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ファクトベースで思い込みを脱ぎ捨てる ファクトフルネスという考え方

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
こう、毎週毎週記事を書いているわけですが、1週間を怠惰に過ごしているとネタが見つからないものなんですよ。そう、このnoteに「怠けるなよ」と監視されているような状況です。(笑)
しかし、ありがたいことに、今週はとある方からお題をご提供いただきました。
先週の認知バイアスに関する記事をご覧いただいて、「個人が認知バイアスに抗うのに”ファクトフルネス”って使えませんか?」というお便りをいただきました。
ということで、改めてファクトフルネスについて勉強してきたので、今週はファクトフルネスのお話です。
先週の記事はこちら↓

ファクトフルネスとは

さて、まずは「ファクトフルネス」についてご説明しないとですよね。デジタルマーケティングに携わる方なら聞いたことがある単語だと思います。
簡単にご説明すると、データを正しく読むことで”思い込み”を乗り越え、世界を正しく捉えるための考え方です。
先週の記事では「認知バイアス≒思い込み」と表現しました。そして、ファクトフルネスは思い込みを乗り越えるための考え方。ふむ、確かに認知バイアス克服のために利用できそうですね。

ちなみに、ファクトフルネスでは下記10この”思い込み”が紹介されています。

「分断本能」 二項対立で考えてしまいがち
「ネガティブ本能」 良いことより悪いことに注目しがち
「直線本能」 数字の推移を直線で考えがち
「恐怖本能」 リスクを過大評価しがち
「過大視本能」 一つの事例・一つの数字で判断してしまいがち
「パターン化本能」 一つの事例が全てに当てはまると考えがち
「宿命本能」 現状を”そういうもの”として正当化しがち
「単純化本能」 物事に一つの原因・一つの解答を求めがち
「犯人探し本能」 悪いことがあると、誰かが仕組んでいると考えがち
「焦り本能」 緊急なことに対して、十分な分析をせずに行動しがち

ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』の内容の「中の人」的解釈

ファクトフルネスでは、こういった事実を誤認するように働く本能を抑えながら、データを”正しく”読み取り、状況を”正しく”理解することで”正しい世界”を見ることができるとしています。

ドラマチックな世界

さて、事実を誤認するように仕向ける本能ですが、ヒトが狩猟生活をしていた頃から積み重ねた進化の賜物なんだそうです。すぐそこに、命の危機があるから、判断しやすいように物事を単純化して捉え、リスクを回避するために悪い方向に意識を傾けるということのようです。
FACTFULNESSの著者で公衆衛生学者のハンスは、こうした本能に囚われたまま見た世界を「ドラマチックすぎる世界」と称しています。
ドラマチックすぎる世界の見方をしていると、物事をありのままに捉えることができなくなるのだとか。そこで、ハンスが提唱しているのが、事実(FACT)に基づいて物事を捉えること=FACTFLUNESSということだそうです。

数字は大切だけど……。

その事実(FACT)をどう導くかというと、「印象や直感に頼らず、統計情報などの数字をもとに考えるべきだ」とするのがFACTFULNESSです。なので、基本的には客観的事実≒(統計的な)数字がFACTそのものになります。
しかし、同時に以下のようにも説いています。

数字は大切だが、数字だけに頼ってはいけない。数字を見なければ世界を知ることはできないが、数字だけでは世界を理解できない。数字が人々の生活について何を教えてくれるかを読み取ろう。

ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』

「数字を扱う我々ウェブ解析士は肝に銘じておかなければいけないな。」なんて思っていたら、ちゃんと公式テキストに記載されていましたよ。しかも最初の最初でガッチリ釘を刺してくれていました。

(前略)たくさんの情報を得ることができます。でも、その数字の意味を理解しないとほとんど役に立ちません。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2022』”P3"

