わかりやすく、具体的に説明してくれないと私達国民はわからない」というけど、本当に分かるつもりがない人の発言。
最低限の知見がなければ議論にならない。
財政の基礎、政治過程の基礎を知らない人に財政赤字の功罪の説明は不可能。「無駄使いするのは良くないですよね」以上の事は言えなくなる。
「内部留保」や「暴力装置」で炎上するのは、ウェブで単語を調べる数秒の手間すらかけない人々。

しかし、そもそも、そんな状況は成立するのか。

完全に気配を消したら、そもそも「その場」にいさせてもらえない。

ここが難しい。
最低限の「参加(意見など求められていない)」はしておく必要がある。

王道は、他の分野で初段を獲得しておく事。
専門外の話を彩りとして投下すると、プロの会話は弾む。参加資格アリだ。
初段とは、ド素人ではないアマチュアという意味。
武道でも芸事でも、初段までは、やるべきことをすれば大抵取得できるようになっている。何の分野でも3年きちんとこなせば(=自分の頭で考え行動に移す、かつ、これを何周も繰り返す)、初段までならなれる。

何かのプロになれば(三段以上)、参加が議論に進化し、他分野のプロとの化学反応を起こす事が出来てどんどん領域は広がるが、これは上級者コース。

問題は、何の段位もなく、未知の分野に飛び込む場合。

知ったかぶりという忍耐

ここで言う知ったかぶりとは、見栄のために虚勢を張ることではない。
プロの会話に参加するための手段だ。

jargon で満たされた空間は、地雷原であり宝物庫

ある専門分野でしか通じない言葉を jargon という。
これをマスターするのが仕事の本質を掴む最短の道だと思う。
一つ一つの jargon の意味、また、使用される際のコンテクスト。
双方押さえる事で、当該分野の概要が掴める。

となれば、プロ達がこれを使っているところを傍で聞いているのが一番。

異邦人の気配を見せると jargon を使ってくれない。
他方、身内に思われるように付け焼刃で間違った使い方をすると信頼を失う。
従って、ひたすら合いの手に徹する。うなずき、笑顔になり、1割くらい、理解しがたいように眉を顰め首をかしげる。

なんじゃそりゃ!?

と、思ってはいけません。
意識して実行しないとすぐにはじき出される。
たまに首をかしげるのがミソですw
タイミングについては訓練を要するところ。馬鹿にしないで研究すべし。

プロ側からすると、安易に jargon を使わない人に対しては「この分野につき敬意を持ってくれているな」と感じます。
たまに首をかしげれば「一応、聴いているのだな」と思います。
つまり、「参加」の許可が出せます。

心底疑問に思った事は質問すべきだが、それ以外は質問しない。
よく考えずに質問すると、疎まれて外に出される。
「うん、答えるけど、何が聞きたいのか、もう一度ポイント言ってみて」
これがシャッターが下ろされる直前の言葉。
だって、よくわかっていないから質問のポイントを論理的に言えないでしょ。

会話が聞けたら、後で反芻するために、とにかく必死に記憶する事。
単語、さらに同等に重要なのがコンテクスト。
独りになったら、調べ、考える。
次の会も同じ。
この積み重ね。

生噛りで安易に jargon を使うと信頼を失う。
いちいち質問して説明を求めれば、プロの会話が滞る。
かと言って、あまりに距離のある反応をすると「お前、ここにいる意味ないよな」になる。

寸止めの知ったかぶりは、忍耐を伴う技術です。

jargon は発音が大切

私の証券会社時代。
地方支店での個人営業3年を経て本社に転勤。周りはMBAだらけ。
予習の上臨んだ打ち合わせで「エビト」とうっかり発言した瞬間。
「EBIT( Earnings Before Interest and Taxes)はイービットだ、この田舎者! お前は脳まで筋肉でツルッツルだ!!」と罵倒され、「皴くらいありますよ、シックス・パック!」と反論(少し盛りました..)。
字面は書籍で読んでいたが、営業店の3年間、発音されたのを聞いたことがなかった。

