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対話のススメ(聴くことに比重をおいた対話へ)


先日あるコーチングのコーチの方が「私はこれまで、700時間コーチをしてきました」と自分のことを宣伝していました。それをみて「すごいなー」と思うのと同時に、「自分はどれくらいコンサルティングをしてきたのだろう?」と疑問を持ちました。
それで、計算をしてみたんです。

◯休まないこともあるけれど、祝祭日・休日はしっかり休めたとして、
年間240日稼働したとします。

◯あまり大袈裟にならないように、その中でも
200日、1日1回だけコンサルティングをしたことにしましょう。
1回2時間なので、1年間で

2時間×200回=400時間。

◯独立前もコンサルタントでしたが、独立してからだけを計算します。
15年やってきたとすると、
400時間×15=6000時間(!)

自分で計算をして、驚いてしまいました。

実際は15年以上やっているし、休日仕事をすることもあるし、
1日2件以上アポイントがある日もありますから、
現実的な数字だと思います。

僕はどうやら、6000時間対話を続けてきたようです。

長く続けていることですから、それなりに「対話について」工夫をしてきました。それで、これを機会に、対話つについて気づいたことを書き留めておこうと思います。
この記事は対話について気づいたことを書く、記事の最初です。

「対話」は、組織づくりの鍵の一つになりますから、これから対話に興味を持つ人も増えると思います。その方のお役に立ちますように。


対話の種類(目的・効用)

対話は、「話をして聴く。聴いて話す。」だけの時間です。
シンプルです。ただ目的や効用を考えると、いくつか種類があると感じます。
僕なりに考える「対話の種類(目的・効用)」をまず書いておきましょう。


対話の形1:創造的対話。

対話は、勝ち負けを決める話し合いではないし、ある意見を押し通すために行うものでもありません。ディベートやディスカッションとは違う。上下はなくて、フラットな関係で進められるのがいいところだと思っています。

また、「対話の目的は、対話をすること」といわれることがあります。「延々対話し続けること」にも意味がある。ただ、ある結論を出すことはできますし、結論を求める対話もとても有用。その一つが「新しいアイデアを、創造する対話」です。

例えば、異性とデートするとします。相手のことがわからなければ、「映画に行く」ような普通の計画を立てるしかできません。でも、「相手は和菓子が好き。日本の伝統文化に興味を持ってる。最近和傘について調べてるらしいよ」と分かれば、デートのアイデアが変わってくるはずです。
シンプルな話ですがとても大事で、「状況や情報」が適切に理解できると、僕らはより適切なアイデアが生むことができます。

ビジネスで考えると、会社の中では人によって(立場や価値観によって)、見えている風景が違うものです。僕が経営コンサルティングをするとき、経営者さんが持っている情報と、事務員さんが持っている情報の違いにはいつも驚かされます(そして、事務員さんの情報の確さは、いつでもすごい。本当にすごい)。

それぞれが持っている情報を持ち寄ることで、1人で考えるよりもより広く物事を理解することができます。それは、適切な新しいアイデアを生む、確かな力になるんです。

また、対話を通じてアイデアを生むとと、対話に参加する人たちと「地続きのアイデア」になりやすいので、実行しやすくなるのもいいことだと思います。
僕はコンサルティングで、創造的な対話をとても重視していて、「場から、重要なアイデアや知見が生まれる」ようにと、対話の場に働きかけます。


対話の形2:意見の前提を理解できる。

生きていれば、人と意見が違うことはあります。ごく普通のことです。
ただ、違う意見との「出会い方(ぶつかり方?)」によっては、「対立的」になってしまうこともあります。それは気分のいいものではないし、どれだけ自己正当化したとしても苦しい。生産的なものでもありません。
でもだからといって、何でもかんでも受容的な態度をとるとか、愛想笑いをして「意見の違いをないことにする」のも、得策ではないと思います。それは、本来得られるはずの知見・見方を見過ごすことにつながるから。とてももったいないと思う。