さらに釘を刺してくれるのが、デジタルマーケティングに携わる方なら一度は読んだでしょう、垣内勇威氏の著書『デジタルマーケティングの定石』ですね。

データだけからは、行動の理由がわかりません。顧客の心理を読み取ることもきわめて困難です。(中略)「データは添えるだけ」くらいがちょうど良いのです。

垣内勇威『デジタルマーケティングの定石』

これだけ釘を刺す人がいるということは、陥りやすい落とし穴なのでしょうね。それこそ、「データを見れば全てがわかる」くらい”とんでもない”勘違い=思い込みは避けなければなりません。

平均はばらつきを隠す

「中の人」が個人的に『FACTFULNESS』の中で好きな章が、データの見方の中でも「平均はばらつきを隠す」という箇所です。
どういうことか、簡単な例を挙げて考えてみましょう。

1. 平均貯蓄は1000万円でした。
2. 9割の人が貯蓄は0円と回答しました。

全く印象の違う数字が並んでいますよね。①はみんな「そんなに貯蓄しているのか〜」と思いますし、②に至っては「え?みんなそんなに貯蓄しないの?」って思うかもしれません。
でも、これらは、どちらも同じデータで切り取り方を変えただけなんですよね。この二つの数字のルーツはこんなデータかもしれません。

10人に貯蓄額を聞いた結果、以下のような回答となった。
貯蓄額 1億円:1人
貯蓄額   0 円:9人

①の数字も、②の数字も嘘はついていないですよね。じゃあどちらもFACTなのかというと、そうではないと「中の人」は思います。
平均貯蓄額1000万円は確かに嘘ではありませんが、回答者の中にそんな人はいません。
もし、あなたがマーケティングの責任者で、回答者が自社のユーザーだったとしましょう。この平均貯蓄額だけをみて、「よし、平均貯蓄1000万円の人がコアターゲットだ」と舵を切るとどうなるでしょう?想像しただけで恐ろしい……。まぁ、本来であれば、この貯蓄額1億円の人は「外れ値」として集計から除外すべきなのですが。
数字がFACTだという思い込みも危ういということに改めて気づきます。

数字の裏を読む

じゃあ、FACTってなんなのか。数字がFACTに近いものなのですが、その数字が何を意味するのかという根源がFACTなんじゃないかなと思っています。上の例でいくと、回答集計前の生のデータがFACTです。集計結果は「FACTらしきもの」になってしまっています。
で、FACTFULNESSと言いながら、実は同じくらい「妄想力」も必要です。
「なぜこの結果になったのか」「この数値は正しいのか」と懐疑的に批判的に考えながら、数字が意味するものを妄想で補っていく必要があるのです。「数字だけでは世界を理解できない」のですから。
公式テキストでも、欠損したデータを妄想で補うという手法が紹介されています。

私たちは欠損したデータから人の気持ちを妄想し、あらゆる人情の体験を作り出せます。しかし、人情には弱みがあります。それは、アーカイブ化されないこと、そして再現が難しいことです。
そして、私たちウェブ解析士は、その人情の体験をウェブの中で保存することによって、何度も再現できるようになるのです。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2022』

マーケティングは数字との戦い

「中の人」は事業会社出身のマーケターなのですが、事業会社でマーケティングをしていた頃、本当にたくさんの数字に追われていました。(今でもことあるごとに数字と睨めっこをしています)
必要なのは、どの数字がFACTに近く、どの数字が必要(重要)なのかを見極めることです。どんなにFACTな数字であってもKPIやKGIと関係のない数字であれば、それについてあれこれ考えるのは時間の無駄でしょう。一方で上述した「平均の例」のようなFACTではない数字に踊らされていては成果は上げられません。
数字の力を利用したマーケティング手法はたくさんあります。
例えば、森岡毅氏の『確立思考の戦略論』は数学をマーケティングに応用した代表例ですし、マーク・ジェフリー氏の『データ・ドリブン・マーケティング』はマーケターが最低限気にすべき15の指標を紹介していくれています。また、「中の人」がマーケティングに携わり始めた当初、読み込んで模倣した丸井達郎氏の『「数字志向」のマーケティング』もどうやって数字を組み立てていくかについて示唆に富んでいます。
(ちょっと文字数が多いので、この辺りは機会があれば本の紹介とともに別の記事にでもしてみますね。)
マーケターにとって、数字は見るものではなく、読むものです。そして、ウェブ解析士であるならば、その数字から読み取れない「欠損したデータ」を妄想で補って、施策に活かしていくことが求められます。
「中の人」みたいな文系出身にとっては脳に汗をかく瞬間でもあります。もう、本当に戦いですよね。(笑)