Libor は、いかにも読み方が特殊そうなので、不用意に話さなくて済んだ。
誰かが発音するまで耳ダンボでセーフ。
(ライボと発音します)

jargon は、日常会話で交わさるので基本的に口語なんです。

知らない箇所に触れずに持ち帰る

同じく、債券部との会話の際、「イールドカーブがスティープ化してんだから、L+10じゃ話にならない事くらい分るよな」とかまされた。
先月まで営業店だし、ましてや今も債券部じゃないし、イールドカーブもエル(L)も10も何の意味かさっぱり分からない。しかし、ここで一々聞くのは先輩に申し訳ないし、何も知らない事がバレれば次から呼んでもらえない。かと言って分からなければ先に進めない。
一行以上の長さの返答では馬脚が現れる。とっさに「名詞ではなく動詞」、「単語そのものではなく背景」に照準をずらしてかわそう。そして、質問には質問返しだ!
「なぜスティープ化しているんでしょうね」
これで一呼吸。
持ち帰って勉強。翌朝、条件提示についての議論の末席につく事に成功。

面白がる!(実際に面白いのだが)

ゲーム会社を経営することになり、産業を理解し、自社の方針を考えなければならなくなった。
しかし、プレイしたことがあるくらいでは、ゲーム開発の中身など見当もつかない。
俺が社長だ、説明せい!とほざいたところで、言われた側も、何をどの程度話したらいいか見当がつかないはず。

飲み会で話してもらっている間は、できるだけ邪魔しない。社長ではあるが、ニコニコ受け流すのみ。
とにかく気分よく(言い換えれば安心して)、いつものように、会話してもらって、こちらは門前の小僧を決め込む。

20年前、私の着任直後の飲み会。
「うちは結局テクスチャ書き込んじゃってるから開発費が嵩むんだよね」と、プランナーが隣のデザイナーに。
「でも、そうしないと、今のマシーンのスペックじゃクオリティ出ませんよ」と反論。「そもそも、グラフィック誉められるけど、モデリング全体は普通でテクスチャがうまいんだよな」ともう一人が。

・・・いったい何のことだ。

しばらくすると、会話の中にテクスチャを「貼る」という文章が出てきた。
よく聞いていると、どうやら三角錐に千代紙を貼っていく作業のようだ。
ほぉ。
綺麗な千代紙作るの大変だよね、とショーもない返しをしたら、「きれいなだけならいいんですけど、自然に見せるために影まで書き込むから、使い方に制約が出てくるんですよ」と答えが来た。
光と関係がある事は分かり、次回はプログラマーとデザイナーで飲み会セット。そこから「リソース配分」に展開し・・・

はい、ゲーム業界の人からすれば、上記どれほど不正確な内容なのかはお分かりかと。
恥を忍んで会話を途切れさせない努力が必要という事例なので、ご容赦を。

ちなみに、部下からのヒアリングの際には、接待バイアス(部下の忖度)の排除に留意する事が肝要。
例えば、私がその時点でプレイしているゲームの名などあげようものなら、話題がそこに集中するため、私的な話は一切しないよう心掛けた。

jargon の織りなす別世界

ゲーム業界の例をもう一つ。

2000年代中盤から、日本と欧米の技術に水が空き始めた。
なんとかせねばと欧米スタジオの開発者にヒアリングすると同時に、(引き抜こうとw)スタッフロールを調査。
職種の単語が違う事に気づいた。
先程のプランナーは欧米ではゲームデザイナーと呼ぶようだし、デザイナーはアーティスト。ところで、テクニカル・アーティストって何する人?

彼我で、開発思想、作業工程が異なるため、機能の分解の仕方が異なる。
従って、単語、ひいては jargon も違ってくる。

逆に、そこを押さえれば理解できる、文化、技術を移植できるはずだ。
時間を短縮する飛び込み方はないのか。
ゲーム開発スタジオ買収の検討を始めると同時に、今を時めく EPIC社にスクエニから出向者を派遣することとした(出向者は超日本語なので訳せないw)。

