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絵師担当:つちもちしんじ「下町百景×版画プロジェクト」

日本のありふれた日常の風景や文化風俗を切り取った浮世絵、新版画の文化がついえて久しい現代に、実験的な表現を取り入れた新しい版画を作ってみようというプロジェクトが始まりました。

僕は版元の柏木さんから、絵師の一人としてそのお誘いを受け、プロジェクトの内容を聞いた時、ぜひ参加したいという気持ちになりました。なぜかと言うと、僕自身も日頃の作品を浮世絵のような版画にしていく出口がないか、その方法をずっと探していたからです。僕が描くものはデジタルであり、本やポスター、グッズなどに印刷は出来ても完全なオリジナルという物が存在しません。その解決方法は版画であることは分かっていたのですが、さらに自ら彫ったり摺ったりする能力はなく、夢々憧れていたことでした。そういう訳で、僕にとっても欠けていたパズルのピースがはまるような思いで挑戦することにしました。

版元が構想から地道に人を集めて、版画の行程に必要な絵、仕立て、彫り、摺りをそれぞれ担当する人たちが揃いました。
現在も版画の完成に向けて試行錯誤の真っ最中で、無事に雛が産まれるかと大事に温めている卵の状態です。あまり類例のない事でもあり、版元にその時々の雑感を忘備録としてnoteに残しておきましょうと提案しました。

言い出しっぺなりに厚かましくも自己紹介も兼ねて、今までの個人の活動からこのプロジェクトに参加する思いを上手く伝えられるかはわからないけれど、少し書いてみようと思います。


僕が東京の風景を描く「下町百景」というシリーズを始めたのは、2013年の6月だから、もう6年も前のことになります。30歳を過ぎ心機一転、実家を出て谷根千の景色に憧れて日暮里に住んでいた頃です。それから下町を歩くことを始めて、浮世絵の風景画のように歩いた景色を続き物で絵にしていくと楽しいかなと、ふと思ったことがきっかけです。

谷中の老舗「カヤバ珈琲」。この静かな佇まいに惹かれた。

タイトルは尊敬する浮世絵師、歌川広重の「名所江戸百景」に倣ったもので、はたして百景も続くものかと思いながら始めましたが、3年かかってしまったものの何とか完結することが出来ました。今も形を変えながら街歩きをして絵を描く生活を続けています。その下町百景でやってきた事をさらに具体的な表現方法として地続きにしていく事が、僕にとってのこのプロジェクトの課題じゃないかなと考えています。