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マーケティングにおける環境分析のこれから

ウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングにおいて、環境分析は欠かせないものですよね。ウェブ解析においても、ビジネス解析を行う上で様々なフレームワークを用いて分析を行います。今回は、そんな環境分析にフォーカスしてみたいと思います。

環境分析のフレームワーク

いきなり、「事業を取り巻く環境を分析しろ」と言われても何をしたらいいのかさっぱりですよね。そこで登場するのがビジネスフレームワークです。どんな情報を整理して、何を考えるべきかを示してくれる=考えるための補助ツールがフレームワークです。
フレームワークはたくさんの種類がありますが、ここでは環境分析に絞ったフレームワークをご紹介します。

外部環境分析

外部環境を分析するフレームワークの代表例はPEST分析5Force分析でしょうか。5Force分析については過去に詳述した記事があるのでそちらを参照ください。

PEST分析については、公式テキストの内容を参照してみましょう。

PEST分析は、法規制や税制などの「政治的要因(Politics)」、景気や為替などの「経済的要因(Economy)」、人口動態や生活者のライフスタイルの変化などの「社会的要因(Society)」、特許や新技術開発などの「技術的要因(Technology)」の4つの項目から整理します。注意点は、網羅的に行おうとすると膨大な情報量となるため、対象事業に深く関係した事象だけにフォーカスすることです。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

自社の事業に影響のあるマクロ的な環境要因を4つの切り口で整理していこうという枠組みですでね。公式テキストには下記のような事例が載っています。

PEST分析で重要なのは環境要因(環境の変化)から自社の事業にどのような影響をもたらし、成功要因がどのように変化していくのかを見定めることです。
例えば、ウェブ解析士協会の人材育成事業で「Zoomなどのテレワーク技術が普及」という環境要因(環境の変化)によって、オンラインでの受講がPOD(差別化要素)ではなくPOP(同質化要素)になっていきます。
オンライン講座の開講は他の講座に対する優位性を保つ手段ではなく、開講しなければ想起集合に入ることができない必須の課題となります。
そうなると、成功要因はオンラインにおける講師対受講生(一対多)のコミュニケーションの円滑さなどに変化していきます。
といった具合に、「環境要因」→「事業への影響」→「成功要因の変化」を見つけるのがPEST分析において重要なことだと言えます。

外部環境+内部環境分析

上記のPEST分析を行う目的は、市場における機会と脅威を見つけることだったりします。まぁ、整理して終わりというわけにはいかないですもんね。機会や脅威を見つけることで戦略立案や戦術構築に活かそうというのがフレームワークを使う目的になります。成功要因が見えたとして、その成功要因を手にすることができるか否かは自社のリソースと合わせて考えなければなりません。
と、いうことで、PEST分析で整理した外部環境が自社の事業にとって機会となるか脅威となるかに分けた上で、自社の強みと弱みを把握しようというのがSWOT分析です。

「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の頭文字を取った名称で、内部要因と外部要因を整理します。SWOT分析の各項目の内容は次のとおりです。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

かつ、強みや弱みと機会・脅威を掛け合わせて状況を解釈して戦略へと導くために行うのをクロスSWOT分析と呼びます。テキストでは以下のような例が挙げられています。

これまでの環境分析の欠点

上述してきたPEST分析やSWOT分析を用いた従来の環境分析では、変化の激しい現代において欠点があると指摘するのは牧田幸裕氏です。氏の指摘する欠点を下記してみます。

「過去」を重視している

PEST分析やSWOT分析は、分析時点で観測されている変化を元にしています。言い換えると「過去」の変化を根拠として未来を予測しているということですね。
これは、「過去」と「未来」が直線でつながっている場合は十分に機能します。これまでのマーケティングで重宝されてきたことからそれは明らかですね。しかし、ガラケーからスマートフォンへの転換があっという間に行われたり、Chat-GPTの登場でシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えたり、Web3が登場したりと、今までの軌跡とは隔絶して未来が紡がれるような現代ではうまく機能しないかもしれません。

因果関係の太さを重要視

もう一つの欠点が、因果関係の太さを重要視している点なのだそうです。
牧田氏が挙げている例を見てみましょう。
「風が吹けば桶屋が儲かる」というロジックを分解してみます。

風が吹く → 砂が舞う → 砂が目に入る → 失明する → 目の不自由な人は三味線で生計を立てる → 猫の皮が必要になる → 猫が減ってネズミが増える → ネズミに桶を齧られる → 桶屋が儲かる

「風が吹く→砂が舞う」はかなり高い確率で再現できそうですよね。このような確率が高そうな事象を「因果関係が太い」と判断するそうです。一方で、砂が目に入ったくらいで失明する確率は極めて低いです。この場合、「因果関係が細い」と判断するのだとか。
従来の環境分析では「因果関係が太い」ということをもとに結論を導き出していきます。しかし、いくら因果関係が細いとはいえ特定の条件下では再現される事象です。その再現される事象を想定しないというのでは、変化の激しい現代においては不安が残ります。

これからの環境分析

これからの環境分析ではまず未来を定義することから始めるべきなのだそうです。
例えば、「完全な自動運転機能つきの自動車の普及」という未来を定義します。しかし、環境要因を洗い出すと、現段階で実用化されているのは運転サポート機能程度ですし、自動運転に対応する法整備もままなりません。
従来の環境分析では、このような状態は「因果関係が細い」と判断し、未来を予測する根拠にはなり得ないと切り捨てます。しかし、これからはこのような状況も「弱いシグナル」として、条件さえ揃えれば太い因果関係を形成する可能性があると考えるべきなのだとか。
このように、「未来を定義した上で、どのような条件下で細い因果関係が太くなるのかを考えていくのが環境分析に必要なことだ」という考え方をFOA(Future Oriented Analysis)というそうです。

まとめ

環境分析を行う上で、PEST分析やSWOT分析が有用なのはいうまでもありませんね。しかし、現代においてそれらが抱える欠点にも目を向けて実務を行う必要があります。
過去の連続として未来があるという今までの前提が崩れ、過去と隔絶して新しい技術や変化が表出するような現代では、未来を仮定して、そこに至る要因を因果関係と太さに関わらずあらゆる可能性を想定しなければいけないようですね。
まぁ、いずれにせよ「成功要因(ドライバー)を見つけ、事業に貢献する」ことが、これまでもこれからも変わらないマーケティングに携わるものの使命だと思います。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございます。
以前ご紹介したエフェクチュエーションもそうですが、今後は「未来の不確実性」がキーになってきそうですよね。
不確実な未来にどう対処するのか、あるいは予測領域をどのように広げるのかというのがマーケティングを成功に導くための課題になりそうですね。
FOA、「中の人」は初めて知った概念ですが、「未来を定義する」というファーストステップがかなり技量が要るというか、難しそうだなぁという印象です。(笑)なので、PEST分析を用いて「弱いシグナル」を見落とさないように気を配ることから初めてみようと思います。

今回の参考文献はこちらです。

それではまた来週お会いしましょう。

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