プロ(s)の中への入り方

さて、昭和は、カイシャ文化が浸透していたので、場も用意されていた。
メシと会議と密なオフィス。

メシなんて前時代的で非生産的という人がいますが、非生産的なメシは非生産的だと言っているだけ。いちいち真に受けない事。
くだらない会議はくだらないが、良質な議論の末席にいられるのであれば、カネを払っても参加させてもらいたい。

就職、転職するにはどのような会社を選んだらいいですか?
よく聞かれる問だが「最高の日常会話が交わされている会社」と答えている。
「最高の」はプロ集団という意味。アマしかいない集団に属しても成長は困難(社外にも成長機会は求められるが、就職・転職についての回答なのでこうなる)。
「日常会話」とは、オープンな会話の場が自然に存在するという意味。閉鎖的な集団で潜入捜査するのは困難な上にストレスが溜まる。
また、日常会話であれば門前の小僧になる事も出来る。これを実現してきたのが密なオフィス。

平成以降カイシャの装置が形骸化してきている上に(時代についてこれていない側面も大)、コロナ禍を契機にリモートワークが標準的に織り込まれるようになる。

新しい時代に備えて、新しい工夫をする必要がある。

これまでの良き側面を新たな環境に適応させていくのも大切だが、それだけでは不十分。

一方で新たな環境ならではの追い風もある。
変化を飲み込むのが良い。

第一は、発信者の激増。
例えば、私は今、なんの見返りもないのに、初心者コースを書いている。
世間には、こんなオッサン、オバハン、Ladies and gentlemen は山のようにいる。
有名人ではなく、プロを選ぶ努力にさえ心がければいい。

第二は、ダイレクトにアクセスできる事。
今世紀に入ってから、インターネットのインフラが普及しただけではなく、ネットワーキング、転職が以前より一般的になった事で、文化的にも容認される方向に進んでいる。

しかし、追い風を掴むには、「個」をプロデュースしなければならない。
こうなると、ニワトリと卵ではないかと混乱するかもしれない。

少しまとめておく。

・旧来のシステム、新たな追い風を活用して、プロの中に飛び込む。
・飛び込んだら、jargon の理解に集中する。
・一領域初段までいったら領域を拡大していく。

最後に、仕事の本質を掴む際の留意点についてコメントしておく。

AIに負けない働き方

・・なんちゃって、はい、煽っただけです(スマヌ)。ヘッドラインは本文と直接関係なし。

さて、新たな土地で即戦力に、がテーマでしたが、敷衍すると、これからの時代を生き抜く姿勢とほぼ同じ(まんざら煽りでもない)。

働き方がどうの、AIがどうの、雑音が多いようですが、仕事=貢献できる行為の本質は変わらない。

共通する心得を書いておきますね。

1.まずは行動

ここまで、行動は大前提として、フォームの矯正をいかに行うかの一例を書いてきました。
行動しなければ何も起こらない。

考察の全ては、いかに行動するかの一点に向かうように意識すべきです。

2.自分の頭で考える

ポイントは二点。
・「個」が露出するに比例して、個自身の信用・信頼が価値の中心になる。
受け売りすれば、君が誰なのかわからず、かえって信用を失う。なんだかアンテナの高い人だね~なんて評価は、情報過多の時代にはありえないからね。
・自分の頭で考えれば納得いくはず。
今後、益々不確実な時代になる。実は太古の昔からそうなのだけど、以前は他人のせいにできなくもなかったが、それは自分を偽っているだけだと気づかされてしまった。
どうなるかわからないなら、(後悔するにしても)納得できる判断するのが健康。つまり、現代は、自分の胸に手を当てるのが、どの時代よりも正義になる。

3.分野をまたぐ

金融・証券業の本質はアービトラージ。
例えば、負債は、企業の解散価値とも将来価値とも解釈しうる。観点の異なる投資家をマッチングさせ、経済の触媒になるのが仕事。
これは他の産業にも当てはまる。

学際的、国際的、なんでもいいから複数分野の段位を取得する。


いつか中級者向けを書きます。
それまでに初級編をマスターしていただければ幸いです。






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和田洋一
証券会社16年、ゲーム会社経営16年、2016年からベンチャーに関わる。 以下の3属性がランダムに顔を出します。 ゲーム業界ゴロ、経営専門職、ちゃんとした大人??