こういうとき、対話的な態度になって、ひとつ相手に「その意見に至ったのは、どういう経験があるから?」と質問するだけでも違った見方ができるようになるかもしれない。

例えば僕は、Nikonの一眼レフを使っています。
友人がSonyのミラーレス一眼を使っていて「Sonyいいよ」「売れてるよ」「軽いし」と勧めてくれました。でも僕は、まだもう少しNikonの一眼レフを使おうと思っています。それは、高校生の頃はじめて使ったのがNikonの一眼レフで、それは大好きだったおばあちゃんが買ってくれたものだったからです。Nikonは僕にとって、思い出がある特別なブランドなんです。
それ話すと、友人は納得してくれました。対立しあった意見でも、その意見を持つに至った「理由」やその人が無意識に持っている「前提」を聴くと、少し違った見方ができるかもしれないのです。

もちろん、どんな意見でも前提を理解できれば受容できる、とは言いません。
けれど、いろいろな見方を知ることはできますし、いろいろな見方・意見をシェアし続けると、ある時不意に、もう少し深いと感じられる「新しい真実」「第3の見方」に突然行き当たることがあります。そのおかげで、対立が解消することもあるでしょう。こういう「相手とのつながりをつくる対話」もあって、有用なことだと思います。


対話の形3:その意見・アイデアの目的を明確にする。

経営者さんとおつきあいしていると、本を読んだりセミナーに参加したり、別のコンサルタントと付き合ったりして「あれをやりたい!」というアイデアを持ってきてくださることがあります。
そういうとき、一度立ち止まって「どうしてそれをやりたいのか」「何のためにやるのか」を対話しながら一緒に確認します。

僕らはそもそも「解決策体質」です。
すぐ「あれをやりたい」「これをやりたい」と解決のアイデアを持ちます。でも実は「なんのために、そのアイデアを実行したいのか」「自分がどんな問題を抱えているのか」よくわかっていないことも多いです。問題がわからないけれど、気配は感じている。それで「解決策」に飛びついてしまうのですが、でも本当のところ、自分に何が必要なのか明確にはわかっていません。

例えば、「今度旅行行こう!」と思うとます。それを実行するのもいいけれど、「どうして?何を目的に?」と考える。すると、「最近、旅行に行ってないし。日常がずっと続くのも飽きる」のかもしれない。としたら、そのことを家族や恋人、友人と話して「何かしない?」と考えると、旅行よりも自分達にフィットした、新しいアイデアが生まれるかもしれません。相手の気持ちを確認すれば、「家族や恋人と、親密な時間を過ごす」という本当の目的にぐっと近づけます。
「何のために」がわかると、よりフィットするようにアイデアに磨きをかけられるんです。

実は、仕事でも僕らは「今ここに問題を抱えている」を、大抵いつも感じているものです。
でも、あまりわざわざ立ち止まって「その感じている違和感が何か」を考えません。それで「感じている問題に近い、解決策」を見つけると飛びつきます。ただ、そのとき解決策は「近いけど、フィットしてない」ことも多い。でも、自分が飛びついた「解決策」が、自分のぶつかっている問題を明確にし再発見するきっかけになる。

「この意見やアイデアを、どうして自分はやりたいのだろう」
この観点で対話をできるようになると、解決策に振り回されず自分に戻ることができます。すると、人生もビジネスも大きく変わることが多いと感じています。


対話の形4:お互いの持っている情報を「平ら」に近づける。

「種類2と3」を進めると、対話の中で、お互いに持っている情報をシェアできます。すると、お互いの持っている情報の差を埋めていくことができます。
僕らが考えるためには情報が必要ですから、対話の中でより深く広く考えることができるようになります。


対話の形5:心理的な息苦しさを、解放できる。

対話で僕が注目している効用の一つに「うまくやると、心理的な苦しさを解放できる」があります。フィンランドの医療で行われている、「オープン・ダイアログ」をご存知ですか。統合失調症にも効果があるという、心理療法(といっていいかな?)のひとつです。