(余談)FACTFULNESSとMINDFULNESS

ファクトフルネスと似たような(?)言葉にマインドフルネスというものがあります。これは、禅などの考え方に近いものなのです。皆さんもご存知の通りビジネスにも活用されるようになってきました。なぜかというと、認知バイアスを取り除くのに一役買うからなのだそう。
マインドフルネスは「今この瞬間」に意識を傾斜しながら、広く周囲の状況に注意を払っている状態を指すそうです。周囲の環境の”今”に意識を傾けるので、バイアスなく周囲の今この瞬間をありのままの状態で受け入れられるというロジックです。
それで、マインドフルネスを身につけるにはどうするかという話です。なんか勝手なイメージですが、座禅なんかをしながら心穏やかにするイメージあるじゃないですか。でも、「修羅場」を幾度も乗り越えることが習得への近道なんだそうです。「”今その瞬間”の周囲の状況に意識を向けないとどうにもならない」そんな状況を経験することで、本質的にマインドフルネスにたどり着けるそうです。
ファクトフルネスも誤った世界の見方を矯正する手段ですし、マインドフルネスもバイアスを取り除いて世界を見る手段です。マインドフルネスな状態で、ファクトベースで思考するとめっちゃ強そう。という「中の人」がどうしても書きたかった余談です。(笑)

まとめ

ファクトフルネスとは、事実(FACT)に基づいて正しく世界を見る手法です。FACTとは数字によって表現されることが多いですが、数字を鵜呑みにするのは危険だということも記してきました。例えば、「平均」が数字の偏り・ばらつきを有耶無耶にしてしまうことがあることに留意しなければなりません。思い込みを脱ぎ捨てて、本能に騙されることなく、ありのままの状況を理解するというのがファクトフルネスということなんだと理解しています。
「中の人」は仮説を補強するときに、もちろんアクセス解析データも用います。それ以外では、ペルソナの正当性を検証したり、需要予測を立てる際などは2次データもよく活用します。できるだけFACTベースで考えられるように信憑性のあるデータを集めるように意識しています。例えば、国勢調査のような行政組織やそれに準ずる団体が公表している統計データなど。加えて言えば、メディア発表用資料ではなく、調査資料そのものを拾います。場合によっては自分で集計作業を行ったりもします。
しかし、数字は結果を教えてくれてもその過程や背景は教えてくれません。例えば、ある地域において、ある世代を境に人口減少に転じているという事実はわかっても、その理由はまた別の調査資料に目を通すか、妄想で補うほかありません。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
さて、冒頭でも記しましたが、今回はお題を提供していただきました。ネタ探しに苦労する日々なので本当にありがとうございます!
とはいえ、今回の記事が、いただいたご要望に沿うことができたのか、疑問に感じています。なぜなら、「中の人」が書きたいように書いてしまったから。(笑)あの、お題のご提供者様、本当にちゃんとお勉強はしてきたので、どっかでお話ししましょう……。

で、最後にもうひとつ余談を。私が『FACTFULNESS』を読んで最も共感したのが、下記の文章です。

せっかく金持ちになっても、いたずらにいたずらにおカネを使うのであれば意味がない。せっかく長生きしても、いたずらに時間を過ごすのであれば意味がない。平均所得を高め、平均寿命を伸ばすことが大切ないちばんの理由は、それによって人々が好きなことを楽しむ自由を得られるからだ。

ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』

そうなんだよなぁ。としみじみ思ったという読書感想でした。

では、また来週お会いしましょう。

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