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吊り下げたい欲

 吊り下げるのが好きだ。吊るせるものなら何でも吊るしたい。
 それはすなわち一時期流行ったドリームキャッチャーや、植物を植え込んだハンギングバスケット、モビール飾りといったもののことだ。装飾品に限らず、調理器具もできれば全て吊り下げ収納にしたい。ニンニクや唐辛子を吊るして保存するのも大好きだ。
 
 思い出してみると、小学生の時夏休みの自由研究でも、団扇に鳩目を打って何かを吊り下げたものを作った気がする。それを何と銘打って提出したか覚えていない。ただ吊り下げたい衝動を素直にぶつけたことは間違いないと思う。

 でも、集合住宅、特に賃貸の場合、吊り下げる場所を見つけるのは難しい。東京の住居はまず狭いし、賃貸だと壁に引っ掛ける造作を施すのにかなり慎重にならざるを得ない。だから二十代の間、なかなか吊り下げ欲は満たされなかった。 今、カーテンレールや玄関の壁に私はいくつかのものを吊り下げている。宮古島で買った、ヒトデや貝や珊瑚で出来たドリームキャッチャー、新潟あたりでもうわずかしか作られていないという鯛の形をした紙風船、それから北欧メーカーの、馬が3頭追いかけっこをするように揺れるモビール、チュニジアの魔除けの土人形といったものだ。


 ものを吊り下げるのは、棚などに置くよりホコリが溜まりにくく清潔な感じがする。そこも好きだが、形容しがたいもっと強力な魅力を、私はあらゆる吊り下げられたものに感じる。

 やはり、重力から解放されたように見える軽やかさが良いのかもしれない。ぶら下がったものは風で揺れたり、不意に壁に思わぬ形の影を落としたりする。揺れ動くものは魅力的だ。人間も、迷い、揺れたってそれもまた生きる面白さなのかな。揺れることができるのは、自由だという証かもしれない。

 娘の雛飾りも、買ってくれるという両親に頼んで、郷里に近い福岡県柳川市の「さげもん」という吊るし雛を送ってもらった。節分が過ぎたら色とりどりの布人形が揺れるそれを飾るのが、毎春の楽しみになりそうだ。

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