症状が出始めたら、「本人と家族と専門家複数人」とで、症状についての対話をします。患者さんの自宅で行うことが多いよう。どんな症状か。生活について何を感じているか。症状の周りになることを、家族も含めて対話する。専門家は、本人と家族の目の前で、症状の見立てについて話し合ったりもします。「オープン・ダイアログ」の中では、「その場でだけ通用する、言葉の新しい意味が生まれるたびに症状が変化する」などとも言われるようです(僕はそれ、実感としてすごく共感します。わかる。)
感じていることを他者と対話し、自分についてもお互いについても発見し、通じあう感覚が増えるたびに、心理的な病すら快方へ向かうのです。

対話 ー つまり、聴き合い、言葉にしあい、理解を少しずつ積み上げること ー によって、心理的な息苦しさを解放することができる。
それはビジネスにおいても、チームを作る上でとても有用だと思います。

さて。ここでは対話の目的や紅葉を、まず5つ書いてみました。
さらっと書くだけで、こんなふうに対話にはいろいろな効用があります。組織づくり、マネジメントにはとても重要なものだと感じます。


僕にとっての対話の意味

僕は経営コンサルタントです。あなたは、「コンサルタント」と聞くと、どんなイメージがありますか?「あやしい」というのをちょっと傍に置いてもらうと、もしかしたら「専門知識と経験を、クライアントに伝える仕事」と思う方も多いかも。

でも僕にとっては、少し違います。「知識を提供する」のももちろん仕事ですが、それ以上に「一緒に考える」「一緒に経営する」が仕事だと思う。それは、一人一人一社一社違うから、通り一遍のサポートだけではうまくいかないと思うからです。

それで対話を通じて、クライアントさんの「状況や、考え方、価値観、できること・できないことなどなど」を理解する。そのたび、自分もクライアントさんもより適切に考え、ビジネスをよりよくしていくことができると感じています。

つまり、対話は、コンサルティングの「方法」であると同時に、僕にとっては仕事「そのもの」だということ。クライアントさんへの理解を深めることを通じて、相手としっかりと出会うことができる。シンプルにいえば、対話の時間がとても好きなのです。


聴くことに重きをおいた、対話のススメ

そんな僕がおすすめしたいのは「聴くことに重きをおいた、対話」です。

あなたの会社でも「対話」を大切にしているかもしれません。ただ、僕の経験では、ただ「対話を大切にしよう」とだけ言ってしまうと、「話すこと」に重きが置かれることが多いと感じています。「何を対話で『話そうか』」と考えてしまう。
そのスタンスも間違ってはいませんが、より効果的にするならば、「聴き合う場」と設定した方が、いい場になることが多いようです。
「その場に参加するみんなが、聴くことに重きを置きながら、対話をする」です。

こうやって場を設定すると、誰かが話している時に、「次に何を話すか」を考えるよりも、「その時の話を聞く人」が目に見えて増えます。場の感じが変わるので、本当に見えるようです。相手の話に関心を向けている人が複数いると、その視線や意識はちゃんと場に溜まり、クリエイティブで安心感のある、いいフィールドが生まれます。

では、そんな「聴くことに重きをおいた、対話」をする時のポイントも、いくつかお話ししておきます。(ただ、ここまで文字数がとっても多くなっているので、今日はシンプルにします)


ポイント1:ともかく、正解でなくても自由に話せる場を作る。

まずは、できるだけ自由に話せる場を作ります。会社では、どうしても「自分の凄さをプレゼンテーションするモード」に参加者が入ってしまいます。すると「声が大きくて断言する、正解っぽいことを言う人の意見」が重視されがち。そうならないように、「正解かどうか自信のない、その場の感覚」を発現できるといいと思います。
このとき特に、管理者や先輩など、「チームの中で権力を持っている人」の振る舞いは大切です。みんなが自由に話せるようになるまでは、「権力者」や「いつも積極的に発言する人」が、聴くことに力を入れるといいと思います。


ポイント2:表面的な言葉ではなくて、その人の言葉で話すよう促す。

ビジネスには、よく意味がわからない、通じているか通じていないかわからない言葉がたくさんあります。
「戦略」「組織」「営業力」「相乗効果」・・・。最近なら「DX」みたいなものもそうでしょうか。何となく意味合いはわかるけれど、その言葉で何を言いたいのかはわからない。話している本人も曖昧だし、聴いている人も曖昧です。それで対話を進めると、地に足がつかない、なんの進展も深みもない会話になってしまう。

そういう「常套句」を使うのを極力避けて、「その言葉で、その人が言いたいことはなにか」と問いを向けられるといいですね。話を聞く人が「いま戦略的っていう言葉を使ったけれど、具体的には何を意味してる?」と質問してあげるのです。そうして初めて、話し手が何を言いたいのかが、伝わっていきます。


ポイント3:意見になる前の、非言語の感覚を重視してみる。

ビジネスでは、流麗にカッコよくプレゼンするのを求められる局面があります。
でも、対話の場では、まだ言葉になっていない感覚も話していいことにしましょう。
言葉になっていることは、すでに過去話され尽くしたことかもしれません。今起こっていることに近いけれど、ずれていることかもしれない。

僕らが「いま違和感を感じていること」と1つずつ向き合い言葉にしていくことで、いま現在進行形で起こっていることを理解することが多いと感じています。
しかも言葉が生まれる時、「そうそう。確かにそうなんだよ!」と共感を生みながら、話をしやすい。
上手なプレゼンテーション(or講演)モードで話すことも悪ことではありませんが、とつとつと確認しながら話すことで、到達できることがあって、それはとても大切なことであることが多いと思います。それによって「過去ではなく、今」の話ができます。


ポイント4:言葉の意味は、ずれて伝わると共有する。

「対話の場」だからといって、急に相手に言葉が通じやすくなることはありません。
人と人。同じような言葉遣いをしていても、違う意味で使っていることはあるものです。また、雰囲気や流れに流されて、わかっていないのに「わかったわかった」と話を先に進めてしまうこともあります(人情だと思います)。でもそれでは、話し合っていることがずれることがある。

大切なのは、「話し合っていることは、ずれることがある」「自信を持って話したことが、ずれていることがある」と対話の場のみんなが合意することだと思います。そうすると、話をしていて違和感として「ずれ」を感じ発見することがしやすくなるでしょうし、「あ、ずれちゃった」と少し照れながら(それが当たり前のこととして)、指摘したり軌道修正したりしやすくなります。

ずれたまま話すと、対立に発展したり、意味のある対話を続けられなくて息苦しくなったりすることもあるということ。
前提として、
・言葉は、ずつずれて使われることがあること。
・そのずれは、蓄積されて大きくなることがあること。
・ずれに気づけば「いま何について話しているんだっけ」と修正ができること
を共有しておくといいでしょう。


ポイント5:とにかく対話を始めてみる。

対話を難しく考えずに、とりあえず対話型で話をする時間をもつと面白いと思います。
参加する人たちの持っている知見と、思考力を上手に使って、新しいアイデアを生み出す場です。

まずテーマを設定しましょう。
たとえば「いまこのチームに起こっている問題は何か」でもいいし、「チームの人たちの誕生日を祝いたい」でもOK。
テーマは、少なくとも誰かが「これは話した方がいい」と思えるテーマがいいと思いますが(誰も話したくないテーマを選んでも、あまり深まりません)、誰かが大事だと思えることなら、どんなテーマでもいい。「もしかしたら、無意味かもしれないけれど、なんか気になることがあるんだよね」でもOK。そう言う場合は、非公式に誰かと対話するのもいいと思います。言葉になる前の感覚で人と話せるなんて、いい職場です。
ともかくそうやってテーマを設定したら、関係者の時間をとって、対話をしましょう。
僕がお勧めしたいのは、少し長めで、でも長すぎない時間を設定して対話をすることです。

対話やディベートやディスかっしょなどなどの、話し合いの形式は、状況に応じて使い分けたらいいと思っています。でも僕は、その中でも対話を、とてもおもしろく有用だと感じています。

対話については知見が溜まっているので、また書くと思います。

吉井りょうすけ

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